【判例】社内旅行を年次有給休暇と相殺することはできるか?(2018年9月28日)
案例:
2015年7月1日、曹氏は上海市の某科学技術系有限公司と労働契約を締結した。双方の契約期間は2015年7月1日から2017年6月30日までであった。労働契約が満了した後、曹氏は会社側より労働契約を継続しない旨を言い渡された。曹氏は労働人事仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ在職期間中の年次有給休暇分の賃金を支払うよう求めた。
審議において、会社側は曹氏が在職期間社内旅行へ参加し、会社側は韓国へ7日間、浙江省へ5日間の旅行を手配した。この日数は曹氏の年次有給休暇日数を超えているため、年次有給休暇に対する賃金を支払う必要はないと主張した。これに対して曹氏は、そのような話は聞いておらず、社内旅行は会社の組織的活動であるにも関わらず、事前の告知もなく社内旅行の日数を年次有給休暇から差し引いた。社内旅行は福利厚生の一種であり、法定年次有給休暇と混同してはならないものだから、会社側の主張は認められないと反論した。
争点:
社内旅行と年次有給休暇を相殺することはできるか?
判決:
仲裁庭は、会社側の社内旅行は福利厚生であり、双方間には社内旅行と年次有給休暇を相殺する旨の約定が事前になされていなかったから、社内旅行の日数を年次有給休暇残日数から控除することはできないとして、会社側へ年次有給休暇分の賃金を支払うよう命じた。
分析:
年次有給休暇は労働者の法定休暇である。国が年次有給休暇制度を制定した目的は、労働者が必要な時に休暇を得られることであり、この時間は労働者が自由に支配できる、休息の時である。「従業員年次有給休暇条例」第五条には、「使用単位は生産又は業務の具体的状況に基づき、かつ従業員本人の意思を考慮し、従業員の年次休暇を統一して計画手配する。年次有給休暇は一年度内に集中して手配することができ、分散して手配することもできるが、原則として年度を跨がないように手配する。事業単位が生産又は業務の特性により年度を跨いで年次有給休暇を手配する必要があるときは、一つの年度を跨いで手配する事ができる。」とある。
この規定が使用単位へ年次有給休暇の手配を許可しているのは、使用単位の実際の生産需要や業務手配に考慮し、労働者の年次有給休暇が使用単位の生産活動や業務効率に影響を与えるのを避けるためである。何故なら年次有給休暇の手配は使用者に権利があり、労働者が自ら年次有給休暇を求めたときでも使用者の許可が必要になるからである。但し、使用者による「(年次有給休暇の)手配」は年次有給休暇の具体的時期についてのみであり、年次有給休暇の具体的な形式についてではない。労働者は本来、自主的に休暇期間を手配し休暇を自由に使用する権利を有するのである。
社内旅行は、労働者が自主的に手配した休暇の過ごし方であるとは言えない。社内旅行には、労働者が会社の手配に従わなければならず、結果旅行に参加せざるを得ないという一面を持つ。一部の会社では社内旅行について会議も開かれており、このような見地からも、これを業務と見ることができる。
また一方で、社内旅行は会社による集団活動であり、企業文化の一部であって、労働者の個人旅行ではないから、労働者は自主選択権をそれほど有していないということになる。会社側が労働者へ旅行や旅費を提供するのは、法定福利を超える福利厚生の一種であり、会社側が労働者の積極性を奨励しその待遇を高める方法の一つであると言える。しかし、本来の年次有給休暇制度から見ると、旅行の間労働者には自由に支配できる休息時間が無いのだから、社内旅行を年次有給休暇と相殺することはできないということになる。 実務において、繁忙期と閑散期のある会社ではよく労働者の年次有給休暇を閑散期や春節前後に集中させるケースがある。もし会社側が社内旅行など相応の福利待遇を年次有給休暇と相殺させたいのならば、会社の規定制度に具体的な規定を設け、労働者へ告知し、労働者の同意を得てはじめて、社内旅行と年次有給休暇とを相殺できる。もし労働者へ会社側の福利厚生と年次有給休暇取得の権利行使の選択権を与えず、社内旅行に参加した労働者から直接年次有給休暇を差し引けば、それは労働者から知る権利と選択権を奪うこととなり、年次有給休暇の立法趣旨にも反することとなる。この場合、使用単位は労働者へ年次有給休暇分の待遇を与えなければならないのである。