【判例】実習生が負傷した場合、誰が責任を負わなければならないか?(2021年7月30日)
●案例:
上海市で働く父母を持つ李氏は、四川省某県の農村戸籍に属している。彼は上海市内の中等職業学校で金型技術を学んでいたが、2018年7月、学校側は李氏を機械製造会社へ実習生として派遣した。李氏と学校側、企業の三方は実習協議書を締結し、実習期間を一年間、毎月の手当金を1800元から2000元と定めた。
実習期間中、李氏は頻繁に時間外労働へ従事させられていた。李氏は2018年11月1日(金曜日)夜に遅番として出勤した後、翌日(土曜日)すぐに早番として出勤した。この日は担当教官が不在で、他の教官がいただけであった。午前11時過ぎ、李氏は研磨機を操作中、電源を切り忘れたまま金型を交換している際に機械の電源が入ってしまい、右手の人差し指から小指までを切断する大怪我を負った。李氏はすぐに病院へ搬送され手術を受けた後入院し、退院後何度も病院へ通院することとなった。この事故によって会社側は医療費等の費用合計8万元を支払い、李氏もまた障害等級審査の結果、障害9級を認定された。
李氏一家は損害賠償について学校側や会社側と話し合うことができず、ついに会社側と学校側を相手取り、22万元余りの損害賠償の支払いを求めた。
これに対して会社側は、李氏が負傷した直接の原因は機械の操作ミスであり、また金型を交換する際に電源を切らなかったことから、原告自身に過失があったこと、また原告が農村戸籍であることから、農村戸籍の基準を適用とすべきである主張し、これらに基づいて損害賠償金を算定し、また過失責任分の金額を差し引くべきであるとした。
また学校側は、李氏が実習中で使用していた機械は会社側が管理していたものであり、学校側は事故の発生において何ら過失はないが、法院の判決を受け入れると表明した。
●判決:
一審は、「会社側は李氏に対する管理保護責任を果たしておらず、李氏の傷害とその結果について80%の責任を負う。しかし李氏自身も(機械の操作を)慎むべき義務を果たしていないから、その責任の20%を負うべきである。学校側は事故の発生について無過失であるから、当該事故に対する責任は負わない。李氏は四川省の農村戸籍であることから、損害賠償金は上海市の農村戸籍者の収入を基準として算定し、損害賠償金を76832元と認める。李氏の傷害における医療費、入院費(食費含む)、看護費、精神的苦痛による慰謝料、栄養費、欠勤補償費、障害に対する損害賠償金、交通費、(障害)審査費、日用品費等の合計180335.51元については、うち80%を会社側が負担するものとし、既に支払われた部分については控除する」とし、会社側へ李氏の傷害に対する賠償金70529.90元の支払いを命じた上で、李氏のその他の訴えを退けた。
李氏はこれを不服として、上海二中院へ控訴し、自身の傷害について自身が責任を負担すべきではないとした上で、学校が上海市にあることから、上海市の都市住民の算定基準を用いて損害賠償金を算定すべきであると主張した。
二審は、「まず、李氏の傷害は労働への従事におけるリスクの範囲内に属しており、李氏の過失は重過失ではなく一般的な過失であることから、李氏が自身の過失について責任を負う理由はない一方で、会社側は労働者の保護責任を全うしていないから、本案件に対する主たる責任を負う。次に、学校側は実習生を派遣する学校として、実習におけるリスクを抑制・防止すべき立場にあった。李氏が恒常的に時間外労働に従事させられており、また時間外労働中に事故が発生したにも関わらず、学校側は実習単位(会社側)へできる限り安全と事故防止を督促したことを証明できなかったことから、学校側も一部責任を負うべきである。最後に、「上海市中小学校学生傷害事故処理条例」によれば、障害を負った際の損害賠償金は等しく上海市都市住民の平均可処分所得を基準として算定すべきである」として、会社側へ148387.50元、学校側へ56781.50元の損害賠償金を李氏へ支払うよう命じた。
●分析:
本案件における法適用の主なポイントは以下の2点である。
1.実習生の一般的な過失による傷害は自己の責任とならない点の法的根拠について
労災保険条例には、職工が故意または違法行為によって業務中に傷害を負った場合を除き、職工が業務中に負った傷害は労災保険の適用を受ける、すなわち労災保険の適用においては過失責任が適用されないという原則がある。実習期間の実習生は、実習先の事業単位と正式な労働関係を確立してはいないものの、実習先の事業単位の指揮命令を受け、当該事業単位の利益創出に貢献するものであるから、実習生の業務中の傷害事故については、過失責任が単純に適用されない。傷害事故の発生に当たって実習生に過失があった場合でも、それが重過失でなければ、実習先の事業単位の損害賠償責任は軽減されない。但し本案件においては、学校が実習生の権利保護や防災措置を充分に取らなかったことから、会社側に80%、学校側に20%の責任を負わせている。
2.都市の小中学校へ通学する外地の学生が、教育活動中に傷害を受けた結果障害が残った場合、障害に対する賠償金は学校の所在地の都市住民の基準に基づき算定される点の法的根拠について
上海市人大常委会で可決された「上海市中小学校学生傷害事故処理条例」第二条では、「本市行政区域内の小中学校における教育活動期間中に発生した小中学生の人身傷害事故または死亡事故の処理については、本条例を適用する」と定められており、また同第二十条には「障害に対する賠償金は、傷害を受けた学生の傷害等級に基づき、本市前年度の都市住民平均可処分所得を基準として、傷害が発生した日より起算して二十年分として算定する」と、障害による賠償金の算定基準を定めている。このことから、上海市内の小中学校へ通学する学生が、教育活動中に傷害を受けた結果障害が残った場合は、上海市都市住民の可処分所得を基準として障害による賠償金の額が算定されることがわかる。また、最高人民法院の司法解釈によれば、司法実務においては一般的に、主たる収入を得ている地域と主たる居住地がどこであるかによって農村戸籍者の障害(死亡)賠償金の算定基準が当該都市の基準となるか否かが決まる。上海市の学校に通学する学生については、収入は無くとも主たる居住地と認められる基準を満たしていれば、上海市の算定基準を適用することができることとなっている。
また、制度的側面から言えば、実習生の受け入れ単位と学校側が共同で実習責任保険に加入しておけば、実習生の傷害に対するリスクを軽減できるだけでなく、実習生の権益の保護にも役立つ。