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【判例】使用単位は、入職前に結婚した従業員についても婚姻休暇の取得を認めなければならないか?(2021年5月30日)

●案例:

2019年2月22日に婚姻証書を取得した孫氏は、2019年3月1日、六鈞公司に採用された。従業員登録表の婚姻状況欄には「既婚」と記入していた。

2019年3月5日、孫氏は会社側と2019年3月5日から2020年3月4日までの有期労働契約を締結した。賃金月額は11000元であった。

2019年5月16日、孫氏は会社側へ、実家で結婚式を挙げることを理由として2019年5月27日から6月10日まで15日間の休暇願を提出した。会社側はこれを受理せず、Wechat上で「婚姻休暇は婚姻証書に登録された日時を基準に取得できる」と回答した。

それでも孫氏は2019年5月22日、会社側へ再度休暇を申請したが、会社側の行政人事部からは、「入職時既に婚姻していたことから休暇の取得を許可しない」との回答が返ってきたのみであった。

孫氏はこれを受けてもなお、同年5月29日実家へ帰省し結婚式を挙げた。2019年5月30日、会社側は孫氏へ復職通知書を郵送し、孫氏へ5月31日までに復職し業務に従事するよう求めたが、孫氏はこれを無視した。孫氏は2019年6月3日から妻とともに日本旅行へ出かけ、6月11日になってようやく会社へ復職した。

2019年6月12日、会社側は孫氏へ労働契約解除通知書を交付した。その内容は、孫氏が無断で2019年5月29日より出社せず、会社の同意を得ないまま(休日、祝日を除く)12日間無断欠勤したことから、労働関係の解除を即日決定した、というものであった。

孫氏は労働争議仲裁委員会へ仲裁を申立て、会社側へ違法な労働契約解除による損害賠償金の支払いと休暇期間中の賃金の支払いを求めた。仲裁委は2019年6月28日に孫氏の申立を認めたが、会社側はこれを不服として法院へ提訴した。

一審は仲裁委と同じく、会社側へ違法な労働契約解除による損害賠償金の支払いと休暇期間中の賃金の支払いを命じた。会社側はなおもこれを不服として控訴したが、二審は控訴を棄却し、原審が確定した。

●判決:

法院は「『江蘇省人口及び計画出産条例』第二十七条第一項には、『法に基づき婚姻を登記した夫妻は、国が定める婚姻休暇(※注:国が定める婚姻休暇は1−3日間)に加えて、婚姻休暇を10日間延長する』と定められており、また『南京市人口及び計画出産規定』第十七条には『法に基づき婚姻を登記した夫妻は、国が定める婚姻休暇(3日)を含む15日間の婚姻休暇を取得できる』とある。

我が国の労働契約法の規定では、使用単位と労働者は労働契約の約定と国の定める法律に照らして各々の義務を全面的に履行しなければならないとされている。ゆえに、本案件の孫氏は15日間の婚姻休暇を取得する法に基づいた権利を有しており、会社側は使用単位として、孫氏へ有給の婚姻休暇を与える義務を負う。

本案件の事実に基づけば、孫氏は2019年2月22日に婚姻証書を取得した後、同年3月5日に入社している。入社前に15日間の婚姻休暇を取得することは客観的に不可能であるから、孫氏は入社後に婚姻休暇を取得でき、会社側はこれを拒んではならない。会社側は孫氏が申請した休暇願を『婚姻後に入社した』ことを理由として不受理としているが、これは事実と法律上の根拠を欠き、当該行為は使用単位が為すべき義務の不履行に該当し、法に定められた孫氏が婚姻休暇を取得する権利を侵害するものであると言える。

以上の事実から、本案件において孫氏が結婚証書を取得した日時に起算して結婚式の予定を決め、旅行後に職場復帰した行為は、無断欠勤に該当しない。ゆえに会社側が労働契約解除通知書において孫氏に12日間の無断欠勤があると認めた行為は、客観的事実と符合しない。本案件において、孫氏は採用時に既婚であることを隠蔽していない。また会社側は孫氏の婚姻休暇を受理しなかった正当な理由を示しておらず、孫氏が重大な社内規定違反を犯したことも証明できていない。

