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【判例】 従業員が自らの意思で社会保障費を支払わないときでも、使用者は社会保障費を負担しなければならないか?(2018年1月31日)

案例:

王氏は2011年8月11日某社へ入社し、書面による労働契約を結んだ。王氏の職位はミシン用バッグの製造(ライン工)であった。2015年3月25日、王氏は簡易書留で会社側へ「労働契約解除通知書」を送付し、会社側が社会保障費を負担しなかったために労働契約を解除せざるを得なくなった、と主張した。しかし王氏は勤務期間中、社会保障を放棄する旨申請書を提出し、社会保険への加入に同意しないことと会社側が負担すべき社会保険料を賃金に組み入れるよう申し出ていた。王氏は2015年3月20日、労働仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ社会保険費の支払いと、労働契約解除による経済補償金20700元の支払いを求めたが、仲裁委員会は申し立て期間が過ぎていることを理由として採決を行わなかった。そこで王氏は、法院へ提訴した。

争点:

従業員が自ら社会保険費の支払いを放棄した場合、使用者はこれを根拠として社会保険費の納付を拒否することができるか?

判決:

一審では、関連規定によると、使用者と労働者は必ず社会保険に加入し、社会保険費を納付しなければならない。また社会保険費の納付は使用単位と個人が共同で負担するものとし、個人負担分について使用単位は労働者の賃金から控除する、と規定されている。王氏が社会保険に加入する権利を放棄し、使用者が納付すべき社会保険費を賃金に組み込む約定は、法に反し無効である。会社側は王氏の社会保障費を納付し、王氏は社会保障手当を会社側へ返還しなければならない。その具体的金額は社会保障機関の算定する負担額に拠るものとするとし、王氏が社会保険へ加入する権利を放棄し、また会社側が社会保険費を納付しなかったことを理由とした労働契約解除への経済補償金の支払いは法的根拠を欠き無効であるとの判決を下した。

分析:

たとえ王氏が社会保障費を納付しないことを書面で保証したとしても、社会保険費の納付は「社会保険法」及び「労働法」第七十二条により義務付けられている。社会保険基金はこれらの資金源から、社会を支えているのである。使用者と労働者は必ず社会保険に加入し、社会保険費を納付しなければならない。社会保険の納付は法で定める強制的義務であり、個人の意思によって強制規定を覆すことはできないから、労働者の意思は会社側が社会保険費を支払わない理由とはなり得ないのである。「労働契約法」第三十八条第一項第三号には、使用者が社会保険費を納付しないときは、労働者は労働契約を解除することができ、使用者は労働契約解除による経済補償金を支払わなければならない、と定められている。

使用者が法的根拠もなく社会保険を納付しないとき、使用者は労働契約を解除するとともに経済補償金の支払いを求めることができる。使用者は法に基づいて社会保険の一部を負担しなければならないが、これには以下のようなリスクを避ける効果がある。

例えば、法に基づく労災保険を納めている使用者の労働者に労災が発生した場合、医療保険や生育保険、失業保険、養老保険と同様、その費用を労災保険基金が負担してくれるのである。もし使用者が法に基づく社会保険を納めていない場合は、これらの損害を全て自身で補償しなければならない。どちらがより良い選択かは自明の理であろう。