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【判例】労働者が使用単位へ与えた損害について、労働者の賃金から賠償金を控除できるか?(2020年05月27日)

案例

2014年5月、周氏は某光エレクトロニクス産業公司へ入社し、検査員の職に就いていた。

2017年10月、公司側の商品が品質検査で不合格の通知を受けた。公司側はこれを検査員の責任であると認識し、併せて周氏に対し「『良田』品質問題に関する処理案」を通知した。そこには、公司側とその他のスタッフが共同で損失の原因を作ったものであるから、算定の結果、周氏の当月の賃金を損害に対する賠償金として2571元控除することを決定した、とあった。周氏はこの処罰について合理性を欠くとし、双方間に争いが起こった。

仲裁委は、公司側は会社の損失が周氏によるものであることを証明できておらず、また損害額の根拠も示していないため、公司側の周氏に対する賃金の差し押さえ行為は認められないとし、公司側が証明責任を果たせなかったことを理由として、公司側へ罰金として控除した賃金を周氏へ返還するよう命じた。

分析

労働契約の履行において、従業員の不当行為により公司側に経済的損失が発生した場合、公司側はその損失額を従業員の賃金から差し引くことはできるだろうか?

一、そもそも賃金からの控除は可能なのか?

従業員が公司側へ経済的損失をもたらした場合、公司側は当然従業員へその損害を賠償する権利を有し、また賃金からその額を差し引くことができる。

元労働部「賃金支払暫定規定」第十六条には、「労働者本人の原因によって使用単位へ経済的損失が生じたときは、使用単位は労働契約法の約定に基づきその経済的損失を賠償するよう求めることができる。経済的損失の賠償については、労働者本人の賃金から控除できる。但しその額は、労働者の当月賃金の20%を超えてはならない。もし控除後の賃金が現地の最低賃金基準を下回るときは、最低賃金基準に則り賃金を支払う」とある。但し注意すべきは、公司側が従業員の賃金から控除するためには、従業員が公司側へ損害を与えたことを証明でき、かつ根拠ある損害額を算定できた場合に限られる点である。もしこれを証明出来なければ、客観的に見て存在する損害に対しても賃金から控除することはできない。

また、各地方に賃金の控除手続きに関する特別な規定があるときは、その規定に基づいて制度を運用しなければならない。例えば「広東省賃金支払条例」では、「労働者の過失により使用単位が直接的な経済的損失を被り、労働者が法に基づく賠償責任を負うときは、使用単位は労働者の賃金から賠償額を控除することができる。但し、控除される原因及び金額を書面によって事前に労働者へ通知しなければならない。書面による通知が無いときは、賃金を控除してはならない」と定められている。

二、使用単位は、労働者の賃金をいくらまで控除できるか?

上述の労働部の規定に基づき賃金から賠償金を控除するときは、控除部分が労働者の当月賃金の20%を超えてはならない。また、もし控除後の賃金が現地の最低賃金を下回ったときは、最低賃金を基準として賃金を支払わなければならない。

これは、毎月控除できる上限額及び控除後の下限額を指しており、一ヶ月間の賃金のみしか控除できないという事を意味しないので、もし労働者が以降も労働契約を履行するならば、引き続き控除することが可能である。しかしどのように控除する場合でも、控除後の賃金が最低賃金基準を下回らないよう保証しなければならない。

三、労働契約に規定がない場合は、賃金から控除できるか?

ある説では、「賃金支払暫定規定」第十六条「労働者本人の原因による使用単位の経済的損失について、使用単位は労働契約に基づき損害賠償を請求できる」中に、「労働契約に基づき損害賠償を請求できる」と明確に規定されていることから、労働契約に約定がないときは損害賠償を請求できないとの見方を示している。

しかし我々は、労働契約の約定は使用単位の損害賠償請求に影響しないと見ている。行為者の過失によって他人の民事的権益が侵害されたときは、行為者は法に基づく損害賠償責任を果たさなければならない。

実際に、地方法規の多くは「労働契約の約定」を要件としていない。例えば、「広東省賃金支払条例」第十五条には、「労働者が過失によって使用単位へ直接的な経済的損失が生じたときは、法に基づく損害賠償責任を負う。使用単位は損害賠償について賃金から控除することができる…」とある。この条文では「労働契約の約定によって」ではなく「法に基づいて」損害賠償責任を負うと規定されている。

四、使用単位は、損害賠償金の一括払いを求められるか?

実務において、使用単位は1ヶ月の賃金の中から一定比率の賃金を損害賠償金として控除する形になるのだが、労働者が離職した場合、公司側は賃金から控除することができなくなる。このような場合、使用単位は賠償金を一括で支払うよう求めることができる。労働者が離職し、客観的に見て使用単位が賃金からの控除による損害賠償金の支払いを受けられなくなったときは、使用単位は損害賠償金を一括で支払うよう求めることが許される。

例えば、「深圳市中級人民法院労働争議案件審理に関する手引」第九十九条には、労働者が労働契約の履行中に使用単位へ損害を与え、使用単位が労働契約を解除する際に労働者へ損害賠償金を一括で支払うよう求めたときは、これを支持する」とある。

また、「広東省高級人民法院労働争議案件審理における判断が困難な問題に関する解答(2017)」第5条もまた、「労働者が、労働関係の存続中に故意または重大な過失により使用単位へ直接的な経済的損失を与え、使用単位が双方の労働契約を解除した後、労働者へ損害賠償金を一括で支払うよう求めたときは、これを支持する」としている。

五、使用単位は、労働者から被った損害について全額賠償することができるか?

労働者が故意に会社の財産を破損したり、悪意をもって損害を与えたことを使用単位側で証明できない限り、実務上100%の損害賠償が認められることは難しい。法院は司法実務において、労働者の主観的悪意や過失の程度、与えた損害の大きさ、労働者の収入水準、責任能力及び使用単位側の安全教育、管理措置、保障水準、負うべき経営上のリスクなどの要素を酌量して賠償金の比率を決めるのである。