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【判例】実質的に機能していない規律制度は労働者に適用されるか?(2019年9月2日)

案例:

曹氏は2015年3月13日进入上海市内の某科学技術会社で研究開発職に就いていた。労使双方は3年間の労働契約を結んでおり、曹氏は就業規則を受け取っていた。

就業規則には、月に3回以上遅刻した場合は一般的な規律違反となり、これが二度あったときは中度の規律違反とし、中度の規律違反が二度あったときは重大な規律違反として取り扱う旨記載されていた。

2015年5月より、曹氏は遅刻が目立つようになり、2015年5月から12月までの間毎月3回以上の遅刻が見られるようになったが、会社側はこの違反に目をつむり、曹氏へ皆勤手当を支払っていた。

しかし2018年4月、会社側は2015年5月から12月までの間に連続4ヶ月以上、月に3回以上遅刻したことを理由として、突然曹氏との労働契約を解除した。曹氏はこれを認めず、労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、違法な労働契約解除による損害賠償金の支払いを求めた。

審理において申立人は、「会社側の勤怠管理は緩く、遅刻した従業員へ何ら処罰を与えなかった。また、2015年に起こった出来事を理由として現在(2018年)労働契約を解除するのは明らかに時効だ」と主張した。これに対して会社側は、「社内の勤怠管理が厳格に行われなかったとしても、申立人に遅刻があったことに相違なく、在職期間の重大な規律違反として処理したに過ぎない」と反論した。

判決

労働人事争議仲裁委員会は、「法的に有効な規律制度とは、その内容及び手続きが法に定める規定に合致するだけではなく、適切に適用されて初めて有効な労働者の管理規則となる。申立人は在職期間に遅刻があったのは確かだが、被申立人はこれに対して就業規則に定める処理を行っておらず、また無遅刻として取り扱っていたにもかかわらず、長い時間が経って初めて遅刻による重大な規律違反としている。被申立人の就業規則の適用は一貫しておらず、申立人の遅刻認定が過去と現在で異なっているのは、会社側の規定制度が厳格に用いられていないことを意味する。被申立人は労働関係において管理者の地位にあり、地位的優位性及び(会社の決定を)告知する権利がある。今回のような事態が発生した際に労働者にとって有利な処理を行い、就業規則にある複数回の遅刻による重大な規律違反を適用しなかったということは、(申立人の行為を)重大な規律違反とは認められず、被申立人は申立人へ違法な労働契約解除による損害賠償金を支払わなければならない」と結論づけた。

分析

規律制度は使用単位が定める労働者の権利と義務の履行を保障することを主旨とした規則であり、完璧な規律制度は企業にとって「伝家の宝刀」となり得る。規律制度は、従業員管理に重大な作用をもたらすものなのである。

「最高人民法院労働争議案件審理における法適用に関する若干問題の解釈」第十九条には、「使用単位の規律制度は「中華人民共和国労働法」第四条規定に基づき、民主的な手続きを経て定められ、国家の法律、行政法規または政策規定に反せず、またこれが労働者へ周知されて初めて人民法院による労働紛争審理の証拠となる」と定められている。

有效な規律制度となるには、以下の条件を満たさなければならない。

一、規律制度の内容が合法的かつ合理的であること。また法律法規、公序良俗に反していないこと。これについては、「労働法」第八十九条に「使用単位が定める規律制度が法律、法規の規定に反するときは、労働行政部門は警告を発し改正を命じ、(当該規律制度により)労働者へ損害が及んだときは、使用単位はその賠償責任を負う」と定められている。

二、規律制度が正当な手続きによって定められていること。「労働契約法」第四条では、「使用単位は労働報酬、勤務時間、休憩休暇、労働安全衛生、保険及び福利厚生、従業員の訓練、労働紀律及びみなし労働時間制など労働者の切実な利益に直接的に関係する事項ならびに重大な事項を制定、改正及び決定するときは、従業員代表大会及び従業員全体の討論を経て方案と意見を提示し、工会及び従業員の代表者と平等に話し合い決定するものとする」とある。このことから、規定制度の民主的手続要件には「意見を求める」手続きと「話し合いを持つ」手続きが必要不可欠であることがわかる。

三、労働者へ公示または周知されていること。内々で定められ引き出しにしまわれたままの規定制度は労働者に対し効力を発しない。「労働契約法」第四条第四項では「使用単位は、労働者の切実な利益に直接的に関係する規定制度について労働者へ公示または告知しなければならない」としている。

ヨーロッパの法諺に「法律は目的と果実のために執行される」というものがある。法手続きは大変に複雑な過程を経るが、ただ法律の執行のみによって目的を成し得るのである。

規律制度の調整は労使関係に重大な意味を持つ。規律制度に基づく使用単位の指揮命令権の行使は、恣意的でなくまた一定の一貫性と透明性がなければならない。労働者の管理には一貫性、客観性そして安定性が必要なのであるゆえに、規律制度は労使関係において有効に適用され適時執行されているのである。もし規律制度が定められた後、労働者管理の過程において規則に則らない管理が行われた場合、すなわちある時は規定を適用し、ある時は適用しないという風に規律制度の効力に安定性や一貫性が欠ける場合は、その規律制度を労働者管理の根拠とはならず、また労働者の労働する際に依拠となる行為規範ともなり得ないのである。