【判例】全ての従業員と競業避止協議を締結する必要性はあるか? (2019年9月27日)
はじめに
競業避止とは、「労働契約法」が使用単位へ付与した商業的秘密保護のための重要な制度である。
特にハイテク技術等の産業が急激に発展し、人材の流動が加速している今日にあって、競業避止制度は企業の商業的秘密を保護し、核心的競争力を維持するために重要な作用を及ぼしている。
しかしながら、実践において、使用単位がのべつ幕無しに全従業員を対象として競業避止協議を締結するケースが徐々に増えているのが現状である。
本案件の分析では、会社側は全ての従業員と競業避止協議を締結する必要はないと分析している。
本案件においては会社側が競業避止協議の無効を主張し、従業員はこれを有効だと主張している。もしこれが逆だったら、すなわち会社側が競業避止協議を有効だと主張し、従業員がその無効を主張した場合でも、結果は一緒だっただろうか?この点ご一考されたい。
案例
李氏はMalhe社へ入社した後、行政事務を担当していた。Malhe社は、李氏が離職後2年間競業避止義務を負う代わりに、Malhe社が一定額の経済補償金を支給する旨の競業避止協議を李氏と締結していた。
その後李氏はMalhe社を離職し、再び行政事務職に就いたが、この時李氏は人事職にも従事していた。李氏は離職後会社側へ何度も競業避止に対する補償金の支払いを求めたが、会社側がそれに応じることはなかった。
それから3ヶ月の後、李氏は労働仲裁庭へ申し立てを行い、会社側へ1、競業避止における補償金を支払うこと2、競業避止協議を解除すること、を求めた。
会社側は、1、李氏は(商業的)秘密に関わる人員ではない2、会社側が李氏へ競業避止に関する義務を果たす必要はないことを理由として、何ら補償金を支払う必要はないと主張した。
分析
Malhe社と李氏が交わした競業避止協議は果たして有効なのか?
競業避止協議は双方が書面によって締結するものである。どちらか一方に詐欺や脅迫、弱みに付け込むなどが無い限り、または協議の内容が法律の強制法規に反しない限り、その協議は有効となり、双方に拘束力が発生する。このため、会社側の「李氏が(商業的)秘密に関わる人員ではない」ことを理由とした協議無効の主張は成立しないのである。
確かに「労働契約法」第24条には「競業避止の対象者は使用単位の高級管理者、高級技術者ならびに機密を保持する義務を有する人員に限られる」とあるが、この規定は決して強制規定ではない。李氏が機密保持に関わる人員で無かったとしても(李氏は高級管理者や高級技術者ではない)、双方間で交わした競業避止協議の効力には何ら影響を及ぼさないのである。
更に重要なのは、本案件において会社側が李氏と競業避止協議を締結する際、既に李氏について機密保持義務を負う人員として認めている点である。
ゆえに会社側と李氏との間で締結された競業避止協議は合法かつ有効であり、今になって李氏が商業的秘密に関わらないことを理由として協議の無効を主張しても、それは成立し得ないのである。
それでは、李氏の主張は認められるのであろうか?
前述のように、双方間の競業避止協議は合法かつ有効である。会社側は李氏への競業避止義務を履行する必要が無いと主張しているが、李氏が離職した後会社側へ求めた競業避止義務の履行について、会社側は何ら意思表示をしていない。ゆえに、李氏は協議に基づき競業避止義務を履行し、会社側は協議に基づいて補償金を支払わなければならないのである。
李氏の会社側に対する競業避止協議の解除請求について、最高人民法院「労働争議案件審理への法適用に関する若干問題の解釈(四)」において、使用単位の原因により三ヶ月以上経済補償が為されず、労働者が競業避止義務の解除を請求したときは、これを支持すると明確に規定されている。ゆえに、李氏が会社側へ再三補償金の支払いを求めているにも関わらず、会社側がこれを支払わない、という状況が三ヶ月続いた後競業避止義務の解除請求が出された今回のケースでは、これが認められることになる。本案件において、李氏は三ヶ月後に競業避止義務の解除を請求しているため、会社側はそれまでの三ヶ月分の補償金を支払わなければならないことになる。そして、もし李氏が競業避止義務の解除請求を行わず、義務を履行し続けた場合、会社側は最長で二年分の競業避止義務に対する補償金を支払わなければならなくなる可能性があったのである。同じようなケースが他の従業員についても発生した場合、会社側はより大きな経済的責任を負うことになる。
この種の案件については、従業員の業務の性質や業務内容を区分せず全ての従業員と競業避止協議を締結している多くの使用単位が、従業員が離職した段階で競業避止義務の履行を求める必要が全くないことに気づく、といったパターンがよく見られる。
使用単位に不必要な経済的責任が発生するのを防ぐためにも、使用単位は競業避止の対象者を経営において合理的な範囲内に留め、商業的秘密とは関係のない従業員とは競業避止協議を締結しないことを提起する。また、既に競業避止協議を締結した従業員については、当該従業員の離職後に競業避止義務を履行しないようにしなければならない。これについても、出来る限り事前に競業避止協議を解除する旨通達することを提起したい。