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【判例】労働契約解除時に労働者の名誉権を侵害しない為には何をすべきか?(2021年3月31日)

案例:

王氏は2019年2月25日にある不動産管理会社へ入社し、経理職を任されていた。労使双方の労働契約期間は2019年3月1日より2020年2月28日までであった。2019年12月中旬、王氏は会社側へ離職を申し入れ、「正社員にしない」「賃金の支払いが遅れる」「社会保険費を負担しない」「強制的に退職されられた」「損害賠償を支払わない」等を理由として記載した退職願を提出した。会社側と王氏は双方間の話し合いによっても合意に達せず、会社側も退職願に署名捺印しなかった。

2019年12月23日、会社側はグループチャットへ「王同志との契約解除についての通知」と題したメッセージを送信した。メッセージには、「元総経理の王同志は、在職期間において社内規定制度を無視し、限界を超えて会社側の利益を損ね、重大な経済的損失をもたらした。その事実は以下の通りである。一、社用車の管理不良……王同志は社内規定を無視し、董事長による許可を得ずに、規約に反してナンバープレートを勝手に登録し、車両管理に混乱をもたらした結果、会社側へ経済的損失を生じせしめた。二、社内機密情報の窃取。2019年12月20日王同志は会社側の許可を得ずに、勝手に社内の機密書類をコピーし、コンピュータ内の機密情報をすべて削除し、会社側へ重大な損失をもたらした……以上のことから、会社側は王同志の解雇を決定したが、法的責任の追究は保留する……」とあった。2020年1月4日、会社側はEMSで王氏へ労働契約解除証明書を発送したが、王氏は受け取りを拒否した。

王氏は現地人民法院へ提訴し、会社側が王氏の解雇をグループチャット内で公告した行為は違法であるとして、会社側へメッセージの撤回と謝罪(影響の消去)を求めるとともに、精神的苦痛を理由として5万元の損害賠償を求めた。同時に、裁判にかかる費用の負担を会社側とするよう求めた。

これに対して会社側は、「王氏の起訴状にある行為はグループチャットにおいて王氏との労働契約解除を公告したものであり、会社側の管理行為であるから、名誉の侵害には当たらない。会社側には、原告の名誉を故意に侵害したり、侮辱したり、誹謗中傷したり、虚偽の事実を拡散したりした認識は無く、また王氏の社会的評価を著しく低下せしめるなど実際の損害は出ていない」と反論した。

法院は審理の結果、会社側へ2019年12月23日に送信された「王同志との契約解除についての通知」を削除するとともに、グループチャットにてその影響を消し王氏の名誉を回復するよう命じた。

判決:

名誉とは、公民の視点、行為、表現が形成する公民の品位、才能その他の素質に対する社会的評価を言い、公民の社会的価値に対する一般的認識である。名誉権とは、公民が社会生活の中で獲得した社会的評価や人格の尊厳を不可侵とする権利である。自然人は法に基づき名誉権を有し、その人格は法律によって厳格に保護される。会社側は、労働者を管理し労働者の労働、勤務状況について客観的かつ公正に評価する権利を有し、その評価は労働者の社会的評価全体を構成する重要な要素である。労働契約の解除後であっても、会社側は労働者へ付帯的にこの義務、すなわち労働者を保護する義務を負う。

会社側の労働者に対するネガティブな評価が労働者の名誉権を侵害するか否かは、会社側の行為に過失があったか、労働者の名誉が実際に傷ついたか、会社側の行為と労働者の名誉毀損に因果関係があるか否かを加味して判断される。もし会社側が労働契約解除の過程及び事後にあって労働契約に付随する義務に反し、名誉を毀損し労働者の社会的評価を低下せしめる情報を拡散したときは、労働者に対する名誉権の侵害を構成する。

本案件において法院は、「会社側は、話し合いによる労働契約解除が成立していない当日、すなわち2019年12月23日にグループチャットにて『王同志との契約解除についての通知』を公告した。この通知には『社内規定を無視し』『限界を超えて会社の利益を損ね』『社内機密情報の窃取』といった文言が並び、多くの人に閲覧された。会社側はこれらの違法行為について確たる証拠を有しておらず、原告の過失及び違法行為が証明されていない状況にあって、通知中に誹謗中傷や原告の社会的評価を貶める文言を並べており、原告の名誉権を侵害していると認められる。被告の民事的権利の侵害に対する王氏の主張に不当性は無く、法院はこれを支持する」として、会社側へ2019年12月23日の「王同志との契約解除についての通知」を削除するとともに、同じくグループチャットを用いて王氏の悪評を消し、名誉を回復するよう命じた。

分析:

「中華人民共和国民法典」第1024条には、「民事主体は名誉権を有する」と定められている。いかなる個人や組織であっても侮辱、誹謗中傷などによって他人の名誉権を侵害してはならない。名誉とは民事主体の品位、声望、才能、信用等の社会的評価を言い、名誉権は昨今段々と重視されている。使用者は法に基づき経営管理権を行使することができ、従業員の不当な行為をマネジメントすることができるが、その管理は合法かつ合理的なものでなくてはならない。

1、使用者の管理形式は合法かつ合理的でなければならない。使用者は出来る限り統一的かつ客観的な基準をもって、労働者が規定制度に反する不当行為をしていないか、労働者のパフォーマンスが職位に求められるレベルに達しているか等を含む、労働者の労働と勤務状況を判断しなければならない。統一的かつ客観的な基準によって、労働者への評価の公正性や客観性を高める必要があるのである。

また、使用者はある労働者との労働契約を終了または解除する際に、これを大々的に、または形を変えて公表することは慎むべきである。何故なら司法実務において、「通報批判」や「公開批判」などといったやり方は往々にして妥当ではないと判断され、労働者の名誉権を侵害するとされるからである。もし労働者の違反行為が事実であり、使用者がこれを処罰しようとするならば、「起こったことについてのみ」についてのみ罰し、道徳的評価に踏み込んで批判することは避けなければならない。

2、労働者へ発行する離職証明書等の資料は客観的かつ公正でなければならない。労働関係の解除を証明する書類等は労働者が転職先の使用者で必ず提出しなければならない資料であるから、労働市場にあって全ての使用者がその内容を知るところとなり得る。もしその資料に労働者にとって不利な記録が残されていれば、労働者の社会的地位が下落し、次の就職先を探す際に大きな障害となるであろう。使用者は労働契約解除に関する書類を発行する際、労働者へその理由を十分に説明した上で、文言の客観性、緻密性及び規範性に特に注意し、労働者へ発行される退職通知書、離職証明書及びその他の労働関係の解除を証明する文書に記載されている解除事由の客観的真実性を担保しなければならない。司法実務において、もし使用者が、労働者に不利となることを知りつつも労働者に対し不利な評価を記載した労働契約の解除を証明する書類を発行したときは、法院はこの行為を労働者への名誉棄損を構成するものと判断し、使用者に対し権利侵害の停止と損害賠償の支払いを命じる可能性がある。