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【判例】新しい仕事への面接の機会を与えたことは「労働契約の変更について話し合った」ものとみなされるか? (2020年04月30日)

要旨:

会社側が自身の成長のために他社へ業務をアウトソーシングしたことによりある職位が失われた場合は、「客観的状況に重大な変化が生じた」こととなり、労働者との話し合いによっても解決を見ない場合は、労働契約を解除できる。しかし会社側が面接の機会のみを与え、新しい職位の業務内容や労働報酬など具体的な内容に触れず話し合いを進め労働契約を解除した場合は、違法な労働契約解除となる。

案例:

潘氏は2008年11月3日にA社へ入社した後、2012年10月12日に会社側と期間の定めのない労働契約を結んだ。

2016年5月23日、A社は潘氏の所属する部署を含む従業員の全体大会を開き、潘氏の所属する部署の購買及び買掛金処理業務をI社へアウトソーシングするため、潘氏の所属する部署の職位は無くなる、と告知した。これと同時にA社は、イントラネット上で他の職位への募集情報を流し、潘氏ら従業員へ新たな職位へ応募してよいと告げた。

2016年12月15日、A社は潘氏に対し「労働契約解除通知書」を送付し、潘氏へ「労働契約締結の依拠となった事項に客観的に見て重大な変化が生じ、労働契約の履行が不可能となった。労使双方間で幾度も協議したが、労働契約変更の合意に達しなかった」ことを理由として、2016年12月31日をもって労働契約を解除することを決定した、と通告した。その後2017年3月、A社は潘氏に対し、経済補償金、2016年度の一時金及び賞与を支払った。

2017年4月、潘氏は労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、A社が労働契約の変更協議を経ずに労働契約を解除した事は違法な労働契約解除に当たるとして、A社へ違法な労働契約解除による損害賠償金の支払いを求めた。仲裁庭はこれを認めたが、A社はこれを不服として法院へ起訴した。裁判においてA社は、「潘氏へ多くの採用面接の機会を与えたにも関わらず、潘氏は自身の原因でその職位に就けなかったものであり、A社とは何ら関係がない」とし、A社は労働契約の変更協議に応じる義務を果たしているから、当該労働契約の解除は合法である、と主張した。

判決

労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が生じ、労働契約の履行が不可能となり、使用単位と労働者による協議によっても労働契約の変更に合意が見られないときは、使用単位は30日前の書面による予告か賃金の1ヶ月分の解雇予告手当の支払いにより、労働者との労働契約を解除できる。

本案件において、証拠によれば、A社は2016年5月の段階で潘氏の部門が担当していた購買業務及び買掛金処理業務をI社へアウトソーシングすることを決定している。すなわち、潘氏の職位は消滅することになる。しかしA社の主張するいわゆる「協議の過程」とは、労働契約解除の数日前に潘氏へ武漢支社に適した職位があることを告げ、面接の機会を与えただけである。これは到底「双方間の協議によっても労働契約の変更について合意に達しなかった」と認められるものではない。使用単位が用人单位已履行协商变更劳动合同内容义务,是我が国の労働契約法第四十条第(三)項が適用されるための必要条件の一つであるから、A社が労働契約の変更について協議をせず直接労働契約を解除したことは、違法行為となる」として、A社へ潘氏に対し違法な労働契約解除にかかる損害賠償金の支払いを命じた。

分析

上述の案件は「協議による労働契約の変更」にかかる典型的な案件なので、いくつかの点について解説を加えたい。

1、どのような状況にあって始めて「客観的にみて重大な変化が生じた」ことを理由とした労働契約の解除が認められるのか?

「客観的にみて重大な変化が生じた」ことは、労働契約法において使用単位へ、「無過失の状態において労働契約の締結を辞退する権利 」を賦与するものである。しかし、使用単位が以下の四条件を満たさず一方的に労働契約を解除したときは、権利の濫用として違法な労働契約の解除とされる。

一、労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化があったとき。ここで言う客観的な状況は、労働契約の履行と密接な関係がなくてはならず、無関係な要素であってはならない。

二、労働契約の履行が不可能になったこと。もし客観的状況の変化が労働契約の継続履行に影響を与えないときは、使用単位は「客観的にみて重大な変化が生じた」ことを理由として労働契約を解除してはならない。

