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【判例】使用単位が労働者へ明確に競業避止義務の履行不要を通知していない場合の競業避止義務の扱いはどうなるか?(2020年11月31日)

摘要:

労働契約法では競業避止協議について、労働契約または機密保持協議に競業避止約款が設けられており、当該労働者との労働契約が解除されまたは終了したときは、使用者は労働者に対し月毎に競業避止補償金を支払うものとすると定めている。実務においては、労働者の競業避止義務違反に対して使用単位が違約金の支払いを求める争いがしばしば発生している。しかしこれとは逆に、使用単位が競業避止義務を履行しなくてもよいと通知しているにも関わらず、労働者が競業避止義務を履行し補償金の支払いを求めるケースも出現している。このような状況下にあって、労使双方の法律関係はどのように見られるのだろうか?本文では具体的な事例を引用しながら、競業避止に対する法的問題を整理し論じていく。

案例:

2015年2月23日、黄氏はA社での勤務を開始した。同日労使双方は労働契約を締結し、併せて2015年2月23日付で「競業避止協議」を締結した。その第一条には競業避止の期限と範囲が、以下のように定められていた。

1、乙(黄氏)は甲(会社側)との労働契約を終了または解除するときは、事前に書面により『競業避止協議』を履行すべきかを確認しなければならない。甲が乙に対する競業避止の必要性を認めるときは、甲は乙に対し『競業避止開始通知書』を発し、乙に競業避止義務が生ずるものとする。甲との書面による同意がないときは、乙は一方的に競業避止義務を終了してはならない。甲が乙に競業避止の必要がないと判断したときは、甲は乙に対し7日以内に「競業避止終了通知書」を交付し、一方的に「競業避止協議」を解除でき、乙は「競業避止協議」解除以降競業避止義務を負わないものとする。

2、競業の範囲について、乙は甲を離職した日より、全国(競業避止の適用地域)の競合他社ならびに同様の事業単位へ就業してはならない……

3、乙は競業避止期間中、①いかなる原因で甲との労働契約を終了または解除した後も、離職後24ヶ月以内に甲と競合関係にある事業単位で労働し、または労働関係を結んではならない…」

また第二条には、甲の義務として「1、競業避止は乙の離職後に起算し、甲は競業避止の期間乙に対し一定の競業避止補償金を支払う。補償金は乙が甲にて勤務した期間のうち離職前の6ヶ月の平均(福利厚生、業績給、ボーナス等を除く)とする。2、本協議の発効をもって、乙は本協議に定める競業避止義務を負い、甲は競業避止に対する手当を支払う義務を負う」とあった。

2016年5月2日、A社は重大な紀律違反で黄氏との労働契約を解除した。

2018年5月7日、黄氏は上海市徐汇区労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、A社に対し2016年5月3日から2018年5月2日までの競業避止補償金360,000元の支払いを求めた。2018年5月13日、仲裁委は黄氏の請求を申し立て期間が過ぎていることを理由に受理せず、通知を出した。黄氏はこの通知を不服として、法院へ提訴した。

判決:

法院は、2017年5月3日より2018年5月2日までの競業避止補償金が仲裁時効を超えていないとの申立について、その実態を審議するとした上で、「使用単位と労働者は労働契約または機密保持協議において約定された競業避止及びその経済補償金について、双方に特別の約定がある場合を除き、労働者が競業避止義務を履行した後使用者が経済補償金を支払うものである。A社は労使双方が『競業避止協議』に署名しているため、A社が黄氏へ『競業避止開始通知書』または『競業避止協議発効履行通知書』を発していない現状、当該協議は発効していないと主張している。労使双方が署名した『競業避止協議』では、黄氏が離職する際には、いかなる理由であっても事前に書面により『競業避止協議』を履行すべきかを確認しなければならないとしており、A社は黄氏が競業避止義務を負わなくてもよいと判断している。しかし同『競業避止協議』は、黄氏がA社へ競業避止が必要か否かを確認しておらず、A社もまた『競業避止開始通知書』または『競業避止終了通知書』を送付していない状況下にあっても、黄氏が競業避止義務を負うか否かについては触れていない。ゆえにA社は労働契約が解除される前か解除以降において、黄氏がA社へ確認していない場合は、競業避止の必要がないなど明確な意思表示をすべきであったと言える。この点においてA社は明確な意思表示をしておらず、また黄氏が競業避止義務に違反したことを証明できなかったことから、A社へ競業避止補償金の支払いを命ずる」との判断を下した。

案件评析:

