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【判例】総合労働時間制の周期内に労働契約を解除した場合の時間外手当をどのように算定するか?(2019年1月30日)

判決要旨:

労働者が総合労働時間制の算定周期が到来しないうちに労働契約を解除し、その時点で労働者の実労働時間が法定労働時間を超えていたときは、この部分を時間外労働と見なさず、使用単位は時間外手当を支払う必要は無い。但し、使用単位が認めた時間外労働の場合は、この限りではない。

案例:

原告夏栄氏は被告重慶馳豊物業管理有限公司(以下馳豊公司)と労働契約を締結し、総合労働時間制にて保安職に就いた。

当地人社局は返答書にて、馳豊公司の保安職に年単位の総合労働時間制を採用することを認可しており、その期間は2013年12月13日から2014年12月12日迄となっていた。

この期間は双方間で約定した契約期間内であったが、馳豊公司は総合労働時間制をもとに夏栄氏の管理を行っていた。2014年4月1日、夏栄氏が離職を申し出たことにより、双方間の労働契約は解除された。

夏栄氏は法定労働時間を参照し、馳豊公司へ2014年3月分の時間外手当等の支払いを求め、提訴した。

判決:

重慶市北碚区人民法院は、「馳豊公司は総合労働時間制を採用しており、法的手続きを踏んで認可を受けている。このことは労働契約にも明記されている。

例え夏栄氏が毎月の勤務時間をもとに主張を展開したとしても、それで(当該月の労働時間が)一年単位の総合労働時間が法定労働時間を超えることを確定することはできない。また、馳豊公司は既に3月分の時間外手当を支払っている」として、夏栄氏の訴えを退けた。

夏栄氏はこれを不服として控訴したが、重慶市第一中級人民法院もまた「馳豊公司は夏栄氏へ3月分の時間外手当を支払っており、夏栄氏がこの他に時間外労働に従事していたとしても、一年単位の総合労働時間制の周期を満了してこれを算定すべきである。労働契約解除時は(総合労働時間制の)周期を満了していないから、時間外労働の存在の有無を判断することはできない」として、控訴を棄却した。

分析:

本案件の争点は比較的明白で、「馳豊公司は夏栄氏へ更に3月分の時間外手当を支払わなければならないか」という点である。

1.総合労働時間制下の労働時間の判定については、元労働部「企業による不定時工作制及び総合計算時間労働制実行に関する審査規則」第五条に、「総合労働時間制を採用する使用単位は、週、月、四半期、年を労働時間の算定周期とすることができる。但し平均労働時間及び週平均労働時間が基本的に法定労働時間と同一でなければならない」とある。

これは言い換えると、労働時間の算定周期内の具体的なある一日(及び週、月、四半期)の実労働時間が法定労働時間を超えても良いが、周期内の総実労働時間が総法定労働時間を超えてはならないという事である。また、労働時間の延長についても、「賃金支払暫定規定」第十三条第三項に延長分の時間外手当を支払う旨規定されている。

このことから、総合労働時間制下の労働者の具体的な労働時間について判断するには、以下の要件を満たさなければならないことがわかる。一、総合労働時間制の当該周期を過ぎていること。二、法定労働時間を参照し判断していること。三、法定労働時間を超えているときは、延長された時間について時間外手当が支払われていること。

これらを本案件に当てはめると、以下のようになる。

一、双方間の労働契約が解除された時点では年周期を満たすまであと8ヶ月余りの時間を残しており、一年間の具体的な労働時間を量ることができない。

二、夏栄氏は3月の実労働時間をもって法定労働時間と対比しているが、これは対比基準を違えている(年間労働時間で判断しなければならない)。

三、総合労働時間制の周期内においては、総労働時間が総法定労働時間を超えなければよく、3月分の実労働時間は法定労働時間を超えても差し支えない。通常、馳豊公司は時間外手当を支払う必要は無いのである。

2.使用単位が総合労働時間制の周期内における労働者の時間外労働を認めたときは、それは当事者間の自治に準ずる。

関連部門の規定制度に総合労働時間制の労働者に時間外労働があるか否かのガイドラインが存在していたとしても、これ自体に意味は無く、ただ総合労働時間制の制限を下回っていれば、使用単位は何ら時間外手当を支払う必要は無いのである。しかし労働者の時間外労働を使用単位が認めたときは、使用単位は適時相応の時間外手当を支払わなければならない。総合労働時間制が労働者の合法的権益を奪うことがあってはならないのである。ゆえに、総合労働時間制の正確な判断と、個別案件とを切り離すことはできないのである。

本案件における馳豊公司は、年周期満了後に一年間の総労働時間を算定した上で、時間外手当を支払えばそれで事足りる。しかし馳豊公司は当該3月夏栄氏に時間外手当を支払っており、馳豊公司はこれについて立証責任を負うが、これは馳豊公司が使用単位としての法的義務を果たし、また夏栄氏に対し労働者が労働報酬を受取る権利を実現したものである。なお審議において、夏栄氏の得るべき時間外手当の額は、労働契約はもちろん当地最低賃金に照らしても、馳豊公司が支払った額に及ばない事が判明している。

3. 総合労働時間制は、労働者の職業(職位)選択の自由に影響してはならない。職業選択の自由は労働者の権利であり、基本的人権であるから、使用単位は総合労働時間制下であっても、労働者は労働契約を解除する権利があるのである。

ゆえに、総合労働時間制を採用している使用単位が総合労働時間制の周期内に労働契約を解除した場合、使用単位は総合労働時間制の周期を満たしていないことを理由として時間外手当の支払いを一概に拒絶できるとは限らない。

個別案件の裁判においては、労働者の職業選択の自由と使用単位の生産継続性を保障し、労使双方の利益を均衡させることを目的として、法律に基づき総合的な判断がなされる。総合労働時間制の周期を満たしていなくても、労働者の実際の総労働時間が当該周期の法定労働時間を超えており、時間外労働の事実が認められるとき、または使用単位が(承諾や証拠の提示などで)労働者の時間外手当を認めたときは、法に基づき時間外手当を支払わなければならないのである。前者の場合は労働法及び関連法規が適用され、使用者はこれを拒否することはできないが、後者の場合は各地方で規定が分かれており法整備が不完全である上、これらは90年代の規定であるため、労働者への配慮に応えることが年々難しくなっているのが現実である。今後の労働立法においてこの点を明確にし、総合労働時間制等特殊な労働時間に対する審査、監督の改善により、使用単位による労働者の合法的権益侵害を防ぐことが望まれる。