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【判例】 定年退職後再就職した場合でも、労働契約法の保護を受けることができるか?(2018年12月24日)

案例:

高氏は北京市内の不動産会社に勤め始めてから、10年目に解雇された。

2016年、高氏は会社側を提訴した。高氏は、会社側は自身が入社した後も労働契約を締結せず、社会保険にも加入しなかったと訴えた。彼女は残業もこなしていたほか、入社後に取得した有給休暇はわずか21日で、休みを取得していない有給休暇が153日分あった。また、会社側からは毎年年末賞与が支払われていたが、2015年分は支払われていなかった。このことから、高氏はこの案件は労働紛争であるとし、会社側へ労働契約未締結による二倍の賃金との差額と、未消化の有給休暇分の賃金、労働契約解除による経済補償金、養老年金へ加入しなかったことによる損失などの支払いを求めた。

法院による審理中、高氏は確かに2005年に会社が設立されたときから入社していたものの、彼女は既に満50歳を超えており、法定退職年齢に達していたことが明らかになった。

法院は、「高氏が起訴するまでの間に退職手続きをしていなくとも、労働者が法定退職年齢に達したときに労働契約が終了する旨『労働契約法実施条例』第二十一条に規定されている。ゆえに高氏と使用単位との関係は労働関係ではなく、労務関係に属する」として、高氏の労働紛争としての提訴を棄却した。

分析:

法定退職年齢に達した後は、労働契約法上の法的保護を受けることができない。

法定退職年齢に達した高齢者が継続して使用単位で働いたり、元の使用単位で再雇用されるケースは実務上よく見られる。このケースにおいて、賃金の未払いや一方的な解雇があったとき、当事者は往々にして法院へ提訴したり、労働者たる地位の確認を求めるとともに、賃金や違法な労働契約解除による経済補償金、時間外手当、有給休暇分の賃金などの支払いを求めがちである。

しかし、「労働契約法実施条例」には、労働者が法定退職年齢に達したときに労働契約が終了し、これ以降は使用単位との労務関係に移行すると規定されている。

他に約定が無い限り、労務関係では賃金のみが保護される。

労働関係と労務関係の違いとは何か?労務関係で最も重要なポイントは、「労働契約法」の保護を受けられない点である。

「労働契約法」では、使用単位が労働者と労働関係を確立したにも関わらず、書面による労働契約を締結しなかったときは、労働者は使用単位へ2倍の賃金を支払うよう求めることができる。また、使用単位は随意に労働者を解雇できず、もし使用単位が労働契約を解除するときは、労働者へ経済補償金を支払わなければならない。労働契約解除が違法であるときは、労働者は更に損害賠償金の支払いを求めることもできる。また、労働者は時間外手当や有給休暇の取得についても「労働契約法」の保護を受けることができ、使用単位は必ず社会保険に加入し「五険一金」を納付しなければならない。

しかし労務関係は雇用関係と同じく、通常は賃金に対してのみ保護を受けることができる。賃金を具体的にどれだけの額、どのように支払うかは双方の約定によればよく、また月給制、日給制、時間給制のどの形態でも問題はない。但し時間外手当の支払い、有給休暇の付与、契約未締結による2倍賃金の請求、契約解除による経済補償金の支払い、社会保険への加入や福利厚生の待遇に関しては、双方間に特別な約定がない限り法的な保護を受けることはできない。すなわち、使用単位は随時労働者の使用を打ち切ることができ、また労働者へ経済的補償を行う必要もないのである。

使用単位側から:

法定退職者を雇用しても、リスクは大きい。

法定退職者を雇用した場合、労働者側に「労働契約法」上の保護が得られないのと同様に、使用単位側もまたリスクに直面することとなる。

正常な労働契約においては、使用単位は労働者の労災保険(事業者負担分)を納付しなければならず、労働者は一旦業務により怪我もしくは死亡すれば、労災保険による補償を受けることができる。しかし法定退職者は労災保険に加入できないため、業務中にもし万が一のことがあれば、その賠償責任は使用単位が一手に負うこととなるのである。

某社で緑化工事に従事していた馬氏は、2015年1月に工事中の事故で負傷し、障害九級に認定された。会社側は馬氏の入院治療費を負担したが、馬氏は後に労働関係の確認を求めて法院へ提訴し、併せて障害補助金、医療補助金、障害就業補助金(いずれも一時金)等の支払いを求めた。

法院は、馬氏が2013年に法定退職年齢を迎えた後も引き続いて使用単位で業務に従事していたことから、使用単位との間に労務関係があることを認めた上で、馬氏の勤務時間、勤務場所、負傷の原因などから、使用単位側へ労災待遇に基づき障害補助一時金及び休業補償の支払いを命じた。但し馬氏が法定退職年齢に達していたことから、医療補助一時金及び障害就業補助一時金の支払いは認めなかった。

労務関係下における、労働者が業務中に負傷もしくは死亡したときの救済措置として最もよく見られるのは、本人及び家族による使用単位への損害賠償請求である。

裁判官からの提起「法定退職者の再就業には、書面による協議書の締結を」

裁判官は、使用単位が法定退職者を再雇用しようとする際は、口頭による約定を避け、業務内容や賃金報酬、医療保障、時間外手当その他の福利待遇について労務関係協議書を書面で締結し、これを保管するよう注意を促している。こうすれば、一旦紛争が発生したとしても、協議書が有効な保障となる。

また、法定退職年齢に達したときは、労働関係が成立していないので、もし紛争が発生したときは、労働者は労働仲裁を申し立てるのではなく直接法院へ提訴することになる。

使用単位は、法定退職者の雇用には労災に加入できないというリスクがあるという事に、十分に注意しておく必要があるであろう。