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【判例】会社側の一方的な職位の廃止による労働契約解除は合法と言えるか?(2020年04月30日)

要旨

使用単位が技術革新などである技術の職位を廃止し、使用単位内で元の業務や労働に必要性が無くなったときは、「労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が起こった」とみなされる。使用単位が十分誠実に協議に応じたものの、労働者との合意に達しなかったときは、労働契約を解除することができるのである。

案例

桂氏は2004年6月7日にA社へ入社し、2014年6月1日より期間の定めのない魯同契約を締結した。桂氏は総経理助理として運営分析業務に従事し、運営データの収集、加工、処理を担当していた。

2017年1月6日、A社の経営陣は会議の結果、業務の客観的状況から職位の調整を行い、即日で運営分析の職位を廃止することを決定した。2017年1月13日、A社は桂氏へ業務内容の変更と売場管理への配置転換を告知したが、桂氏はこれを受け入れなかった。

A社は2017年1月19日と2月13日の二回、桂氏へ「運営部業務予定」と題したメールを送付し、業務の内容は上半期の運営の全体分析や2017年1-2月の売上予測を含むと通知したが、桂氏はいずれのメールにも「合理性のない配置転換には応じない」と回答した。A社は会社の業務配置に従わなかったことから、1月23日と3月20日に二度にわたって書面により警告したが、桂氏は「規則/紀律違反処分記録」への署名を拒んだ。

2017年5月4日、A社は人事部門総経理、経理、副経理及び営業部副総経理を交えて桂氏と話を進め、桂氏が新しい職位を受け入れることを期待しているとした上で、桂氏を売場の管理業務へと配置転換すると告げ、訓練や協力を惜しまないと伝えたが、桂氏はA社の配置調整を受け入れなかった。

2017年5月9日、A社は桂氏へ「通知書」を出し、桂氏へ会社側はすでに運営分析職を廃止したこと、桂氏の業務内容を調整し、運営分析から運営部の売場管理へ配置転換すること、職位に変動は無いこと、新しい職位の任に堪えるようになるまでバックアップすること、売場に必要な研修や指導をしっかり行うことを伝えたが、5月12日、桂氏は部門会議上でこの配置転換を拒否した。

2017年5月16日、A社は再び桂氏へ「通知書」を出し、会社側が労働契約法第四十条第(三)項の規定に基づき、双方間の労働契約を解除することを決定した旨を通達した。同6月4日、A社は労働契約の解除決定を工会に通知し、工会はこれを受け取った。6月5日、A社は桂氏へ5月分の賃金及び年休分の賃金14.5日分、経済保障金及び解雇予告手当を支払った。

2017年6月6日、桂氏は労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、違法な労働契約解除を理由としてA社に対し損害賠償を請求したが、仲裁庭はこれを棄却した。桂氏はこれを不服として、法院へ起訴した。

判決

法院は、「まず、『最高人民法院労働争議案件審理における法適用に関する若干問題の解釈(四)』第十二条には、『工会が組織されている使用単位が、労働契約法、第三十九条、第四十条の規定に該当しているものの、労働契約法第四十三条に定める工会への事前通知を行わず労働契約を解除し、労働者がこれを違法な労働契約解除であるとして損害賠償を請求したときは、人民法院はこれを支持する。但し提訴前に使用単位が適切な手続きを取った場合を除く』とある。

A社が提出した証拠によれば、同社は2017年6月4日の段階で既に桂氏との労働契約を解除する決定をした工会へ通知している。桂氏は工会がその役目を果たさなかったことが、A社の工会への通知が遅れた理由だとしているが、その主張は根拠を欠く。ゆえに桂氏のA社が違法な手続きで労働契約を解除した、との主張は採用しない。

次に、本案件の事実によれば、A社は2016年初より全国各店舗へERPシステムのオンラインネットワークを構築しており、2017年3月にはA社の店舗全てのERPシステムがオンライン化している。このことから、ERPシステムのオンライン化が原告・桂氏のデータ分析業務へ影響を与えたことに相違なく、A社のERPインターフェースの完成や、各店のERPシステムによるオンライン勤務時間表など、ERPシステムが大量のデータを分析する職位に取って代わったのは明らかである。ゆえにA社は2017年1月の専門会議において運営分析の職位を廃止したのである。運営分析職の廃止によって桂氏の職位は永久に失われたため、労働契約法の規定に則り労使双方は労働契約の変更のために協議をしなければならなくなった。

A社は最終的に運営分析の職位を廃止し、書面により桂氏の業務内容の変更を通知したが、桂氏はこれを拒否した。会社側はその後総経理、人事部門経理、副経理及び運営部副総経理と桂氏の間で協議を持たせ、桂氏へ他業務への配置転換を提示するとともに、桂氏への研修やバックアップも怠らない、と意思表示している。これらの行為はA社が桂氏との労働契約変更に対し協議をしたものと見ることができるが、労使双方は協議によっても合意に達しなかった。そのためA社は桂氏との労働契約を解除し、経済補償金と予告手当を支払ったものであるから、違法な労働契約解除には該当しない」として、桂氏の会社側に対する違法な労働契約解除による損害賠償請求を、事実に即していないとして棄却した。

分析

上述の案件は「協議による労働契約の変更」にかかる典型的な案件なので、いくつかの点について解説を加えたい。

1、どのような状況にあって始めて「客観的にみて重大な変化が生じた」ことを理由とした労働契約の解除が認められるのか?

