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【判例】使用単位は虚偽の経費精算をどのように認定し、処理を行うべきか?(2021年6月30日)

●案例:

王氏は2001年某グループ企業の支社へ入社し、経理職を担当していた。2018年5月、グループの会計監査部門は監査中、王氏の2018年2月から6月までの立替金の精算に問題があることに気づき、調査を開始した。会社側は王氏と当該期間に出張で利用したホテルに話を伺ったところ、その実態が判明した。それは、王氏が出張の際にホテルで実際にかかった費用が(主に飲食によって)予算を超えてしまい、ホテル側の従業員と話し合って経費を改ざんした宿泊費の領収書を発行してもらったが、実際の宿泊日数と整合性が取れなくなってしまったため、別に虚偽の領収書を用意してもらい辻褄を合わせた、という事であった。これを受けて会社側は2019年5月、王氏が事実に基づく出張滞在費の精算を行わず、虚偽の費用の精算を受け、また虚偽の領収書を提出したことから、「就業規則」の重大な規律違反に当たるとし、王氏との労働契約を解除した。

王氏はこれを不服として、「費用精算や領収書は会社側の財務部及び最高責任者の許可を得て申請したものであり、また虚偽の領収書はホテル側が発行したものであったため、これが虚偽の領収書であると知らなかった。2年前の会社側の処罰は明らかに不合理なものである」として、会社側へ違法な労働契約解除による損害賠償金の支払いを求めた。

●分析:

本案件の処理には、2つの焦点がある。

一、王氏の行為が虚偽の経費精算に当たるか否か。

王氏の行為が虚偽の経費精算に当たるか否かについては、以下の二点から判断する。

1、経費を精算すべき事実が存在したか否か。虚偽の経費精算が成立するためにはまず虚偽の存在がなければならない。虚偽には、そもそも領収書を発行するべき事実がない、すなわち領収書の発行そのものが虚偽であり、国家税務総局の領収書審査プラットフォームにおいても検索できないケースと、領収書の内容に虚偽がある、すなわち領収書を発行するべき事実はあるものの、記載内容が事実と異なるケースの2つがある。本案件は後者のケースで、王氏の出張費用の一部は明らかに飲食費であったにも関わらず、ホテル側の従業員は宿泊費として領収書を発行している。

2、故意に虚偽の経費精算を行ったか否か。虚偽の経費精算とは、行為者が自身の行為について理解しており、またその行為が誤ったもので他人の合法的権益を侵害するものだと知りながら、自身の希望を達成する目的で事実と異なる経費精算を行うことを言う。本案件において、王氏は故意で虚偽の経費精算を行っており、例え王氏が主張するようにホテル側の領収書が虚偽だと知らなかったとしても、ホテル側の従業員に領収書を改ざんさせた事実から故意であると認められる。ゆえに、王氏が虚偽の経費精算を行った事実は成立する。

二、虚偽の経費精算における王氏の責任

本案件において王氏は、「清算費用と領収書については会社の財務部門及び最高責任者の承認を得ており、上層部の許可を得たのだから重大な規定違反に該当しない。虚偽の領収書についての問題は会社側の財務部と上層部の審査の問題であり、自分とは関係ないから、自身に虚偽の経費精算にかかる法的責任はなく、会社側には自身との労働契約を解除する理由がない」と主張している。しかし、王氏の経費精算は確かに会社側の財務部や上層部の認可を得ており、王氏は自身の行為を責任転嫁しようとしているが、王氏は審査における会社の財務部門及び上層部の過失と関係なく、自分が犯した虚偽の経費精算の責任を負わされることとなる。

これらのことから、王氏の行為は虚偽の経費精算に該当し、王氏は「就業規則」の規定による労働契約解除を免れえないということになるが、虚偽の経費精算について我々は、以下の処分を検討することを推奨する。

一、虚偽の経費精算により発生する法的責任

1、民事責任。我が国の「民法通則」第九十二条には、「合法的な根拠なく不当な利益を得、他人に損害を与えたときは、損害を受けた者へ不当な利益を返還しなければならない」とある。この規定に基づけば、虚偽の経費精算を行った労働者はそれによって得た不当な利益を返還しなければならず、すなわち精算された金額を使用単位へ返還しなければならない。しかし、我が国の民法では「主張者による証明」が原則であるため、もし使用者がある労働者について不当な利益を得たとしたときは、使用単位がこれを証明しなければならない。ゆえに、使用単位は労働者の不当利得について証拠を集め、保管しておく必要がある。

