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【判例】労働契約を更新せず労働者を使用し続けた場合、その期間の経済補償金は2倍となるか? (2019年9月2日)

案例:

2015年7月15日、呂氏は某機械設備会社と2015年7月15日から2017年7月14日までの2年間の労働契約を締結した。会社側は契約満了後も呂氏を使用し続けたが、労働契約を再締結することはなかった。

2017年12月、会社側は経営難を理由として呂氏へ労働契約解除の通知を出し、併せて呂氏の勤続年数から一年につき一ヶ月の経済補償金を支払うと伝えた。

呂氏は会社側へ2017年8月14日から2017年12月14日までの書面による労働契約を締結していない時期について賃金の二倍の経済補償金を支払うよう求めたが、会社側は、「確かに書面により労働契約を更新しなかったのは確かだが、労働契約が満了した後も呂氏を使用し続けたのだから、法的には問題が無く、また労使双方いつでも労働契約を解除できる権利を有している。会社側は法に基づき一か月前に労働契約解除を予告しているから、書面による労働契約未締結を理由として賃金の二倍の経済補償金を支払う必要は無い」として、これに同意しなかった。

呂氏はこれを不服として、労働争議の仲裁を申し立てた。その後仲裁庭及び法院での審議により、呂氏の申し立ては認められた。

判決

法院は、「『労働契約法』第十条には、労働関係の確立においては、書面による労働契約を締結しなければならない。既に労働関係が確立されており、書面による労働契約を締結していないときは、労働者の使用を開始した日から一ヶ月以内に労働契約を締結しなければならない」とある。

我が国の法律では、書面による労働契約の締結及び一ヶ月以内の労働契約締結は強制規定であるから、これに反すれば違法行為として相応の責任を負わなければならない。

法律の規定によれば、労働契約が満了した後も当該労働者が元の使用単位で継続して勤務し、これに対して使用単位が異議を示さないときは、労働者と使用単位との間に労働関係が継続して存在していると言えるが、元の労働契約満了後に新たな労働契約が更新された事を意味しない。呂氏は会社側との労働契約が満了した後も労働契約を継続しないまま勤務を続けているから、法律法規の規範から『労働契約法』に定める『労働契約を締結すべきであるにも関わらず労働契約が締結されていない状況』に該当すると言える」として、会社側へ書面による労働契約を締結していない期間、2017年8月14日から2017年12月14日について書面による労働契約を締結していないことによる賃金の二倍の金額の支払いを命じた。

分析

最高人民法院「労働争議案件審理の法適用に関する若干問題への解釈」第十六条では、「労働契約が満期となった後、労働者が依然元の使用単位で労働しており、使用単位が異議を示していないときは、労使双方が労働契約の継続履行に同意したものとみなす。一方が労働関係の終了を提示したときは、人民法院はこれを支持する」としている。この条文は、労使双方が書面による労働契約を締結しないまま労働関係を継続している状況にある場合は、労使双方が「労働契約を継続しており」、元の契約を延長しているとみなす、と解釈することができる。言い換えれば、使用単位が書面による労働契約を締結しないまま労働者を使用し続けたときは、二倍賃金支払いの罰則は適用されないということになる。

しかし、旧労働社会保障部「実質的労働関係の解除における経済補償金の支払義務の有無についての問題に関する返信」では、上述の解釈について「この規定における『(労働関係の)終了』とは、労働契約期間が満了した後も労働者が元の使用単位で労働し続け、これに対して使用単位が何ら異議を示していない状況を言い、労働者と使用単位の間に一定の事実上の労働関係が存在するが、元の労働契約満了後に新たな労働関係が締結された事を意味しないから、一方が労働契約を終了させる旨示したときは、事実上の労働関係が終了したと認める」との見方を示している。また、「労働契約法」第四十四条は、「通常の状況下にあるときは、期間が満了したとき、労働契約は終了する」と定めている。本案件においては、労働契約期間が満了した後も双方ともに契約の終了の意思を示しておらず、労働契約に示された双方の権利と義務は変わらず履行されている。また、労働者を継続して使用しているということは、契約期間満了後改めて新たな労働関係を構築していると言える。この場合、新たな労働関係の構築から一ヶ月を過ぎてもなお労働契約を締結しなかったときは、使用単位は「労働契約法」第八十二条に基づき労働契約の未締結期間について賃金の二倍の額を支払わなければならない。ゆえに、本案件における法院の判決は妥当であると言える。