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【判例】入社手続き中に採用が取り消された場合、労働関係は存在したと見なされるか?(2016年12月27日)

案例:

2013年6月27日、孫氏は某社の面接に臨んだ。会社側はその日のうちに孫氏へ採用通知書を送付し、2013年7月1日午前9:30に来社するよう求めた。2013年7月1日、孫氏は約束通り来社し、会社側の指示のもと入社手続きに入った。しかし会社側の提示した採用に関する書類への回答期限を巡って意見が対立し、会社側の人事担当者は孫氏へ、もし採用関連書類について不審に感じた場合は、入社しなくてもよいと伝えた。会社側の人事部は、最終的に孫氏の入社手続きを行わず、また会社側も職位を用意しないまま、孫氏は午後12時前後に会社を去った。

 孫氏は、自身が面接に臨んだ後、会社側には労働契約を締結する意思があり、また自身へ職務に就くよう求めたことから、会社側は労働関係を自発的に成立することを約定したに等しい。その上で、自身は2013年7月1日に出社しているから、労働関係成立の承諾があり、これによって当日に労働関係が成立している。労働関係の存在の有無については、書面による労働契約の締結を要件としていない、主張し、会社側へ賃金の支払いと労働者たる地位の確認を求めた。これに対し会社側は、双方が労働契約を締結する上で食い違いがあっただけで、労働契約も労働関係も成立していないと反論し、双方間に争いが生じた。

争点: 

「労働契約法」第7条には、「使用者が労働者を使用した日をもって労働関係が成立するものとする」と規定されていることから、労働関係は使用者が実際に労働者を使用し、労働者が実際に労働を提供した日に発生することが見て取れる。それでは、 入社手続き中に会社側が採用を取り消した場合、双方間に労働関係が存在した事になるのか?

分析: 

この案件は仲裁から訴訟へと発展し、最終的に法院は孫氏の訴えを認めなかった。

「労働契約法」第7条には、「使用者が労働者を使用した日をもって労働関係が成立するものとする」と規定されている。本案件において、会社側は2013年6月28日、孫氏へ採用通知を出している。その内容から、採用通知は採用意思の告知に過ぎず、双方が労働関係を成立するには更に必要な材料を揃え、労働契約への署名とこれに付随する専門的事項に同意し署名するなどの手続きが必要であることがわかる。2013年7月1日、孫氏は確かに会社へ出社したけれども、入職手続き中双方に食い違いが発生したため、会社側は労働契約に署名し職位を用意せず、また労働者側は会社のために労働を提供せず、双方間に労働関係は発生しなかった。孫氏は採用通知と自身が出社したことを根拠として労働関係があると主張したが、これでは証拠に不足している。そのため法院は、双方間に労働関係無しとして、孫氏の訴えを棄却した。

当然、この問題についても、異なる見方が存在している。それは、求職者は採用通知の記載を見て時間通り出社したのだから、使用者の規定に基づき入社手続きを始めた時点で、使用者の労務管理を受けていると見做す、というものである。この説では、実務上「ある労働者が実際に労働を提供したけれども立証が困難である」「既に労働契約を締結していながら労働者が労働を提供せず、使用者側の立証が困難である」状況は起こりうるから、労働者側が実際に労働を提供したかによって労働関係の存在の是非を決定できるものではなく、入社手続きを行った段階で双方に労働関係があったものと見なすべきである、と主張する。

まず、上述の通り、採用通知および採用に関する書類等は採用の意思を告知するものであり、労働関係成立の手続きの一部である。

次に、労働契約の締結に当たっては合法性、公平性、平等性、自主性、双方による合意、そして誠実の原則を遵守しなければならず、労働契約が最終的に締結されなかったという事は、双方間で労働契約を成立しない意思が一致していたことを意味する。

また、書面による労働契約が締結されていない場合、労働関係が成立しているか否かは使用者が実際に労働者を使用したか否かで判断すべきである。

最後に、採用された者が採用通知を見て出社するのは、使用者の労働関係成立の意向を信任したということだから、これについては一定のコストがかかっていると見るべきである。特に採用通知を受け取った後、元の会社を離職した労働者にとってその損失コストは大きなものとなる。ゆえに、入社手続きにおいて使用者側から採用を取り消す行為は、誠実信用の原則に反するものとして使用者側へ相応の過失責任を負わせるべきであろう。