【判例】労災認定における「48時間」はどの時点から起算されるべきか?(2020年07月31日)
案例:
死亡した陳氏は甲社の従業員であった。2017年8月17日14時、会社責任者は出勤している陳氏に元気がなく、目の周りが黒くなっていることに気づき、陳氏を休ませるよう手配した。陳氏は同日14時06分に退勤し、15時05分前後にA医院で血液検査を行った結果、白血球に異常が認められたため、骨髄穿刺を行うよう薦められた。同日20時45分、陳氏はB医院にて血液検査と凝血検査、尿検査を行った。翌8月18日0時陳氏はC医院へ転院し、「急性白血病疑い、播種性血管内溶血?脳出血?」との診断を受けた後、0時35分には書面により危篤であるとの告知を受けた。陳氏は6時19分に自主退院した後、7時50分にD医院へ入院したものの、翌8月19日22時24分に死亡が確認された。死因は「脳出血?白血病疑い」とされた。2017年9月1日、甲社は市内人的資源社会保障局(以下人社局)へ労災認定申請を行ったが、市人社局は「労災不認定決定書」を交付し、労災またはみなし労災としないことを通知した。
争点:
本案件の陳氏について労災が認められるか否かについては、2つの意見に分かれている。一つは、陳氏が2017年8月17日14:06に退勤し15:05前後にA医院で診察を受け、8月19日22:24に死亡宣告が出されていることから、これを労災と見なさないという意見である。もう一つは、陳氏の実際の状況から、労災を認めるべきとの意見である。
分析:
我々は後者の意見が妥当であると考える。その理由は以下のとおりである。
一、発病した時刻の確定について、我が国の「労災保険条例」では、労災と認定される状況に規定されていないときは、第十五条に定める労災の状況と同一に見なす」とあり、この同条例第十五条第一項は、「従業員が労働時間内及びその職務にある中で突然発病し、死亡または48時間以内に救助の甲斐なく死亡したときは、これを労災とみなす」と定めている。「労働社会保障部『労災保険条例』実施における若干問題に関する意見」第三条にもまた、「従業員が労働時間内及びその職務にある中で突然発病し、死亡または48時間以内に救助の甲斐なく死亡したときは、これを労災とみなす」と規定されている。この「突然の発病」には、あらゆる疾病が含まれており、また「48時間」の起算時刻とは、医療機関がその疾病について初診を行った時刻である。このことから、労働時間内及びその職務にある中で突然発病し、死亡または48時間以内に救助の甲斐なく死亡したときの発病時刻は、医療機関がその疾病について初診を行った時刻とすべきである。
二、本案件における陳氏の初診時刻の確定について、「診断」とは、診察を行い病状及びその進行状況を判断することを言う。「診」とは医師が病気を判断するために病人の身体状況を観察することを言い、「断」とは判定や判断を意味する。労災認定にあって「初診」を判断するには、この意味合いを尊重しなければならない。初診の時刻は、医療機関が突然発病した従業員の身体を観察し、必要な検査を行うとともに、病状及びその進行状況を結論づけた時刻とすべきである。本案件において、陳氏は発病して会社を退勤し死亡するまでの間に4つの医療機関でたらい回しにされており、うちA医院とB医院では血液検査と凝血検査、尿検査などの検査を行っただけで病状の判断を行っていないことから、未だ「診断」されていない。その後8月18日0時にC医院へ至って初めて「急性白血病疑い、播種性血管内溶血?脳出血?」と診断されたのである。医療機関はこのとき初めて陳氏に対して診断を下していることから、この時間を初診の時刻とすべきである。
三、本案件の陳氏は、突然の発病後救助の甲斐なく死亡するまで48時間を経過していないことから、労災とすべきである。国務院「労災保険条例」第十五条第一項には、「従業員が労働時間内及びその職務にある中で突然発病し、死亡または48時間以内に救助の甲斐なく死亡したときは、これを労災とみなす」と定められており、本案件の陳氏は、いくつかの医療機関を経て2017年8月18日0時に初診を受け、2017年8月19日22時24分に死亡が確認されていることから、発病後48時間を経過していないと言える。ゆえに、陳氏は発病後48時間以内に救助の甲斐なく死亡したものであるから、上述「労災保険条例」の規定に基づき、労災と見なされるべきである。