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【判例】労働者の一方的な離職により代替人員を雇った場合、使用単位は労働者へ損害賠償を請求できるか? (2020年05月27日)

案例:

王氏は2015年9月から某ホテルに勤め始め、フロントで宿泊料の徴収業務に就いていた、王氏の月給は2650元で、業績給は会社側の業績及び賃金計画に基づいて調整されていた。

2018年1月26日、王氏は会社側へ何も伝えることなく勝手に職場を離れ、それ以降戻って来なかった。

その後会社側は王氏へ「あなたが一昨日SMSで突然離職を申し出たために、ホテルの経営にも重大な悪影響が出ている。このような勝手な離職行為は、会社側より経済的損失に対する賠償請求及び法的責任の追究を受けることになる。このメッセージを受け取ったら速やかに会社側へ連絡して欲しい。一定期間を過ぎても連絡がない場合は法的手続きを辞さない」旨のショートメールを発信した。

王氏がその後会社との連絡を一切絶ったため、会社側は新たな宿泊料の徴収係を探さなければならなくなり、孫氏を臨時でその業務に就かせた。孫氏の賃金は一日350元であったため、30日間の就業期間に支払われた賃金は10500元に上った。

会社側は労働争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、王氏へ勝手な離職によって生じた損害額9000元を支払うよう求めた。

判決

仲裁庭は、王氏へ580元の損害賠償金の支払いを命じたが、会社側はこれを不服として法院へ提訴した。

一審は、「王氏が労働契約期間内に、会社側へ30日前までに書面により通知せず勝手に離職した行為は、『中華人民共和国労働法』第三十一条に定める『労働者は労働契約を解除するときは、30日前までに書面により使用単位へ通知しなければならない』との規定に反する。

労働部発(1995)223号『労働法に反する労働契約規定に関する賠償規則』第四条には、『労働者が規定及び労働契約の約定に反して労働契約を解除し、使用単位へ損害を生じせしめたときは、労働者は使用単位の下記の損害について賠償しなければならない。(一)使用単位の招聘にかかる費用(二)使用単位が負担した訓練にかかる費用(別途約定がある場合はその規定に従う)(三)生産経営及び業務に与えた直接的な経済的損失(四)労働契約に定めるその他の賠償すべき費用。』とある。

本案件において会社側は、王氏が勝手に離職したために、春節を間近に控えた時期にあって、王氏が従事していた徴収係の代替要員を臨時で雇った。これは合理的な行為であるから、会社側の訴えには法的根拠がある」とし、会社側に損失があることを認めた。

会社側は経済的損失額を9000元としており、孫氏の証言と会社側が提出した2018年1-2月の賃金台帳及び財務報告書から、これを証拠として採用した。しかし本案件の詳しい状況から、会社側が孫氏に支払った一日350元という賃金は、フロントの経理やオフィスの主任より明らかに高すぎることから、公平の原則により孫氏の賃金を一日150元として算定した。孫氏は計30日間勤務しており、賃金総額は4500元であることから、法院は王氏の一方的な離職による会社側の損害額を1599元(4500元-2901元)とし、王氏へ会社側が受けた損害額1599元を支払うよう命じた。

王氏はこれを不服として控訴した。

二審は、「中華人民共和国労働契約法」第三十七条に「労働者は30日前までに書面により使用単位へ通知することにより、労働契約を解除できる……」とあり、また同第九十条には「労働者が本法に反して労働契約を解除し、または労働契約に約定する機密保持規定及び競合忌避規定に反し、使用単位へ損害を生じせしめたときは、損害賠償責任を負う」とあることを挙げ、王氏が30日前までに書面により通知しなかった事は一方的な離職に該当し、使用単位へ一定の損害を与えたときは、これを賠償する責任があるとした上で、一審の算出した損害賠償額を妥当であるとして、王氏の訴えを退け原審を支持した。

分析

「中華人民共和国劳动合同法」第九十条には、労働者が本法に反して労働契約を解除し、または労働契約に約定する機密保持規定及び競合忌避規定に反し、使用単位へ損害を生じせしめたときは、損害賠償責任を負う」と定められている。

労働者が労働契約に約定する機密保持規定及び競合忌避規定に反した場合の損害賠償責任についてはここでは触れず、労働者による労働契約の違法な解除について論ずる。

本条項に定める労働者の損賠賠償責任は以下の3つの要件から構成される。一、違法行為があったこと、すなわち法律に基づかず労働契約を解除したこと。二、損害を与えた事実があること、すなわち労働者の違法行為によって使用単位へ損害を与えたこと。三、損害を与えた事実と違法行為との間に因果関係があること。すなわち労働者の違法な労働契約解除と使用単位の損害との間に因果関係があること。これらの要件をすべて満たしていなければならない。

「労働契約法」第37条には、「労働者は30日前までに書面により使用単位へ通知することにより、労働契約を解除できる」とあるが、この規定は労働者側から労働契約期間内に労働契約を解除する際にも、(1)30日前までに使用単位へ通知しなければならないこと(2)書面により使用単位へ通知しなければならないことを定めている。ゆえに労働者が、労働契約期間内に30日前までに、また書面による労働契約解除の通知を行わなかった場合は、違法な労働契約解除と見なされるのである。

注意しなければならないのは、労働者がこれらの要件を満たさず一方的に労働契約を解除し使用単位へ損害を与えたとしても、労働者側は必ずしも損害賠償責任を負わないという点である。「労働契約法」は、「強迫による労働契約解除」について例外的な規定を定めている。

「労働契約法」第三十八条の一項及び二項では、このように規定されている。

使用者に以下の状況のいずれかがある場合、労働者は労働契約を解除することができる。

(1)労働契約の約定どおりに労働保護又は労働条件を提供しない場合

(2)期限どおりに労働報酬を満額支給しない場合

(3)法により労働者のために社会保険料を納付しない場合

(4)使用者の規則制度が法律、法規の規定に違反し、労働者の権益に損害を与えた場合

(5)本法第二十六条第 1 項の規定する情況により、労働契約が無効となった場合

(6)法律、行政法規の規定する労働者が労働契約を解除することができるその他の状況

使用者が暴力、威嚇又は違法に人身の自由を制限する手段により労働者に労働を強制した場合、又は使用者が規則に違反し、労働者の人身の安全を脅かす危険作業を指示、強要した場合は、労働者は直ちに労働契約を解除することができ、使用者に事前に告知する必要はない。

労働者が、上述のような強迫を受けて労働契約を解除した場合を除く一般的な状況下で労働契約を解除するときは、30日前までに(試用期間中ならば3日前までに)書面により使用単位へ通知しなければならないのである。もしこれを怠れば、違法な労働契約解除と見なされることになる。

労働者が上記の規定に反して労働契約を解除し、使用者へ損害を与えた場合、労働者は使用者へ損害を賠償しなければならないが、実践においては使用単位側が客観的な損失額を把握し、かつその損害を証明しなければならない。これができなければ、その損害が認められることは難しいだろう。

本案件において会社側は、王氏の一方的な離職によりやむを得ず臨時で人を雇い入れ、実際に賃金を支払ったことを証明できたため、実際に損失があったと認められた。ゆえに法院は、労働者側へ損害賠償の支払いを命じたのである。