【判例】外国人の従業員との労働契約が満了した場合も、経済補償金の支払いが必要となるか?(2020年09月28日)
摘要:
すでにご存知の通り、中国人は「中華人民共和国労働契約法」の保護を受けているため、労働契約が会社側の原因により不本意な形で終了した場合、会社側は経済補償金を支払わなければならない。経済補償金は、労働者が企業で働いた年数1年につき1ヶ月分を基準として支払われる(6ヶ月以上1年未満の場合は1年として算定、6ヶ月未満の場合は半月分の賃金となる)。それでは、外国人との労働契約が会社側の原因により不本意な形で終了した場合、経済補償金の支払い義務は発生するのだろうか?
案例一
パーカー社はMike氏のために2014年7月10日より2015年6月30日まで有効の外国人就業証の交付手続きを行い、その後就業期間を2017年6月30日まで延長した。2017年6月14日、パーカー社はMike氏へ労働契約満了通知書を発行し、「労働契約及び就業証の期間満了」を理由として、2017年6月30日をもってMike氏との労働契約を終了させた。その後労使双方間に経済補償金を巡って労働争議が発生し、双方とも労働人事争議仲裁委へ申し立てた。
上海市労働人事争議仲裁委員会は、パーカー社へ労働契約終了による経済補償金の支払いを命じた。
一審の浦東新区人民法院は、「労働契約の終了後に経済補償金を支払わなければならないか否かについて、労働契約に明確な規定がなく、具体的な約定もない以上、Mike氏の経済補償金の支払い請求はその根拠を欠くとして、経済補償金の支払いを認めない判決を言い渡した。
二審の上海一中院は、双方当事者間で交わした労働契約内に経済補償金の支払いに関する条項が無いことから、Mike氏の請求は根拠を欠くとして一審を支持した。
案例二:
Fiona氏は上海ドイツ学校と2014年1月10日から2017年7月31日までの「労働契約」を締結し、その後2017年2月26日、2017年8月1日から2018年7月31日までの「臨時職労務契約書」を締結した。2018年4月14日,上海ドイツ学校はFiona氏へEメールを送付し、2018年7月31日をもって労働契約を終了すると通知した。その後経済補償金を巡って双方は労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立てた。
上海市労働争議仲裁委員会は、上海ドイツ学校へ経済補償金を支払うよう命じた。
これに対して一審の青浦区人民法院は、「労働契約の終了に伴う経済補償金に関し、国内にて就業する外国人についてはは最低賃金基準、労働時間、休憩及び休暇、労働安全衛生及び社会保険の5項目についてのみ我が国の労働契約法が適用されるものであり、その他の事項は双方間の約定及び実際の履行内容によって決定される。労働契約は終了したが、労働契約書に経済補償金の約定がないことから、Fiona氏の上海ドイツ学校に対する経済補償金の支払いは請求の根拠を欠く」として、Fiona氏の訴えを退けた。
二審の上海二中院は、「『中華人民共和国労働契約法』は使用単位が労働者に対し経済補償金を支払うべき状況が示されている。Fiona氏は外国籍だが外国人就業証を有して中国国内で就業しているから、Fiona氏と上海ドイツ学校との間には合法的な労働契約関係があり、当然に『労働契約法』の保護を受ける。本案件において、Fiona氏と上海ドイツ学校の労働契約は期間満了によって終了した。労使双方で交わされた労働契約には、労働契約が期間満了となったときの経済補償金について規定されていないから、『労働契約法』の規定に基づいて処理される。『労働契約法』によれば、使用単位は労働契約満了後に労働者と労働契約を締結しないときは、経済補償金を支払わなければならない。このことから、Fiona氏の上海ドイツ学校に対する経済補償金の支払いは認められる」として、Fiona氏の訴えを認めた。
分析:
以上の上海一中院と二中院の判決は、(沪高法民一〔2006〕17号)上海市高級人民法院「労働争議案件審理に関する若干問題への回答」第二条の規定による。
(一)旧労働部、公安部、外交部、旧对外貿易経済協力部等四部門で公布する外国人の中国国内における就業管理規定(労部発(1996)29号)第二十二条、第二十三条に定める最低賃金、労働時間、休憩及び休暇、労働安全衛生、社会保険等の労働基準について当事者が適用を求めたときは、労働争議処理機構はこれを支持する。
(二)上述に定める規定外の約定及びその他労働の権利義務の履行については、労働争議処理機構は当事者の書面による労働契約や協議書、その他の協議形式及び実際の履行状況から判断する。
(三)当事者が上述(一)、(二)に定める根拠の他に労働基準及び労働待遇を提出したときは、労働争議処理機構はこれを支持しない。
この問題は総じて言えば、外国人との労働契約が会社側の都合により不本意な形で終了したときに経済補償金が発生するか否か、すなわち中国国内で就業する外国人に中国国民と同じく「中華人民共和国労働契約法」が完全に適用されるか、という問題である。司法実務においては、約定がない場合、上海市に限って言えば労働仲裁委、法院、中院、高院で異なる観点からの判断がなされており、争いとなる可能性が高い。ゆえに使用単位が外国籍の従業員と「労働契約」を締結するときは、必ず「労働契約」に経済補償金の算定基準を定め、争議の発生を未然に防ぐ必要があると言える。