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【判例】会社側は従業員の死亡後に労災保険料を追納することによって、労災補償による損失を軽減させることができるか?(2020年07月31日)

摘要:

入社したばかりで社会保険への加入手続きが完了していない従業員や、社会保険への加入を拒んだ一部従業員が、間の悪いことに労災に遭う――実務においてはこういった事例がよく発生する。「労災保険条例」の規定によれば、労災保険に加入しなければならないにも関わらず労災に加入していない従業員が労災に遭ったときは、使用単位が労災保険の待遇を補償しなければならないとしている。それでは、以下の案例における会社にように社会保険を追納することで社会保険上の損失を抑えることは可能なのであろうか?

案例一:

2015年1月1日、笪氏は会社側と2016年4月8日までの労働契約を締結した。

2015年7月7日、夜勤明けの笪氏は家へ帰る途中に交通事故に遭い負傷した。このとき会社側は笪氏の労災保険金を納付していなかった。

2015年8月、会社側は笪氏の2015年7月分の社会保険料を納付した。

2016年4月26日、人力資源社会保障局は笪氏の負傷を労災と認定した。

2016年8月30日、労働能力審査委員会は笪氏の障害を五級と判断し、自立生活に支障はないと判断した。

2016年11月24日、笪氏は弁護士を通じて、会社側へ労働能力を完全に喪失したことから職務遂行が不可能であるとして、会社側との労働契約を解除する旨を伝え、併せて障害補助一時金、医療補助一時金、障害者就業補助一時金に併せて、休職期間中の賃金及び労災認定費、経済補償金の支払いを求めた。

会社側は、労働関係を解除したとき笪氏はすでに法定退職年齢を超えていたため、障害補助一時金、医療補助一時金、障害者就業補助一時金は労災保険基金から支払われるべきだと主張した。

法院は会社側に対し、判決が有効となった日から10日以内に笪氏に対し障害補助一時金及び休職期間中の賃金を支払えとの判決を下した。

案例二

厳氏は広州市の某製紙工場の従業員であり、会社側は厳氏の労災保険料を2012年3月から2014年2月まで納付していた。厳氏は2014年2月に一旦離職し、2014年6月22日に再び同社へ入社している。このとき会社側は厳氏と2014年6月22日から2016年6月22日までの労働契約を締結したが、社会保険費を納付していなかった。

2015年8月17日、厳氏は貨物の運搬中に交通事故に遭い、死亡した。

2015年8月20日、会社側は急ぎ厳氏の2014年6月から2015年8月までの年金、労災保険、失業保険、医療保険、生育保険などを含む社会保険費を納付し、2015年8月24日にはこの保険料が引き落とされ、2015年8月25日に無事納付された。この追納金には、社会保険費の追納分の他に、延滞金も含まれていた。

2015年9月22日、会社側は厳氏の死亡について広州市白雲区の人力資源社会保障局へ労災認定を申請した。当局は2015年11月30日「労災認定決定書」を交付し、厳氏の死亡を労災と認めた。

2016年1月13日、厳氏の遺族は人社部へ厳氏の労災適用を申請したが、白雲区人社局は審査の結果、厳氏の死亡当時、会社側が厳氏の労災保険を納付していなかったことを理由としてこれを認めないという結論を出した。

厳氏の遺族はこれを不服として、法院へ行政訴訟を起こした。

社会保険センターは、一、「労災不認定決定書」は、厳氏が2015年8月17日に業務により死亡した後、会社側が同月20日に厳氏の保険加入及び2014年6月から2015年8月までの社会保険費を追納した事実によるものである。「社会保険法」第五十八条には、「使用単位は当該従業員の使用を開始した日から30日以内に、当該従業員について社会保険機構へ社会保険登録手続きを行わなければならない」とある。会社側は2014年6月22日に厳氏を雇い入れてから、2015年8月17日に業務により死亡するまでに1年以上もの間、厳氏の社会保険加入手続きを行わず、また社会保険費を納付しなかったものであり、違法行為があったことは極めて明白である。

二、「民法通則」第九条では、「公民は『出生の時から死亡する時まで民事的権利能力を有するものとし、法に基づき民事的権利を享受し、民事的義務を負うものとする」と定めている。また、「住民身分証条例」第十二条では、「公民が死亡したときは、公安機関がその身分証を回収する」とあり、「住民身分証条例実施細則」第二十条第(十三)項では、「公民が社会保険に加入し、社会的救済を得る場合において、その身分を証明するときは、住民身分証を提示することができる」とある。「社会保険法」第四条には、「中華人民共和国内の使用単位と個人は、法に基づき社会保険費を納付するものとする」とあり、「労働契約法」第四十四条第(三)項には「労働者が死亡または人民法院より死亡もしくは失踪宣告が出されたときは、労働契約を終了する」とある。厳氏は2015年8月17日業務により死亡したが、既に死亡した厳氏は既に「社会保険法」第三十三条に定める従業員ではなく、会社側との労働契約も終了しているから、社会保険への加入資格もまた喪失している。また、厳氏が死亡した後、その身分証及び身分証番号は既に失効しており、会社側が2015年8月20日に厳氏が業務により死亡した事実を隠蔽し、失効した身分証で厳氏の社会保険加入手続き及び労災保険料を含む社会保険費の追納を行った行為は違法であると言える。