この問題については、以下の点について解説を加えていきたい。

1、使用単位は労働者へ競業避止義務を履行しないでよい旨を通知することができるが、必ず意思表示をしなければならない。

まずはっきりすべきなのは、いわゆる競業避止協議とは、本質的に使用単位の労働者に対する負担の一種であるという点である。これは労働者との労働関係解除の前に先約することにより、労働者自身が持つ技術や職業能力を得意な業務に活かす権利を買い取ることを言い、使用単位へ自身の商業的利益と競争の優位性を保護せしめるものである。ゆえに我が国においても、使用単位が競業避止協議を濫用して労働者の就業に影響を与えないように、競業避止を締結できる主体については厳格に定められており、またそれゆえに使用単位は自身の情況を考慮して労働者との競業避止協議を締結するか否かを決定する権利を有するのである。もし競業避止の必要がないと判断したときは、使用単位は労働者との労働関係が終了する際に競業避止義務の履行不要を通知することができ、この場合双方で約定した競業避止協議は解除されることとなる。

しかし注意しなければならないのは、まさに本案件の通り、使用単位が労働契約を解除する前もしくは解除後に、使用単位と労働者が確認していない情況にあって、使用単位側が競業避止義務の必要性を感じていないにも関わらず明確にその意思表示をしていない場合である。本案件において、使用単位が労働者への競業避止義務を必要だと認めたときは「競業避止開始通知書」を送付しなければならないと約定しているが、使用単位が通知書を送付していないことを反証できない情況にあって労働者に対し沈黙をもって競業避止協議の履行不要を宣告することはできない。使用単位の行為は「意思表示をしていない」情況に該当し、かつ労働者が競業避止義務に違反したことを証明できないことから、使用単位は約定に基づき競業避止補償金を支払わなければならないのである。

2、使用単位が競業避止義務の履行不要を通知した後は競業避止約款が解除されるが、労働者はすでに履行した期間の補償金の支払いを求めることができる。

上記に示したように、使用単位は労働者へ競業避止義務の履行不要を通知すれば、競業避止協議を解除できる。しかし労働者が解除前に競業避止義務を履行した期間については、使用単位に補償金の支払い義務が生じる。なぜなら労働協議の本質は契約の一種である以上、労使双方が権利義務を負うものであり、また、労働者自身は競業避止義務を遵守しており、更にある一定期間同義務を履行しなければならないのであるから、労働者には既に競業避止義務を履行した期間について使用者に対し補償金の支払いを求める権利を有するのである。

3、使用単位が競業避止期間中に競業避止協議の解除を求め、これに対し労働者側が経済補償金の支払いを求めた場合について、労働法司法解釈(四)では、「人民法院は、競業避止期間内に使用単位が競業避止協議の解除を求めた場合は、これを支持する」としている。

4、競業避止約款があるにも関わらず経済補償金の約定が無いときは、労働者は競業避止義務を履行した後使用単位へ補償金の支払いを求めることができる。

労使双方が労働契約または協議の中で競業避止を約定したものの、労働契約の解除もしくは終了後の経済補償金について約定していないときは、労働者は競業避止義務の履行後、使用単位へ補償金の支払いを求めることができる。補償金の額は、労働契約が解除または終了した時より遡って12ヶ月分の平均賃金の30%となる。もしこの金額が現地の最低賃金を下回るときは、現地の最低賃金額を基準として支払われる。

5、使用単位が経済補償金を一定期間支払わなかったときは、労働者は競業避止規定の解除を求めることができる。この場合でも、使用単位は競業避止義務を履行した期間について補償金を支払わなければならない。

労使双方が労働契約または協議において競業避止と経済補償金について約定し、労働契約の解除もしくは終了後、使用単位による原因によって3ヶ月間補償金が支払われなかった場合において、労働者が競業避止の解除を求めたときは、人民法院はこれを支持する。

注意しなければならないのは、使用単位が3ヶ月間補償金を支払わなかったことによって自動的に競業避止約款が解除されるわけではないという点である。労使双方のどちらか一方が履行すべき義務に反したとしても、協議が無効となるものではなく、労働者は人民法院で競業避止約款の解除を求めなければならないのである。

以上をまとめると、もし労働者が競業避止協議の履行を望まないときは、労働契約の締結後予約的に競業避止約款を設定しておき、労働者の離職時に競業避止協議の必要性を判断することができる。但し、競業避止義務を設定する必要が無くても、その方法や運用については必ず明示しておかなければならない。本案件における「競業避止開始通知書を送らない」といった行為があったときは、使用単位が労働者へ通知したとはみなされないのである。

また、競業避止約款は労働契約に付属する契約ではあるものの、その適用については独立した一つの契約とされるため、使用単位が違法に労働契約を解除した場合でも競業避止約款は無効とならない点において、労働者側も注意が必要である。労働者は絶対に競業避止の存在を無視してはならない。さもなければ、法的に重大な責任を被ることとなるのであろう。