「客観的にみて重大な変化が生じた」ことは、労働契約法において使用単位へ、「無過失の状態において労働契約の締結を辞退する権利 」を賦与するものである。また、従業位の職位を廃止するということは、必然的に業務内容や賃金、勤務時間、就業場所に変化が生じるということである。しかし、当該従業員が二度と元の職位に戻れないということは、「労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が起こった」ことを意味するものではない。

実際によく見られる「客観的に見て重大な変化が発生した」状況には、以下の2つが挙げられる。

一、会社側に大きな技術革新の波が押し寄せ、ある職位の必要性が極端に失われた場合。科学技術の発展目覚ましいこの時代にあって、大量のマンパワーを必要とする旧世代的な多くの職位が人工知能に取って代わられた。特に旧来型の製造業で、この流れは顕著である。このような状況下にあって、会社側は人件費や業務効率を考慮し、旧来の職位を撤廃するのである。本案件のA社がこれに当てはまり、ERPシステムの全面的オンライン化が、桂氏が元々従事していたデータ分析業務に取って変わったため、A社は桂氏の職位廃止を決定したのである。

二、業務収益が芳しくない不必要な職位を撤廃する場合。但し実際の司法判断においては、業務収益が芳しくなく不必要な職位を撤廃することが、労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が生じたとみなされるか否か議論が続いている。

注意しなければならないのは、もし職位の名称を変えただけでその業務内容や職責に何ら変化がないとき、または他の職位や部門と統合したが元の職位の業務自体は残っているときなどは、「客観的にみて重大な変化が生じた」事にはならない。なぜならそれは、表面上職位を撤廃しただけで、元の職位の業務や労務が残っているからである。

2、使用単位の職位廃止を理由とした一方的な労働契約解除権はどのような条件下で適用されるか?

もし使用単位が元の職位を廃止したときは、労働者との同意があれば労働契約を解除することができる。ただし、使用者が労働者の同意が得られないまま一方的に労働契約を解除しようとするときは、以下の条件を満たさなければならない。

一、職位の廃止により、労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が起こったこと。

二、職位廃止後、労働契約を履行できなくなっていること。元の職位が代替の効かない唯一の職位であり、職位廃止後も使用単位側にその職位の業務への需要がなく、かつ労働者が元の職位以外の労働を提供できないときは、「労働契約の履行が不可能である」と認められる。

三、労使双方の協議によっても労働契約の変更に合意が見られないこと。労働契約の変更は使用単位が労働者に対し調整するものである。労使双方に合意が見られない場合、使用単位は上記要件を満たしていれば、一方的に労働契約を解除することができる。

使用単位がこの種の案件を処理する際には、以下の点に注意が必要である。

1、職位の廃止後、使用単位はどのようにして合法的に労働契約を解除すべきか?

もし職位の廃止が「客観的にみて重大な変化が生じた」ことによるものならば、使用単位はその手続において以下の点に注意を払い、違法な労働契約解除とならないようにしなければならない。

一、職位の廃止は高級管理者たちが決定し、公示すること。職位の廃止は労働者の重要な権益に関わることなので、高級管理者たちによる議論を経て決定すべきである。決して個人の思いつきで決定を下してはならない。また、決定を下した場合は適時労働者へ公示しなければならない。

二、労働者と配置転換について協議すること。労働者の職位調整は合理性をもって行わなければならず、できるだけ業務内容、賃金待遇、求められる技能が元の職位に近い職位に配置転換しなければならない。もし労働者の技能が新しい職位の職責に堪えないときは、労働者へできる限りの訓練やその他必要な処置を施し、労働者が新しい職位にいち早く馴染むように配慮しなければならない。使用単位は、もし協議の過程において必要がある場合、録音や動画撮影を行うか、協議の議事録に労働者の署名をもらっておく必要がある。これは、協議が不調に終わった際に、他の会社側の代表者と協議を継続するためである。本案件のA社は桂氏との協議をたいへん合理的に進めており、十分参考となるものだろう。

三、協議が不成立に終わったときは、労働者へ労働契約の解除を伝える前に、工会へ通知すること。もし労使双方が協議によっても合意に達しなかったときは、使用単位は労働者へ労働契約の解除を通知し、その理由を伝えなければならない。しかし、使用単位はまず先に工会への通知を行うべきである。もし使用単位がこれを怠っているならば、すぐに修正すべきであろう。本案件のA社は労働契約解除前の段階では工会へ通知していないが、労働契約解除後から桂氏の起訴までの間に工会へ通知しているので、違法な労働契約解除とはならない。

四、30日前に労働契約解除を予告するか、予告手当を支払うこと。この点において、使用単位は予告手当の支払いをもって労働契約を解除することを推奨する。なぜなら、使用単位が労働契約の解除を予告した場合、当該労働者が労災事故を起こしたり、女性ならば妊娠したりと、意外な出来事が起こる可能性があるからである。このような出来事が起これば、使用単位は労働者との契約を解除できなくなる。

五、適時退職手続きを行うこと。使用単位は労働契約解除後15日以内に、適時退職手続きを行わなければならない。

2、職位の撤廃を理由とした労働契約の解除ができない場合とは?

職位の撤廃を理由とした労働契約の解除は、ある特定の労働者に対しては適用されない。使用者は、もし労働者が特殊な状況にあるときは、職位の撤廃を理由として労働契約を解除してはならない。

一、特殊な職業に従事する労働者。じん肺による休業を余儀なくされる可能性がある労働者のように、もし労働者が職業病の危険に晒されている業務に従事しており、その労働者が離職前の健康診断を受けていない期間、または傷病観察期間にあるときは、使用単位は当該労働者との労働契約を解除してはならない。

二、すでに職業病を患い、または業務による負傷により全部または一部の労働能力を喪失した労働者。

三、病気や業務によらない負傷により、規定の医療療養期間にある労働者。

四、産前産後(妊娠期、出産期、授乳期)の女性労働者。

五、同一の事業単位で連続して満15年勤務し、法定定年年齢まで5年に満たない労働者。