三、「労災保険条例」第六十二条第三項には、「労災保険基金は、使用単位は労災保険に加入し、納付すべき労災保険料及び滞納金を納付して初めて、新たに発生した費用について労災保険基金へ請求できる」と定めてある。厳氏が2015年8月17日業務により死亡した後、会社側が8月20日になって社会保険費を追納した事実からも、労災保険基金はその費用を負担する必要はない。厳氏は会社側が社会保険費を納付した時点で既に死亡していたことから、親族供養補償金の給付にも同意しない、と反論した。

判決:

法院は審議後、死亡した人への追納は不可であると判断し、会社側に対し遺族へ本来受けるべき労災待遇を全額負担するよう命じた。

法院は、本案件の焦点が労災不認可決定の合法性についての審査にあるとし、「『労災保険条例』第六十二条第二項では、『本条例の規定に基づき労災保険に加入すべき従業員で、労災保険に加入していない使用単位の従業員に労災が発生したときは、使用単位は本条例の基準に基づく労災待遇における費用を支払わなければならない』とある。

本案件において、厳氏は会社側と2014年6月22日から2016年6月22日までの『労働契約』を締結し、2014年6月より職務に就いた。しかし会社側は『労災保険条例』第二条、第十条に規定する厳氏の労災保険料を適時納付せず、2015年8月17日に厳氏が貨物輸送中に交通事故で亡くなった日の段階でも、会社側は保険費用を納付していなかった。

『中華人民共和国民法通則』第九条では、『公民は『出生の時から死亡する時まで民事的権利能力を有するものとし、法に基づき民事的権利を享受し、民事的義務を負うものとする』と定めている。すなわち使用単位は被害者たる厳氏の死亡前に保険費を納付しなかったため、厳氏は労災保険に加入していないと見なされるのである。

このことから、『労災保険条例』第六十二条第二項の規定により、労災保険に加入すべきであるにも関わらず労災保険に加入していない使用単位の従業員に労災が発生したときは、本条に規定する労災待遇及び基準をもとに全費用を負担しなければならない」とした。

なお、厳氏の遺族による労災保険基金への請求は棄却されている。

分析:

上述の2つの案件では、従業員に労災が発生した時点で会社側が労災保険を納付しておらず、事後に労災保険料を納付している。規定では、納付を終えた後、新たに発生した労災費用については労災保険基金へ請求を求めることができるとされている。

正常に労災保険が納付されたときは、労災保険基金から障害補助一時金、労災医療補助一時金が支払われる。障害就業補助一時金と休業期間中の賃金は使用単位が支払うことになる。

案例一において、障害補助一時金は労災が発生した時点で既に発生している費用であり、新たに発生した費用ではないから、無事納付できたとしても労災保険基金へ支払いを求めることはできない。ゆえに法院は、使用単位へその支払を命じたのである。

労災医療補助一時金は労働契約の解除または終了時に支払われるものであり、納付後新たに発生した費用であるから、労災保険基金から支払われる。但し江蘇省の規定によれば、法定退職年齢に達している場合には労災医療補助金は支払われないため、法院でも認められないことになる。

案例二において、厳氏が交通事故で死亡した際会社側は厳氏を社会保険に加入させていなかったが、本来支払われるべき親族供養補償金は、使用単位が支払うことになる。

二、使用単位は、労災保険の追納によって労災未加入による損失を免れ得るか?

「労災保険条例」第六十二条第三項では、「労災保険基金は、使用単位は労災保険に加入し、納付すべき労災保険料及び滞納金を納付して初めて、新たに発生した費用について労災保険基金へ請求できる」と定めている。

この規定に照らすと、労災発生時には保険に加入していなかったが、労災発生後労災保険を追納した場合において、使用単位は追納後発生した費用について、労災保険基金に請求することができるということである。

それでは、ここでいう「新たな費用」とは何を指すのであろうか?

「人力資源社会保障部『労災保険条例』執行に関する若干問題についての意見(二)」第三条には、「労災保険条例」第六十二条に定める「新たに発生した費用」とは、労災保険に加入する前に起こった労災について、労災加入後に発生した費用を言う。この中で労災保険基金が費用を負担するか否かは、状況によって異なる。

(一)労災により傷害を負ったときは、保険加入後新たに発生した労災医療費労災快復費、入院食事補助費、管轄地区外通院交通費、補助器具配備費、生活援助費、一級から四級までの障害手当及び保険加入後に労働契約を解除されたときの労災医療補助一時金を支払わなければならない。

(二)労災により死亡したときには、保険加入後新たに発生した因工死亡的,支付参保后新发生的符合条件的供养亲属抚恤金。”

つまり、会社側は従業員の社会保険費の追納に成功した後で発生した多くの費用についてのみ、労災保険基金からの支払いを受けることができるのである。

例えば比較的重大な労災事故が発生した場合は、治療や快復に長い時間がかかり、その費用も膨大なものとなるだろう。そういった場合でも、追納さえすれば、以降に発生した費用については労災保険基金から支払われるのである。

また、従業員に傷害が残った場合や死亡した場合は、一級から四級までの障害手当、保険加入後に労働契約を解除されたときの労災医療補助一時金、条件に符号した際の親族供養補償金などの支払いが発生することがあり、その額は十数万、数十万、果ては百万元に達することもある。これらの費用も、労災保険基金から支払われるのである。なので、もし労災事故が発生したときは、使用単位は速やかに労災保険を追納すべきである。こうすることによって、使用単位は労災に加入しなかったことによる損失を大きく和らげることができるのである。

これらをまとめると、労災が発生した後でも使用単位が労災保険を納入すれば、その後に発生した費用については労災保険基金から支払われる、ということである。損失を和らげる意味でも、特に重大な労災事故が発生したときは、使用単位は速やかに労災保険料を追納すべきであろう。