【判例】 退勤後の兼職は労働契約解除の法定事由となるか?(2018年1月31日)
案例:
楊氏は2016年10月1日A工場へ入社し、機械修理工として月3300元の賃金を受け取っていた。双方は2016年10月1日から2017年9月30日を期限とする労働契約を結んでいた。楊氏は2016年12月1日より、A工場を退勤後上海市内の某ピザショップで販売の仕事を始め、店側と兼職労務協議を締結した。店側は「成果給」に基づいた報酬を得るというだけで、ノルマも設定されなければ店側の規則制度を遵守する必要も無かった。また、楊氏は好きに離職することができるとされ、前日までに経理へ申請さえすれば、離職手続きを取る必要は無かった。
2017年4月25日午後10時頃、楊氏はピザショップでの仕事を終えて帰る途中交通事故に遭い、タクシーに轢かれ大腿部を骨折した。警察はタクシードライバー側に全責任があると認め、楊氏に責任は発生しなかった。2017年6月6日、A工場は楊氏に対し、他の使用単位(ピザショップ)と労働関係を結び、かつピザショップからの帰宅途中に遭った交通事故により大腿部を骨折したことでA工場で正常な業務を行えなくなったことが、A工場の生産業務に深刻な影響を及ぼしたとして、労働契約法規定違反を理由に楊氏との労働契約を解除した。
楊氏はこれを不服として、労働人事争議仲裁委員会へ労働仲裁を申し立て、A工場に対し不当な労働契約解除に対する損害賠償金の支払いを求めた。
争点:
楊氏側の主張:ピザショップとは兼職労務協議を結んでおり、双方間には兼職労務関係があった。このことはかつてA工場の工場長に了承を得ており、またピザショップの経理も双方間に兼職労務関係があると言っている。また、交通警察は楊氏に事故の責任が無いと認めており、楊氏がそのときの怪我によりA社へ出社できなくなったのは、自身が望んでそうなった訳ではない。ゆえにA工場の労働契約解除は法的根拠を欠き、違法であると言える。
A工場側の主張:楊氏はすでにピザショップと全日制で使用される形式の労働契約を締結している。楊氏はピザショップからの帰宅途中交通事故に遭い、大腿部を骨折したことでA工場での正常な業務ができなくなった。これが工場の生産過程に重大な影響を及ぼしたため、工場側は楊氏との労働契約を解除した事に何ら違法性はないと認識している。
判決:
仲裁委は、法律の規定によると、労働契約解除について争いが発生したときは、使用単位側に証明責任がある。A工場は、楊氏と他の使用単位とが労働関係を結んだこと、及び交通事故が原因でA工場で正常な業務ができなくなったことを証明できていない。A工場が証拠を挙げることができなかったことから、A工場の楊氏との労働契約解除には法的根拠に欠け、不当な労働契約解雇であると言える、ゆえにA工場は、「中華人民共和国労働契約法」第八十七条の規定に基づき、李氏へ不当な契約解除について賃金の二倍の額の損害賠償金を支払えとの裁決を言い渡した。
分析:
「中華人民共和国労働契約法」第三十九条では、労働者が同時に他の使用単位と労働関係を結んでおり、当該使用単位の業務遂行に重大な影響が出たとき、または使用単位から指摘あったにも関わらず改善が見られなかったときは、使用者は労働者との労働契約を解除できるとある。本案件は、楊氏がピザショップと労働関係を締結しているか否かが鍵となる。
非全日制の労働者とは、主に臨時的に使用される労働者を言う。「中華人民共和国労働契約法」第六十九条規定によれば、非全日制で使用される労働者は一のまたは一以上の使用単位と労働契約ができる。但しここで言う「使用単位」とは、非全日制で使用される形式で労働者と労働関係を結んでいる使用単位を言い、労働契約も非全日制での使用に基づいて履行される。A工場が既に李氏と全日制の労働関係を結んでいる状況にあって、この規定を参照すると、楊氏は非全日制の労働関係を結ぶ要件を満たしていないから、楊氏とピザショップの間には非全日制による労働関係は成立し得ないとの結論に至る。
楊氏は本職を離職していない状態で、勤務外時間を利用して副業を行っているので、兼職となる。楊氏はピザショップと兼職労務協議を締結しており、A工場の責任者も了承しているから、楊氏とピザショップとの間に労働関係が無いことについては合意を得られていると見ることができる。
また、ピザショップは李氏に対し何ら管理や約束をしておらず、兼職活動について放置していた状況であったので、労働関係の特性に符合しないと見て取れる。
楊氏がA工場退社後に出前配達業務を行っていたことも、本業務の遂行に著しい影響を与えるものでは決してない。また、楊氏の遭遇した交通事故による怪我はただの事故であり、また楊氏自身の故意または過失によって引き起こされたものではない。ゆえにA工場の主張する楊氏が怪我を負ったあと正常な業務ができなくなり、自単位の業務に大きな影響が出たとの主張は成立しないのである。
A工場は自身の利益のため労働契約法を真剣に学んでいたようだが、条文の読み方を違えると、誤った決定を行ってしまい、最終的には、遺憾にも裁判で負けてしまうことになる。当初A工場が正しい権益維持の方法を取っていれば、すなわち兼職を認めない旨を規定し民主的にこれを制定した上で労働者へ周知しておれば、このようなケースで後手に回ることもなくなるのである。