三、労使双方間の協議によっても労働契約変更の合意が見られないこと。これは非常に重要な点で、多くの使用単位が協議を疎かにし、違法な労働契約解除による賠償金を支払う羽目になっている。いわゆる労働契約変更について協議するときは、必ず新しい職位の名称、業務内容、職責、賃金(報酬)などを明確にしなければならない。本案件中のA社は潘氏らに新しい職位の面接の機会を与えただけで、潘氏がどの職位を選ぶか、その職位に就けるか、仕事の内容はどうか、賃金はいくらか、といった内容について一切協議を行っていない。ゆえにA社は、労働者と協議する義務を履行していないと見なされたのである。

四、使用単位が用人单位要提前三十日前の通知または賃金の1ヶ月分の解雇予告手当を支払っていること。「無過失の状態において労働契約の締結を辞退する権利」を行使する場合であっても、使用単位は事前通知か予告手当を支払わなければならない。

2、会社側は一方的に職位を廃止することは、「客観的にみて重大な変化が生じた」ことになるのか?

会社側は、経営上の都合や企業全体の編成上の必要性により、現在の制度体系や従業員の職位、配置などを調整し、増減することを、会社の自治権として認められている。会社側が従業員の職位を廃止する場合は、必然的に従業員の業務内容や賃金待遇、就業時間、就業場所に変化が生じることになる。しかし、従業員のもとの職位が消滅し存在しなくなったことが、必ずしも労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化があったことを意味するものではない。

実際によく見られる「客観的にみて重大な変化が生じて」職位そのものが消滅するパターンは、以下の二通りである。

一、会社側に大きな技術革新の波が押し寄せ、ある職位の必要性が極端に失われた場合。科学技術の発展目覚ましいこの時代にあって、大量のマンパワーを必要とする旧世代的な多くの職位が人工知能に取って代わられた。特に旧来型の製造業で、この流れは顕著である。このような状況下にあって、会社側は人件費や業務効率を考慮し、旧来の職位を廃止するのである。

二、業務収益が芳しくない不必要な職位を廃止する場合。但し実際の司法判断においては、業務収益が芳しくなく不必要な職位を廃止することが、労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が生じたとみなされるか否か議論が続いている。

注意しなければならないのは、もし職位の名称を変えただけでその業務内容や職責に何ら変化がないとき、または他の職位や部門と統合したが元の職位の業務自体は残っているときなどは、「客観的にみて重大な変化が生じた」事にはならない。なぜならそれは、表面上職位を廃止しただけで、元の職位の業務や労務が残っているからである。

本案件においてA社は、将潘氏の所属する部門の業務をI社へアウトソーシングするという、業務効率向上やコスト削減といった会社の成長ニーズに合った決定を下した。かつそれが潘氏の提供する労働の意味を消失せしめたものであるから、「労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が生じた」とみなされるのである。

ここで、会社の経営において起こりうるこの他の状況について見ていこう。

1、工場が移転する場合は「客観的にみて重大な変化が生じた」ことになるのか?

工場の移転は「客観的にみて重大な変化が生じた」に該当するのか?従業員が新しい工場への出勤を拒否した場合は、労働契約を解除できるのか?多くの会社がこの問題に直面している。この問題では、工場の移転が労働契約の履行に重大な変化を起こしているかどうかを見なければならない。

もし移転先がそれほど離れておらず労働契約の履行にもさしたる影響を及ぼさないならば、これは「客観的にみて重大な変化が生じた」とならない。この場合はただの労働契約の変更となるので、使用者は労働者と協議することになる。

もし移転先が別の省へ移転するなどした場合は、勤務場所が大きく変わっただけでなく、社会保険や最低賃金も変化するから、この場合は「客観的にみて重大な変化が生じた」ことになる。

2、職位の廃止を理由とした労働契約の解除ができない場合とは?

職位の廃止を理由とした労働契約の解除は、ある特定の労働者に対しては適用されない。使用者は、もし労働者が特殊な状況にあるときは、職位の廃止を理由として労働契約を解除してはならない。

一、特殊な職業に従事する労働者。じん肺による休業を余儀なくされる可能性がある労働者のように、もし労働者が職業病の危険に晒されている業務に従事しており、その労働者が離職前の健康診断を受けていない期間、または傷病観察期間にあるときは、使用単位は当該労働者との労働契約を解除してはならない。

二、すでに職業病を患い、または業務による負傷により全部または一部の労働能力を喪失した労働者。

三、病気や業務によらない負傷により、規定の医療療養期間にある労働者。

四、産前産後(妊娠期、出産期、授乳期)の女性労働者。

五、同一の事業単位で連続して満15年勤務し、法定定年年齢まで5年に満たない労働者。