ホーム > HRニュース > 中国HRニュース> 【判例】使用単位は、海外派遣労務契約において労働者へ保証金の支払いを求めることができるか?(2020年09月28日)

【判例】使用単位は、海外派遣労務契約において労働者へ保証金の支払いを求めることができるか?(2020年09月28日)

案例:

2016年7月20日、楽宝公司と張氏は2016年8月8日から2019年8月7日までの「労働契約書」を締結した。張氏はアフリカ大陸で勤務することとなっていた。楽宝公司は同日、「国外労務派遣雇用契約」を締結し、「張氏は楽宝公司の出国手続きに当たり、会社側へ前借り形式で保証金を支払う……張氏の業務期間における業務パフォーマンスが悪くなければ、楽宝公司と現場責任者による書面による認可を受けた後、張氏の帰国後一週間以内に実費に応じてパスポート及びビザの申請費、ビザ手数料、往復の航空費などを支払う……」としていた。

2016年8月19日、張氏はナイジェリアで業務に従事し始めたが、11月7日に離職した。

2017年4月6日、楽宝公司は労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、張氏に対し貸付金29760元の返済を求めたが、仲裁委はこの訴えを退けた。会社側はこれを不服として提訴した。

判決:

「国外労務派遣雇用契約」第三条第一項の標準条項の效力について。

使用単位は労働者を招聘するときに、労働者の身分証その他の証書を差し押さえたり、労働者へ担保を要求したり、労働者の財物を押収してはならない。よって、「国外労務派遣雇用契約」第三条第一項の「張氏は楽宝公司の出国手続きに当たり、会社側へ前借り形式で保証金を支払う」との定めは労働法の強制規定に反しており無効である。

また、標準条項において一方の責任を免除したり、相手方の主要な権利を排除したときは、その契約は無効となる。「国外労務派遣雇用契約」第三条第一項では、張氏の業務期間における業務パフォーマンスが悪くないことを前提として必要経費を支払うとしているが、パスポート及びビザの申請費、ビザ手数料、往復の航空費などはそもそも会社側が支払うべきものであるから、これは使用単位がその義務を免れ、労働者の主要な権利を排除する条項であると言える。総じて、「国外労務派遣雇用契約」第三条第一項は無効であり、法的拘束力を有しないと言える。

次に、借入明細書及び借用書における金銭の性質及び金額について、2016年7月20日に2度立て替え払いされた各10,000元の費用は飛行機代やビザ代など業務により発生したものであり、業務の遂行に必要不可欠な費用である。また2016年8月21日、9月5日、9月13日に立て替え払いされた各20,000ナイラ(ナイジェリア通貨)は小口費用、生活費などの正常な業務遂行及び生産経営に必要な費用である。会社側はこれらの出費を張氏の個人的な借入金とし、仮払票にある記載は会社側の記載方法に基づいて張氏が記載したと主張しているが、その証拠を提出していないことから、本院はこれを採用しない。また、2016年9月27日、9月30日に立て替えられた32,500ナイラ、79,000ナイラが、楽宝公司の張氏に対する訓練費用であることは、労使双方とも認めるところである。

総じて、上述の条項は業務によって生じた使用単位が負担すべき合理的費用であり、労働者が負担すべきものではまったくないから、楽宝公司の張氏に対する上記金額の支払い請求を棄却する。また、借入明細書に明記されたその他の借款7,045元について、会社側は借入があった事実及び借入金額の真実性を証明できなかったことから、この訴えも退ける。総じて、本院は楽宝公司による張氏に対する借入金29,760元の支払い請求を棄却する。ゆえに、会社側の訴えを全面的に棄却する。

分析:

上述の案例は典型的な労働者の国外派遣労務契約における保証金の合法性についての争いである。この案件について、いくつか詳細を解説したい。

1、海外派遣労務契約において労働者へ保証金の支払いを求めることはできるか?

労働契約法では、使用単位は労働者の招聘時に労働者の証明書を押収したり、担保の提供を求めてはならないとされている。これは具体的には、使用単位の以下の行為を禁じたものである。

一、労働者の身分証、臨時居住証、居住証、パスポートなどの証明書を押収すること。

二、労働者へ担保及び保証金を要求すること。

三、労働者の財物を差し押さえること。本案件で楽宝公司が張氏へ求めたような借入形式での差し押さえもこれに当たる。

これらの行為は国外派遣労務契約においてよく見られる違法行為である。労働者が遠い地域で労働に従事するため、適時有効な人的資源管理をしづらいことから、使用単位は労働者が勝手に離脱したり、帰国したりすることを防ぐために、証明書を押収したり保証金の支払いを求めたりといった方法で労働者の自由を「制限」するのである。これらの行為はすべて違法行為であり、労働契約に同様の約定があったとしても、労働契約法の強制規定に反するため無効となる。

2、労働者の海外勤務において発生した費用は誰が負担するのか?

労働者の海外派遣において、労働者が海外で労働を提供する過程で多額の費用(旅費や住居費、訓練費など)が発生したとき、この費用は誰が負担すべきだろうか?

労働者が労働を提供する上で欠かせない、例えば旅費や住居費、訓練費など業務の円滑な提供を保証する費用については、原則として使用単位が負担する。逆に買い物や旅行費用など、労働とは関係のない労働者個人が消費することで発生した費用については、労働者本人が負担しなければならない。

本案件において楽宝公司と張氏は、「張氏の業務期間における業務パフォーマンスが悪くなければ、楽宝公司と現場責任者による書面による認可を受けた後」にようやく会社側が費用を負担すると約定している。この約定は不合理に労働者の主要な権利を排除し、また使用単位の義務を免除しているから、無効な標準条項ということになる。ゆえに法院は楽宝公司の張氏に対する費用の支払い請求を退けたのである。

労働者の海外プロジェクトへの派遣については、以下の点を提起する。

1、海外労務派遣の際には行政手続きを厳格に遵守すること

我が国は海外への労務派遣を行う使用単位について厳格な規制があり、労働行政部門への法に基づく申請を経た上で、許可を受けて初めて海外労務派遣業務を行うことが可能となる。

海外労務派遣(労務外派)業務を行う使用単位については、商務部、外交部、公安部及び国家工商行政管理総局が2008年9月5日に聯合で公布した文書によると、国の認可を受けて海外労務協力経営資格及び海外業務アウトソーシング経営資格を有する企業が人員を採用する際には、その者の戸籍を管轄する省の商務部主管部門で事務手続きを行わなければならない、と定めている。もし手続きを経ずに人員を採用し、その事案が悪質であるときは、商務部は資格審査なしで海外労務協力経営資格を取り消す権利を有する。

この他、海外労務協力企業は経営資格を取得し登記してから5営業日以内に、指定の銀行へ小口現金を預け入れなければならない。小口現金の基準額は300万元で、現金及び銀行保証により預け入れる必要がある。

2、違法な労働契約解除を回避するために

労務派遣会社と派遣労働者との間に労使関係がない、すなわち実際の雇用主が労務派遣会社である場合で、違法な労働契約解除を構成する場合は、労務派遣会社が賠償責任を負う。 したがって、労務派遣会社は、違法に労働契約を解除しないよう、規範的に労働者を使用しなければならない。

また、労務派遣会社の使用単位と派遣契約締結に当たって、使用単位の原因で労働者に対する法的責任を負うこととなったときは、労務派遣会社は使用単位へすべての経済的損失を補償するよう求める権利を有することとなる。