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【判例】使用単位は「虚偽の経費精算」を理由として労働者を解雇できるか?(2021年6月30日)

●案例:

泰科公司は、元従業員の趙氏に対し、2016年3月7日から2017年9月25日の間に申請した領収書及びレシートの中に偽造があったことを理由として、精算された経費51115元の返還を求めた。

上海市徐匯区法院の調査の結果、趙氏は偽の領収書を使用していたことがわかった。本案件のものを含む計64枚の領収書のうち、会社側が調査を要求した35枚の全てについて問題があり、うち25枚には税務局の偽造印があり、うち5枚には「上海D有限公司」の捺印があったものの実際の金額と一致せず、残り5枚には「上海市楊浦区XX飲食店」の捺印があったものの、実際に支払いが行われた日時よりも遅い日時が記入されていた。

しかし、会社側の陳述及び会社側が提出した「出張旅費実施細則」には、従業員の飲食費の精算について明確に規定されていた。その内容は、「従業員が顧客を接待する際は事前に会社側へ接待の目的、人数、予算と費用を事前に申し出なければならない」とするものであった。このことから、上述の経費精算は接待前に会社側の許可を得ており、趙氏が勝手に接待を行ったのではなく、会社側の同意を得たものであることがわかった。また趙氏が経費を精算する際、会社側の財務担当者は提出された領収書やレシートを確認した上で精算を行っている。会社側は趙氏が領収書やレシートを偽造したり、店側に便宜を図ってもらおうとした証拠を提出していないことから、法院は会社側の請求を棄却した。

●争点:

「偽の領収書を発行した」ことを理由とした解雇は認められるか?

●分析:

労働争議案件においては、ケースによって労使のどちらが立証責任を負うかが異なる。「最高人民法院民事訴訟の証拠に関する若干規定」第六条によると、労働紛争の原因が使用単位の(懲戒)解雇、除名、採用取り消し、労働契約の解除、労働報酬の減額、労働者の労働年数の算定によるものであれば、使用単位がその立証責任を負う。

「労働契約法」第三十九条第二項には、労働者が使用単位の規定制度について重大な違反を犯したときは、使用単位は労働契約を解除することができ、またこの際は経済補償金の支払い義務を免れる。労働者による「虚偽の経費精算行為」が重大な規律違反となるかは、以下の点から判断する。

一、精算の根拠となる事実があるか否か

労働者が虚偽の経費精算に使う手口は多岐多様だが、虚偽の経費精算には、発行された領収書が連番になっている、精算が発生した事実はあるものの領収書を発行した事業単位が存在していない、記載金額と実際に発生した金額が一致していない、領収書と明細書が一致しない、等のケースがあり、また領収書の内容が事実であっても、適切ではない物品を購入している、領収書の発行理由と会計科目が一致していない等のケースが考えられる。このように、経費精算が事実と相違ないか否かが、一つの判断基準となる。

使用単位が事実の不存在を示す十分な証拠を提出できている場合、たとえ労働者が「会社からの許可を受けている」「費用はすでに精算されている」「精算は相殺となっている」等と主張しても、これらの主張が虚偽の経費精算の悪質性を覆すことはないため、司法機関はこれを理由とした労働契約の解除を認める。しかし、労働者側に経費精算の根拠があり、経費が公的な支出であるものの、領収書が偽物であったり、領収書番号が連番であったり、領収書の発行順番が前後していたりした場合は、労働者が領収書を偽造したか、使用単位の確認が適切であったか等他の要素を加味して判断されることとなる。

二、労働者が領収書を偽造しているか否か

重大な規律違反か否かの判断において、偽の領収書で経費を精算することと、領収書を偽造することはイコールではない。その判断は、労働者が故意で規律に違反したか否かが鍵となる。

一般的に、使用単位の財務担当者は一般の従業員に比べ領収書の真偽を見極める能力が高い。使用単位が労働者の領収書を審査、精算する際に、偽造された領収書が混同していたとしても、一般的な労働者にとって、事業者が発行した領収書の真偽を見極めるのは至難の技だろう。

本案件において、法院が使用単位の主張を認めなかったのは、経費精算に根拠があったことの他に、趙氏は実際に顧客を接待した上で事業者より領収書を受け取っており、領収書の偽造行為が見られなかったためである。たとえ趙氏が提出した領収書が偽造であっても、それは趙氏が領収書を偽造したことを証明するものではないのである。

会社側は趙氏の経費精算を行う際、領収書とレシートの金額を容易に照合できたはずだが、会社側は領収書とレシートの金額の不一致について何ら異議を唱えることなく経費を精算している。このことは会社側が領収書とレシートの金額の不一致を認め、受け入れていたことを意味する。

ゆえに、経費精算の根拠は非常に重要である。実社会での領収書の取り扱いにおいては、管理がずさんであったり領収書を紛失したりといった事態が頻発しており、労働者側が言うように、領収書は事業者が発行したものであり、偽造か否かを識別できないため、法院は労働者の抗弁に一定程度耳を傾ける。しかし、もし使用単位が、労働者側に悪意があり偽の領収書で経費精算を行ったり、故意に偽の領収書を購入したりしたことを証明できたならば、使用単位は重大な規律違反として労働者へ厳重な処分を下すことを許される。

三、虚偽の経費精算が悪質か否か

従業員による虚偽の経費精算の程度は様々だが、多くの企業が実際の費用よりも大きな金額で領収書を発行することを黙認している。司法機関もこれら虚偽の経費精算には比較的寛容であり、一般的に誠実信用の原則に大きく反したとは認められない。しかし、虚偽の経費精算の事実があり、会社側の財務部もチェックを通し、また労働者が故意に領収書を偽造した事実を証明するものが無かったケースにおいて、労働者が偽の領収書を提出した場合、会社側はこれを容認しなければならないのか?

その判断には、労働者による虚偽の経費精算が悪質か否かを見なければならない。労働者は、労働契約の履行において誠実信用の原則や労働紀律及び使用単位の合法な規定制度を遵守しなければならず、有効かつ合法で事実に基づいた領収書を提出する責任を負っている。労働者が領収書の真偽を見分ける能力には限界があるため、使用単位側の審査の際に過失や瑕疵があったか否かは、労働者の行為の違法性に何ら影響を与えるものではない。そして、もし偽の領収書の数量が多く、発行された期間も長く、金額が膨大であるならば、労働者が偽の領収書を見分ける力がなく悪意がないと主張したとしても、労働者の重大な信義則違反は認められ、使用単位の当該労働者との労働契約解除は有効と判断される可能性がある。