ゆえに、会社側が孫氏を重大な規律違反とした理由は成立し得ない。また、会社側が孫氏へ労働契約解除通知を送達したことは違法な労働契約の解除に該当する。一方、孫氏の会社側に対する未払い賃金の請求と違法な労働契約解除に対する損害賠償の請求は、法律の規定に即している」との判断を下した。

●分析:

中国各地では、国が定める1−3日の婚姻休暇をベースとして、更に婚姻休暇の日数を上乗せしている。例えば「上海市人口及び計画出産条例」には、「法律の規定に基づき婚姻した公民は、国が定める婚姻休暇を除き、婚姻休暇を7日間加増する」とある。すなわち上海市内で合法的に婚姻登記を行った職工は、10日間の婚姻休暇を取得できるのである。なお、他都市の婚姻休暇は、北京市が10日、重慶市15日、山西省20日、河南省21日、河北省18日、福建省15日、甘粛省30日、雲南省18日、海南省13日、黒龍江省15日、吉林省15日、遼寧省10日、貴州省13日、陝西省13日、内モンゴル自治区13日、青海省15日などとなっている。

この他、労働社会保障部辯公庁「職工の再婚時における婚姻休暇の問題に関する返答」(労社部函[2000]84号)には、「『中華人民共和国婚姻法』及び国家による職工の婚姻及び忌引休暇の立法趣旨に則り、再婚者も初婚者と同様の法的地位を有するものとし、職工の再婚においては国家関連規定を参照して、初婚の職工と同一の婚姻休暇待遇を享受できるものとする」とある。

法律法規には婚姻休暇の申請期限について具体的に定められておらず、原則的に婚姻休暇は婚姻登記された日時に起算するとされているが、使用単位との労働関係が成立する前に婚姻証書を取得したものの婚姻休暇を取得していない従業員が、新しい使用単位で婚姻休暇を申請することは可能なのだろうか?

これについて法律法規に明確な規定はなく、使用単位の規定制度において明確に定めることができるが、その内容については合理性を有していなければならない。

例えば、使用単位の「就業規則」において「婚姻休暇は原則として『婚姻証書』を取得した日から起算して二年以内に、一括して使用するものとする(期限を超えた場合は権利を放棄したものとみなす)が、人的資源部門が認めた特別な事情がある場合はこの限りではない。従業員が本使用単位へ入社する前半年間以内に婚姻証書を取得しかつ婚姻休暇を取得していないときは、入社後半年以内に婚姻休暇を取得できる」との規定があれば、その規定は合理性があるとされる。

一部使用単位では、新しい従業員が入社前日に婚姻証書を取得するといったケースについて婚姻休暇の取得を許可していないが、これは明らかに配慮を欠いている。2019年2月22日に婚姻証書を取得し、同年3月5日に入社した本案件の孫氏のように、明らかに婚姻証書取得から入社までの間に15日間の婚姻休暇を取得できない場合は、特別な事情の範疇に入るため、従業員が入社後婚姻休暇を申請した場合、使用単位はこれを拒否できないのである。

但し、使用単位は業務の進行状況を見て、従業員との話し合いによって具体的な休暇の期日を決めることができる。我が国の国内事情(婚姻登記後すぐに結婚式を挙げるとは限らない)を鑑みれば、従業員の婚姻休暇の申請時期は柔軟に調整できるはずである。申請期限をどれくらいの長さとするか、起点を婚姻証書の取得日とするか結婚式を挙げた日とするかは、使用単位が法に反しない範囲で規定できる。この種の規定は労使双方の利便性という観点から、双方間の話し合いによって具体的な休暇時期を決められる余地が残されているのである。

しかし本案件は休暇日時の齟齬ではなく、孫氏の婚姻休暇取得資格に対する齟齬により引き起こされた争議である。会社側は、孫氏が婚姻休暇の申請資格を具えていないと認識し、また婚姻休暇を無断欠勤として一方的に労働契約を解除しているが、これは明らかな誤りである。