2、刑事的責任。「刑法」第271条には、「労働者が職務上の立場を利用して、本単位の財物を違法に占有し、その数量及び金額が大きいときは、職務侵占罪となる」とある。また、虚偽の経費精算行為を「他人として」「自分として」「自分の替わりに」「他人を介して」行った場合は、「刑法」第205条の「付加価値税専用領収書偽造」及び「領収書偽造」の罪に当たる可能性が非常に高い。この他、もし労働者が領収書を買収するような行為があったときは、「刑法」第208条の「付加価値税専用領収書を違法に購入した罪または偽造の付加価値税専用領収書を購入した罪」に問われることとなる。

実務において、使用単位が労働者による虚偽の経費精算に気づいた際に最もよく見られる対処法は、労働者へ不当に所得した経費の返還を求め、併せて使用単位の規定制度に基づき警告や労働契約の解除などの処罰を行うというものである。しかし、この方法では規律違反の抑止力が足りず、他の労働者への警告作用も薄い。特に規定制度による処罰が望めないような状況にあって、虚偽の経費精算により私服を肥やすような行為が起これば、他の従業員が模倣する可能性もある。また、労働者が虚偽の経費精算を行うような状況にあっては、使用単位の税務部の質にも疑問が生じかねず、その監督責任を追求されるリスクを負うこととなる。ゆえに、労働者の行為が悪質なときは、使用単位は刑事罰も考慮に入れて対応すべきである。

二、虚偽の経費精算への対処法

1、調査確認する。もし従業員に虚偽の経費精算が疑われる行為があったときは、すぐに調査と確認を行う。調査には内部調査と外部調査の二つがあるが、まず内部調査で領収書の真実性や内容、発行時間、場所、人物、金額等について調査を行い、領収書の発行者に疑念が生じた場合は外部に調査を委託するのがベターである。内部調査と外部調査のいずれであっても、調査の際は秘密保持に注意しなければならない。

2、従業員に話を聞く。調査によって領収書に問題があると明らかにされた場合は、当該従業員に釈明するよう通知を出し、違反の事実と照らし合わせながら面談を行う。面談の再は従業員の陳述と弁明を伺いながら、使用単位としての立場や態度を鮮明にする。面談においては証拠となる証言を映像や録音といった形で保存する。領収書の発行現場を再現するのも良い方法の一つである。

3、定性評価を行う。使用単位在は虚偽の経費精算の全容を充分に把握した上で当該事案の事件性や証拠の充足、論理的合理性を検討し、自社及び外部機関で事案全体の評価を行う。

4、工会にて告知する。使用単位が当該従業員との労働契約解除を決めたときは、まず工会にて告知しなければならない。工会は、もしこの決定が法律法規や行政規定、労働契約の約定に反すると判断したときは、使用単位へ修正を要求する権利を有する。この場合は、工会の意見を取り入れつつ再度書面にて工会で告知することとなる。このプロセスを踏んで初めて、労働者へ労働契約解除を通知することができるのである。

三、虚偽の経費精算対策での注意点

1、あらかじめ関連制度を制定しておく。我が国の労働契約法では、使用単位は重大な労働契約違反を犯した労働者に対し、「使用単位の規定制度に基づいて」労働契約を解除する権利を有するとしているため、相応の制度的根拠が必要となる。ゆえに、使用単位による労働契約解除の合理性を高め、労働者の日常業務に対する手引きとするたにも、社内規定制度において虚偽の経費精算を違反行為と定めておくことを推奨する。このとき、例えば虚偽の経費精算へは警告を発するが、これが数回に及んだ場合や金額が大きい場合は労働契約を解除する、といった具合に、虚偽の経費精算の状況、回数、金額に応じてその処罰内容を詳細に定めておくとよい。

2、調査中の事案に対し証拠を収集する。この問題においては、証拠の不足によって労働契約の解除ができなくなることがよくあるが、法的措置を取られた後に証拠を収集するのは非常に困難である。ゆえに、使用単位は労働契約解除を決定するまえに規律違反の証拠を収集しておくことが重要であり、出来れば完全に証拠を固めてからアクションを起こすのが望ましい。また、これらの証拠と労働者の態度、事案の重要性及び利益の帰属を包括的に考慮した上で、適切な処置を行うことも、法的リスクを抑えるために有効である。

3、時効に注意し、適時処置を行う。虚偽の経費精算が実際に発生した時から大幅に遅れて発覚する、ということはよくある事である。我が国の法律法規には労働者の法律法規への違反行為の処理において強制規定を設けていないが、司法実践上は一般的に事案発生後1年から2年以内の処罰は合理的とされ、また不当利得の追求であってもその事項は3年と定められている。ゆえに、使用単位は少しでも虚偽の経費精算に疑念を頂いた場合は、先延ばしにせず速やかに処理を行い、時効の到来を避けるべきである。