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【判例】労働者の病気休暇中の兼職を理由として、労働契約を解除することはできるか?(2020年12月31日)

案例:

呉氏は某販売会社へ入社し、2009年4月からは業務代表者を務めていた。呉氏は3度の労働契約締結を経て、2014年4月に期間の定めのない労働契約を締結した。呉氏は2017年10月より病気休暇に入り、会社側は呉氏へ病気療養期間中の基本賃金を支払っていた。

2018年5月、呉氏と同じ会社に勤める徐氏は呉氏を食事に誘い、呉氏はこれに応じた。会食中、呉氏は某社の子会社である他社でWeb管理職を兼任していること、毎月6000元の報酬を得ていることを明かした。呉氏は、徐氏が会社の指示を受けて呉氏を会食に誘い、病気療養期間中に兼職している証拠を突き止めようとしていたことなど知る由もなく、このときの会話は徐氏によって余すところなく録音されていた。数日後、会社側は内部規律違反を理由として呉氏との労働関係を解除した。

呉氏はこれを不服として労働人事仲裁委員会へ仲裁を申し立て、違法な労働契約解除の損害賠償金及び医療補助金合わせて12万元余りの支払いをもとめたが、仲裁委はこれを棄却した。呉氏は更に法院へ提訴したが、一審もまたこの訴えを棄却し、更に控訴審である二審もこの訴えを退けた。

分析:

従業員が病気休暇を取った場合、使用者は法律に基づいて病気休暇手当を支払わなければならない。しかし、もし従業員が病気休暇をいいことに他の仕事を兼業していた場合、使用者は内部規定に基づき当該従業員を解雇できるのか?この問題について、以下の点を考察したい。

一、病気休暇中、仕事に従事し収入を得たことがあるか否か

病気休暇は会社側の従業員に対する福利厚生の一つである。労働部はかつて、労働者の「病気による休暇の取得権」を保護するために、「企業従業員の疾病及び業務に因らない負傷における医療期間規定」を公布した。このほか、上海市も2002年5月1日に「本市労働者の労働契約履行期間における疾病及び業務に因らない負傷の医療期間基準に関する規定」を公布するなど、各地方政府は病気休暇期間中の賃金待遇について規定を定めている。

企業が病気休暇中の従業員へ賃金を払い、社会保険費を納付するのは、従業員の病気期間中の休息を保障し、早期に健康を回復させ、業務へ復帰させるためである。もし従業員が病気休暇期間中に休息を取らず他の活動に従事したならば、それは病気休暇とは言えず、また誠実信頼の原則にも反する。旧労働部、国務院経貿辯、衛生部、国家工商行政管理局、中華全国労働組合らが1992年に聯合で公布した「従業員の疾病による長期休暇に対する企業の管理業務強化に関する通知」第四条には明確に「病気休暇中の従業員は収入がある活動に従事してはならない。機関、事業単位、社会団体及び企業は病気休暇中の従業員を雇用してはならない。病気休暇を利用して収入を得る活動を行った従業員については、その傷病保険待遇を停止し、医療費の立替を行わないものとするとともに、期間を定めて使用者へ復職させるものとする。批判的指導を受けてなお改善が見られないときは、『企業従業員奨励懲罰条例』及び規律違反規定に基づき処分する」と定められている。

このことから、従業員は病気休暇期間に収入のある活動を行ってはならず、もし会社側がある労働者について他の収入がある活動に従事していることが判明したときは、病気休暇手当の支払いと医療費の立替を停止し、期間を定めて復職するよう求めることができる。但し、この通知はかなり前に公布されたものであり、現在は医療保険が社会保険に統合され、治療期間の医療費も会社側負担ではなく医療保険側が責任を負うこととなったため、傷病保険待遇の停止は難しいであろう。また、「企業従業員奨励懲罰条例」もすでに廃止されており、現在は会社側が法に基づいて定めた規定制度に基づいて規律違反を犯した従業員の処分が決まる。もし従業員が病気休暇を利用して収入を得る活動をしていたときは、使用者は法に基づき自身で定めた規定制度に基づいて当該従業員を処分することとなる。

本案件において、呉氏は病気休暇期間中に兼職し每月6000元前後の収入を得ていた。二審は、「労働関係を締結した労働者と使用者は、労働契約の約定に基づき、十分かつ善意によって権利を行使し義務を履行しなければならない。また、労働者は使用者の管理を受ける義務がある。会社側が兼職禁止の規定制度に基づき呉氏との労働恵沢を解除したことに何ら不当性は無く、呉氏へ賠償金を支払う必要は無い。かつ、呉氏は会社側の許可を得ずに兼職した行為によって会社側との労働関係を解除されたものであるから、医療保険の支払いを受けるケースに該当しない」とし、控訴を棄却した上で一審を支持している。

当然のことながら、会社側が兼職の証拠を掴んでいることも重要である。会社側は一審で徐氏と呉氏の会話の録音記録を証拠として提出するとともに、徐氏を証人として出廷させており、これらが呉氏の兼職の事実を証明したのである。呉氏は、徐氏との会話の中で録音された兼職行為について、「会社側が故意に派遣した徐氏と夕食をともにした際に、徐氏の誘導尋問によって喋らされたものであり、事実と異なる」と主張したが、一審は録音記録と徐氏の証言から真実性を確認した。しかも録音記録からは徐氏が誘導尋問した形跡が見られず、呉氏が自ら兼職の情況を語っていたことから、録音記録が捏造であることは否定された。結果、この証拠は会社側の呉氏との労働契約解除が合法であることを証明するものとなり、呉氏の請求は棄却されたのである。

二、従業員の行為と使用者の利害が衝突しているか

実務において会社側は、病気休暇期間中の従業員が何らかの業務に従事し収入を得ている証拠を得られていなくても、業務そのものが会社側の経営活動と競合し、会社側の合法的利益を害するものであることを証明できれば、規定制度に基づき当該従業員を処分できる。なぜなら従業員が兼職によって利益を得ようが得まいが、その行為自身が職業道徳及び会社側の規定制度に反しているからである。この場合、当然のことながら会社側は従業員が社内規定制度を了承していることを証明する必要がある。

三、使用者が従業員の病気期間中の活動を禁じているか

もし従業員が病気休暇期間中に本職とは関係ない一般的な活動を行い、その行為によって病気が重くなりまたは回復が長引く可能性があるときは、当初の病気休暇の申請意図と異なることからその行為は違法となり、不適切なものとされる。但し、従業員が収入を得ておらずまた使用者との利害を害すことなく、かつ誠意信用の原則に重大な違反は無いときは、使用者の制度に明確な規定があり、かつ紀律違反が悪質でない限り、重大な紀律違反として処分することはできない。