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【判例】労働契約の自動延長を約定している場合でも、労働契約満了後の自動契約延長期間について、労働契約を締結しないことによる「賃金二倍払い」を免れることはできるか?(2021年1月29日)

●案例

張氏はオンラインでの求職活動の果てに、2014年3月16日上海市内の某コンサルティング会社へ入社した。2014年4月1日、張氏は会社側と労働契約を締結し、張氏が海外留学部門のコンサルティング業務を担当すること、労働契約期間を2014年4月1日より2015年3月31日までとすること、2014年4月1日より2014年4月30日を試用期間とすることを定めた。この労働契約には、「本契約は期間の定めのある契約である。甲(会社側)が乙(張氏)との労働契約を継続するときは、甲は本契約満了の30日以内に乙の意見を聞き、甲乙双方が同意したときは、労働契約を引き続き締結する(本労働契約の期間満了前30日以内に甲乙双方に異議がないときは、本契約は自動的に一年延長される)」と定めていた。張氏はこの会社で2015年9月18日まで勤務し、会社側は2015年9月30日に上海市単位離職証明書を発行した。

張氏は労働人事仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ2015年5月1日から2015年9月18日の期間について労働契約を締結しなかったことによる賃金二倍払いの差額を支払うよう求めた。審議において、会社側は「労使双方で締結した労働契約には、労働契約満了後契約期間が一年延長される旨の約定があるから、労働契約未締結による賃金二倍払いの差額分の支払いには応じられない」と主張した。これに対して張氏は、「労使双方で締結した労働契約は2014年4月1日から2015年3月31日までの有期契約である。当該契約の満了後、私は会社側へ何度も新しい労働契約を締結するよう求めたが、会社側はこれに応じなかった。確かに元の労働契約には『本労働契約の期間満了前30日以内に甲乙双方に異議がないときは、本契約は自動的に一年延長される』との一文があったが、この労働契約の自動的延長を定めた約款は無効である。同約款によって生まれた新たな労働契約は法で定める労働契約の形式に該当せず、更に同約款は労使双方の協議による書面での労働契約の締結を排除するものであり、労働者の義務負担を重くするものである」と主張した。

争点:

使用単位による労働契約に「労働契約満了後に双方異議が無ければ、当該労働契約は自動的に一年延長される」との文言がある場合において、使用者がこの条項を適用し、労働者との労働契約を再締結しなかったとき、労働者は使用単位に対し労働契約未締結による賃金二倍払いを主張できるか?

判決:

仲裁委は審理の結果、「法に基づいて締結された労働契約は当事者双方に対して拘束力を持つ。本案件において、労使双方で締結した労働契約中における「本労働契約の期間満了前30日以内に甲乙双方に異議がないときは、本契約は自動的に一年延長される」との約定は法律の規定に何ら抵触するものではなく、合法かつ有効である。会社側は労働契約に約定する契約期間の満了後も労働契約を終了させておらず、張氏もまた会社側へ契約の継続や新しい契約の締結を求めた証拠を提出していない。かつ張氏は(労働契約満了後も)引き続き出勤し、会社側も相応の賃金を支払っていたことから、労使双方は事実上労働契約の約定に基づき労働契約を延長していたと言える。また、書面によらない労働契約の変更が、当該規定に基づいて実際に履行され始めてから一ヶ月が過ぎており、また変更後の労働契約の内容も法律や行政法規、国家政策及び公序良俗に何ら反するものではないから、当該変更後の労働契約も当然に有効となる。このことから、張氏による労働契約の自動延長無効の主張は成立し得ない」とし、2015年4月1日より一年間延長された労働契約の2015年5月1日より2015年9月18日までの期間について、労働契約未締結による賃金二倍払いの差額の支払いを求める申請人の請求は事実に即しておらず法的根拠を欠くとして、請求を棄却した。

分析:

労働契約法に定める、労働契約未締結による「賃金二倍払い」は、使用単位と労働者の労働契約締結を促進し、安定した労働関係を構築するためのものであり、労働者へ労働報酬以外の利益をもたらすためのものではない。また、労働契約の締結と履行には、誠実信用の原則を尊ばなければならない。使用単位に「賃金二倍払い」の必要が生じるか否かを考慮する時は、使用単位が労働者との協議義務を履行したか、及び労働者が契約締結を拒否したか等の状況から判断しなければならないが、このケースでは双方間で合意した労働契約が満了した後も、労使双方は異議を唱えることなく当該労働契約に則り労働関係を継続していることから、労働契約が一年間延長されたものとするべきである。労働者は完全な民事行為を為せる自然人として、使用単位との労働契約締結の際に、労働契約に明記されている事項について承知しているはずであるから、労働契約の条項に含まれる意図についても全面的に理解し判断する能力があり、労働契約に署名することが法的にどのような効力をもたらすかについても十分に認識しているはずである。「労働契約期間満了後、労使双方が労働契約の継続に同意したときは、本契約は自動的に一年延長される」旨の約定が示す内容は明確でその意図もはっきりしており、誤解を招くような表現もされていないことから、法に定める強行法規に反する部分は存在しない。また労働契約の締結において、詐欺や脅迫、他人の弱みにつけ込む行為が無かったことから、当該労働契約は合法かつ有効であり、労使双方はこれを遵守しなければならないのである。

本案件の張氏は、労働契約満了後に労働契約の終了を選択できる立場にあったにも関わらず、労働契約の終了を選択せず当該使用単位での業務を継続しており、また会社側も労働契約終了の意思表示をしなかったことから、労使双方が労働契約継続の意思を持っていたことは明白であり、労働契約中にある「労働契約の一年自動延長」は労働契約期間の変更を約定したものであると言える。確かに労使双方は当該契約について書面による変更を行っておらず署名もしていないが、労使双方は変更された労働契約を一ヶ月以上履行しており、また変更後の労働契約は法律や行政法規、国家政策及び公序良俗に何ら反しておらず、張氏の権利義務に不利な影響を及ぼしていない。総じて、張氏と会社側は労働契約の満了後も新たな労働契約を締結していないが、労使双方ともに事実上労働契約の自動延長に同意していると見なされることから、自ずと会社側に「賃金二倍払い」の義務は生じないことになる。