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【判例】在職期間にあらかじめ支払われた競業避止補償金は有効となるか?(2020年11月31日)

案例:

2017年4月に某教育センターを甲、楊氏を乙として締結された労働契約には、「乙は甲の必要性から、校長の職位に就くものとする。勤務場所はアモイとし、契約期間は2017年4月15日から2020年4月14日までの36ヶ月とする。乙の職位は主管クラスとし、年俸は150000元とする。甲は本採用された従業員に対し、1000元/月の競業避止手当を支払う。乙は本契約の有効期間及び離職後一年間(一般的な教職にあった場合は6か月)、他の個人及び組織とともに甲と競業する活動を行い、または甲と同業で競争関係にある企業へ入社してはならない。乙が管理職にあるときは、競業避止期間を二年に延長する。乙に個人的な理由があり、甲との協議により一致を見たときは、(甲は)在職中に競業避止手当を支払うことに同意する。但しこれは競業避止規定に何ら影響を与えるものではない…」とあった。

その後楊氏は離職したため、教育センターは楊氏を相手取り競業避止約款の解除と支払い済みの競業避止手当15000元の返還を求めた。これに対して楊氏は、協業避止手当は賃金の一部であるから返還の必要はないと反論した。

争点:

競業避止を目的とした経済的手当は賃金の構成要素となるか?

判決:

仲裁庭は、「楊氏の年俸150000元に含まれている双方の約定に基づく月1000元の競業避止手当は、楊氏の賃金を構成するものである。『中華人民共和国労働契約法』第23条第2項には、『使用単位は秘密保持義務を負う労働者に対して、労働契約又は秘密保持協議の中で労働者と競業避止約款を約定し、かつ労働契約を終了又は解除した後は、その競業避止期間内に労働者に対して月毎に支払う経済補償について約定することができる。労働者が競業避止の約定に違反したときは、約定に基づき使用者に対し違約金を支払わなければならない』とあることから、競業避止にかかる経済保証金は労働契約が終了または解除された後に支払うものであると言える。このことから、当該競業避止手当を称する競業避止補償金は、楊氏の賃金を構成するものであるから、楊氏は競業避止手当を返還する義務を追わない」との裁定を下した。

分析:

「労働契約法」第二十三条第二項には、「使用単位は秘密保持義務を負う労働者に対して、労働契約又は秘密保持協議の中で労働者と競業避止約款を約定し、かつ労働契約を終了又は解除した後は、その競業避止期間内に労働者に対して月毎に支払う経済補償について約定することができる。労働者が競業避止の約定に違反したときは、約定に基き使用者に対し違約金を支払わなければならない」とある。ゆえに、労使双方は競業避止を約定することができ、この場合労働者が離職した後の競業避止期間において、使用単位が労働者へ月毎に経済補償金を支払うこととなる。

一部の使用単位は立場上の強さを笠に、競業避止を約定すると同時に競業避止手当を賃金の一部に含め、悪意をもって競業避止手当の支払い義務を逃れようとする者もいる。このような手法が有効か否かについて国の法律法規では明確にされていないが、ほとんどの判決意見で労働関係が持続している間の競業避止手当の支払いを否定している。例えば、「広東省高級人民法院、広東省労働人事争議仲裁委員会における労働人事争議案件審理に関する若干問題の協議概要」第21条では、「労働契約が解除または終了した後、労働者が使用単位へ競業避止手当の支払いを求めたとき、または使用単位が約定に基づく競業避止手当を支払わないことを理由として競業避止義務を履行しなかったときにおいて、使用単位が労働者との労働関係が存在しているとき支払われた賃金の中に競業避止手当が含まれているとして抗弁したときは、これを認めない」としている。また、「天津市『労働契約法』の徹底における若干問題の実施細則」第九条は、「使用単位が労働者へ競業避止についての経済補償金を支払うときは、労働契約の解除または終了後にこれを支払わなければならない」と定めている。これらの他に新疆ウイグル自治区や深圳市などでもこのやり方を認めておらず、北京市でも明文化こそされていないものの司法実務においては一切認めていない。

在職期間中に支払われる競業避止手当は、一般的に賃金とされる。また、労働者は競業避止義務を履行して初めて競業避止の補償金の支払いを求めることができるが、もし使用単位が三ヶ月以上補償金を支払わなかったときは、労働者は競業避止協議を解除し競業避止義務を履行せずに済むよう求めることができる。ゆえに使用単位は、労働関係の存続期間に先行して経済補償金を支払うことを明確に規定しているのでなければ、労働者が離職した後の競業避止期間内は毎月経済補償金を支払わなければならないのである。事前に競業避止についての経済補償金を支払うことが認められる場合でも、その金額が現地の定める法定基準を下回らないようにしなければならない。また、競業避止の約款に賃金に含まれる具体的な金額が示されている場合は、その部分について欠勤などの理由で差し引くことはできない点も注意が必要である。