ホーム > HRニュース > 中国HRニュース> 【判例】労働者が残業後宿舎で突然死した場合、会社側はその責任を負わなければならないか?(2017年2月28日)

【判例】労働者が残業後宿舎で突然死した場合、会社側はその責任を負わなければならないか?(2017年2月28日)

案例:

2015年4月1日、李氏は江蘇省昆山市にある某電子会社へ入社した。同年12月12日、李氏は12日深夜1時まで残業し、宿舎で休息を取っていた。12日23時頃、ルームメイトの朱氏は李氏がベッドから起き上がらず、出社していないことを怪しく思い、出社時間だと呼びかけたが、李氏が昏睡状態にあることを知り急ぎ警察へ通報した。医療機関は、李氏はその場で突然死したと診断した。

 その後、李氏の父母は法院へ提訴し、会社側へ李氏の死亡にかかる損害賠償金、扶養にかかる費用、埋葬料など計86万余元の支払いを求めた。

争点: 

使用者が労働者を深夜まで残業させた後、当該労働者が宿舎内で死亡した(職務中の死亡ではない)場合、使用者は損害賠償の責任を負うこととなるか?

分析: 

一審は、李氏が退社後宿舎内で死亡した件について、死亡の原因が明らかにできず、我が国の「工傷保険条例」に規定する労災に該当しない。また、現有の証拠では会社側の李氏の死亡に対する過失を認めることはできないとして、原告の訴えを退けた。

李氏の父母は一審を不服として、中級人民法院へ控訴した。

二審の中級人民法院では、2015年12月11日、すなわち李氏が急死する前日、李氏は16時から24時までの業務の他に、1.5時間の時間外労働を命じられていたことが明らかになった。事件発生後の公安機関の調査記録によると、李氏は12日深夜1時半に退社した後すぐ宿舎に戻り、途中健康を損ねるような活動を行っていない。公安機関は、李氏の死因について、刑事案件及び他殺の可能性はなく、医療機関の初期診断により突然死であるとしている。また、李氏は2013年6月に受けた健康診断の結果から、平常時身体に疾病はなく健康であったことが分かっている。

二審法院は、我が国の労働法によると、特別な場合を除き、使用者が一日に命じる時間外労働は一時間を超えてはならないとしている。会社側は事件当日李氏へ一時間以上の時間外労働をさせる特別な事情があったことを証明しておらず、また李氏の健康を保障するための措置を取っていない。李氏の父母が法院での答弁後司法鑑定を申請していないとはいえ、業務が厳しくストレスも大きい中不規則な出勤を繰り返せば身体的に悪影響を及ぼすことは、社会通念上医学的常識として知られている。会社側が李氏の健康管理を軽視し、その合法的権益を侵したことは、権利の侵害行為に当たり、かつ過失が存在すると言える。 本案件において、現在提出されている証拠では、会社側が深夜1時まで時間外労働をさせたことと李氏の死亡とに直接の因果関係があるか結論を出すことはできないが、李氏の突然死と一定の関連性があると認められ、また日常的行為からも、この因果関係を排除することはできない、とした。最終的に二審は、突然死の原因には李氏の身体的素質や健康管理など多くの要素が関係しており、多因性や一定の偶発性も含まれる。このように原因を特定できない状況下にあっては、証明責任の分配規則と公平合理の原則から、会社側の李氏の死亡に対し負うべき賠償責任の40%を酌量するとし、会社側へ李氏の父母に対し損害賠償金など計23万元の支払いを命じた。

分析: 

そもそも突然死とは何か?WHOはこれを「平素は身体的に健康であった患者が、思いがけず短時間内に、自然疾病を原因として突然死亡すること」と定義づけている。大多数の一般的労働者に言わせると、突然死には厳しい業務や不規則な勤務時間が関係しているものである。

かつて散見されるだけであった労働者の突然死は、現在増加の傾向にある。労働者が突然死した場合、労働者の合法的権益をどのように保障すればよいだろうか?会社側はこれに対する責任を負わなければならないのだろうか?

我が国の法規定によれば、もし労働者が就業時間中及び就業中に突然発病し死亡した場合、または48時間以内に救命措置を取ったが死亡に至った場合を「業務による死亡」と定義している業務による死亡には職業病による死亡を含み、労働者が就業活動やそれに伴う活動を行っていた際に、事故や職業病によって死亡することを言う。これらは労災の範疇に含まれる)。業務による死亡とみなされる場合も、労働者及びその親族は業務による死亡と同じ扱いを受ける。 しかし、もし労働者が退社後に死亡した場合は、業務による死亡とはならない。この場合如何にして労働者の権利を法的に保障するかが、この案件における重要な問題点であった。

「中華人民共和国侵権責任法」第二条によれば、「民事的権利を侵害したときは、本法に基づき権利を侵害したことへの責を負う。本法に定める民事的権利とは、生存権、健康権…」とあり、同六条には「行為者が過失により他人の民事的権益を侵害したときは、その権利を侵害した部分について責を負う」とある。労働者が退社後突然死した場合は、業務による死亡とはならないが、遺族は業務による死亡と同じ権利を受けることができない。しかし使用者による権利の侵害が労働者の突然死を招いたとすれば、遺族は上記の法規に基づき使用単位による権利の侵害責任を追求することができる。

このような労働者の退社後の突然死(に対する損害賠償)について、学界では現在人身への損害に基づく賠償金の支払いであるとの説が有力であり、権利の侵害を適用した事例はほぼ見られなかった。今回の二審の判決は、新たな法の適用により、労働者の合法的権益を保護し、同種の案件について労働者とその家族へ一つの道を示したものであると言える。