【判例】最低賃金で働いていた労働者が病気休暇を取得した場合の最低賃金額はいくらになるか?(2019年3月29日)
案例:
2017年5月、某服飾会社の従業員は、自身の賃金が当地の最低賃金を下回ることを理由として仲裁を申し立て、会社側へ最低賃金との差額の支払いを求めた。
これについて会社側の人事責任者は、当該従業員は1ヶ月の病気休暇を取得しており、4月は全く出勤していないため、最低賃金を下回ることとなった。当事者双方は労働契約にて月給2600元を約定しており、実際にこの通り賃金を支払っていた。上述の従業員は当該企業で連続8年間勤務しているから2600元を基準として支払うこととなるが、社会保険費の個人負担部分を控除すると実際の支払額は2420元となる。しかしそれでも本市最低賃金基準の80%すなわち1936元を下回るものではないとして、当該従業員の給与明細を提出し説明を行った。
仲裁委員会は審理の結果、勤続年数が8年以上の従業員が、疾病または業務によらない負傷により6ヶ月以内の休暇を取ったときは、会社側は病気休暇期間、従業員本人の賃金の100%を従業員に支払わなければならない。ここで言う「従業員本人の賃金」とは本来従業員へ支払われる賃金を言うが、従業員は更に社会保険費の納付義務を有するため、社会保険費の本人負担額を控除した後の実際に支払われる賃金が本市最低賃金の80%を下回っていなければ違法とはならない、との判断を下した。
争点:
当地最低賃金で働く労働者が病気休暇を取得した時の賃金はどのように支払われるか?
分析:
本案件の焦点は、勤続年数8年以上の従業員が病気休暇を取得したとき、その額が最低賃金を下回っても良いか否か、という点である。本案件の申立人は、勤続年数8年以上であれば100%(2600元)賃金を受け取れると考えていたため、実際に受け取った(社会保険費の個人負担部分を控除された)額が本市最低賃金基準(2420元)を下回ると考えてしまった。この誤解は、病気休暇中の賃金の算定基数と実際に受け取れる病気休暇中の賃金を混同しているために起こったものである。この案件では、病気休暇中の賃金の算定基数と勤続年数、そして病気休暇中の賃金の最低保障額を整理する必要がある。
まず、病気休暇中の賃金の算定基数についてである。
「上海市企業賃金支払い規則」第九条には、「病気休暇における賃金の算定基数は当該従業員がその職位において正常に勤務した月の賃金に依り、これには賞与や通勤手当、食事手当、住宅手当、夜勤手当、夏季高温手当、時間外手当等特殊な状況下において支払われる賃金を含まない。(この基準額は、)労働契約によって当該従業員の賃金が明記されているときは、労働契約に約定された職位に応じた賃金とし、労働契約が実態と異なるときは、当該従業員が実際に所属する職位に応じた賃金とする。また、病気休暇中の賃金の算定基数は本市が規定する最低賃金基準を下回ってはならない」とある。本案件において約定されている労働契約には賃金額が2600元と明記されており、実際に支払われていた額も2600元であるから、病気休暇中の賃金の算定基数は2600元となる。
次に、従業員の勤続年数についてである。
国家及び上海市の規定によると、病気休暇中の賃金の主な算定係数は当該企業での勤続年数が関係しており、従業員が疾病または業務によらない負傷により連続して6ヶ月以内の休暇を取得するときは、会社側は以下の基準にもとづき賃金を支払わなければならない。
(1)当該企業での勤続年数が2年未満のときは、本人の賃金の60%を支払う
(2)当該企業での勤続年数が2年以上4年未満のときは、本人の賃金の70%を支払う
(3)当該企業での勤続年数が4年以上6年未満のときは、本人の賃金の80%を支払う
(4)当該企業での勤続年数が6年以上8年未満のときは、本人の賃金の90%を支払う
(5)当該企業での勤続年数が8年以上のときは、本人の賃金の100%を支払う
本案件の従業員は勤続年数が8年を超えており、かつ連続して6ヶ月以内の休暇を取得しているから、病気休暇中の賃金は従業員本人の賃金の100%を支払うこととなる。
最後に、病気休暇中の賃金における最低額の保障についてである。
病気休暇が賃金を伴うものであるという点から鑑みると、本案件における病気休暇中の賃金は従業員本人が収めるべき社会保険費の個人負担部分を含めたものと解するべきである。また、上海市の関連規定によれば、会社側が従業員の病気休暇期間に支払う賃金は本市最低賃金の80%を下回ってはならないとされる。ゆえに、本案件の従業員の勤続年数は確かに8年を超えているものの、これは実際に(賃金の100%である)2600元が支払われるという意味ではなく、社会保険費の個人負担部分控除後支払われる金額が最低賃金基準の80%を下回らなければ合法となる、という事なのである。