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【判例】明確な基準なく試用期間の従業員を採用不合格とすることはできるか?(2020年10月31日)

案例:

2016年12月21日、楊氏はロボット製造会社へ入社し、商品経理の職に就いた。双方で定めた試用期間は三ヶ月であった。

同年12月28日、会社側は業務報告会を開き、楊氏はPPTで商品開発計画をプレゼンテーションした。これは、会社側の新人に対するテストであった。

二日後、会社側の人事部は、楊氏に対し、採用条件を満たせなかったことを理由として楊氏との労働契約を解除すると通告した。

楊氏は法院へ提訴し、会社側へ違法な労働契約解除による損害賠償金2万元余りと、時間外手当などの支払いを求めた。

会社側は、「楊氏のプレゼンテーションは商品開発計画を述べただけで、明らかにコンセプトが欠けていた。商品開発計画の経験と思考能力に欠けており、業務能力と会社側の要求に応えられるとは言えず、商品経理としての基本的素質に欠けている。また、試用期間内に試用単位側が考課を行う中で、素行不良や業務能力の欠如、無断欠勤などがあった場合は、いつでも試用期間を停止できる(労働契約を解除できる)と考える」と反論した。

判決:

一審は、「会社側は、楊氏の試用期間中における業務を不合格であるとし、採用条件を満たさないことを理由として労働関係を解除している。しかし労働者個人に業務遂行能力があるか否かを判断するには、双方で確認した基準が必要であり、これは双方が事前に約定しなければならないものである。使用単位は職責や考課方法、考課内容を明確にするとともに、その履行を告知し、労働者がその内容を知りうるようにしなければならない。また、労働者の考課にあっては、より完全な考課制度をもって当たり、明確性、客観性、公正性を欠いてはならない。しかしながら本案件において会社側は、楊氏に対し試用期間の採用テストに不合格であったことを伝え通知表を渡したものの、その内容は楊氏のプレゼンテーションに対する会社側の一方的な評価であり、これによって楊氏の職位に対する適合性を判断することはできず、また楊氏が採用条件を満たさなかったことを証明することもできない。

試用期間の労働者は職場環境や人間関係への適応など様々な課題を抱えているから、使用単位は多様な方法によって労働者の品格や思想、勤務態度、実務能力を見るべきであるところ、使用単位が明確な考課体系や考課形式、考課内容が見当たらない状況にあって、試用期間に採用条件を満たさなかったことを理由として労働者を直接解雇することは、関連法規の規定に反すると言える。

総じて、法院は当該事由による労働契約解除を違法と認め、会社側へ楊氏に対し1.9万余元の支払いを命じる」との判決を言い渡した。

会社側はこれを不服として控訴したが、二審は「会社側の商品経理職に求められる職責や考課制度が明らかに約定されていない現状にあって、楊氏の一度きりのプレゼンテーションで一方的に評価を下し、採用条件を満たさなかったことを理由として労働契約を解除したことは法的根拠を欠き、違法な労働契約解除と言える」として、控訴を棄却し原審を維持した。

分析:

使用単位は、試用期間において採用条件を満たさなかったことを理由として労働契約を解除することができる。この労働契約解除が認められるには、使用単位は以下の三つの要件を満たしていなければならない。

一、職位に対する職責、考課方法、考課内容を細かく、数値化できるよう定め、これを書面化していること。

二、採用条件を労働者へ明確に示していること。従業員が採用条件や考課基準を知らされていなかったり、採用条件が適用されなかったときは、使用単位はこれを理由として労働契約を解除できない。

三、使用単位が当該労働者について採用条件を満たさなかったことを証明できること。

また、使用単位の試用期間に対する理解が不十分であった場合、以下のようなケースが出現する可能性があるため、注意が必要である。

1、労働者を「試用して再雇用する」ことが可能だと思い込み、試用期間は無償または安い賃金で労働者を使用する。

法律において「試用」という概念はない。使用単位は採用条件を満たさなかった労働者との労働契約を解除できるが、労働に対する報酬は支払わなければならない。

試用期間中の労働者が正社員と同じような高い効率で業務に従事できるとは限らないが、試用期間中の賃金は法律の規定に基づいて支払わなければならない。すなわち、最低賃金を下回らない前提で、社内の同じ職位の賃金の80%、または労働契約に定める賃金の80%を下回ってはならないのである。

2、試用期間の労働者はいつでも解雇できると思い込む。

試用単位はしばしば、パフォーマンスに優れなかった試用期間の労働者はいつでも解雇できると思い込みがちだが、実際は試用期間であっても労働関係は存在しているのである。

法律によると、試用単位は試用期間中に採用条件を満たさないことが証明された労働者との労働契約を解除することができる。但し、当該労働者が採用条件を満たせなかったことを証明できないときは、試用単位は相応の法的リスクを負うこととなる。

当該労働者がその職位を担えるか否かは、労使双方で確認した基準によって測られなければならず、明確性、客観性、公正性があり社会通念上妥当と言える考課方法で判断しなければならないのである。

3、試用期間は随意に延長できると思い込む。

「労働契約法」では同一の試用単位が同一の労働者と試用期間について約定できるのはたった一度きりであると明言されている。その立法趣旨は、労働者と使用単位が安定した労働関係を確立し、使用単位が試用期間を何度も約定することで労働者の権益を侵すことを避けることにある。ゆえに、使用単位は試用期間を延長することができず、もし試用期間を延長すれば、それは「試用期間を二度約定した」と見なされ、違法行為として損害賠償を支払わなくてはならなくなるのである。

4、試用期間であっても女性に関する規定が適用されると思い込む。

多くの政策規定は妊娠期、出産期、授乳期などの特別な期間にある女性に対し特別な保護措置を採っている。その目的は優遇措置による社会的弱者の保護と労働関係の協調、社会的公正の実現にある。しかしながら、これらの保護措置は女性の労働者が自分の都合で使用単位の規定制度を無視することを認めるものではない。

実務において、女性の労働者が妊娠中で動けないことを理由に、休暇取得手続きを拒否する(無断欠勤する)事態がしばしば発生する。「労働契約法」では、従業員に重大な規定違反があったときは、会社側は従業員との労働契約を解除できるとしているが、この規定は前提条件を定めていない。すなわち、労働者が試用期間中に妊娠していても、法律に定める情況となったときは、試用単位は他の労働者と同じように労働契約を解除できるのである。