【判例】労働者が退勤後の会食を済ませた後、帰宅途中に交通事故に遭った場合、この事故は労災として認められるか?(2021年7月30日)
●案例:
張氏は強国公司の従業員である。2019年2月18日、張氏は退勤後会社付近のホテルへ赴き、同僚と会食を行った。この会食は同僚同士で私的に催したものだった。張氏は会食が終わり帰宅する途中交通事故に遭ったが、警察署は張氏に事故の責任はないと認定した。
溧陽人社局は、張氏が事故に遭った経緯を調べた上で、張氏は「退勤中に」事故に遭ったものではないと認め、労災不認定の決定通知書を発行した。張氏はこれを不服として行政訴訟を起こし、労災不認定の決定を取り消すよう求めた。
一審は、「本案件の争点は『張氏の交通事故が退勤の途中であったと認められるか』という点である。退勤の経路とは、原則として労働者の業務区域から生活区域までの合理的な経路を言うが、合理的な時間内に行われた子供の送迎や食料品の購入など生活に必要な活動については、合理的な経路の範疇に入ると認められる。また、上述の経路でなくとも、勤務場所から『第一の目的地』へ到達するまでの経路については、退勤の途中として認めるべきである。本案件において、張氏は退勤後同僚と私的な会食を行っているが、これは社交的活動であり業務の延長もしくは生活において必要な行動とは言えない。本案件における張氏の退勤経路は事業単位の場所から会食の場所までの経路を言うから、会食後の帰宅経路は『退勤中』には当たらない。ゆえに、張氏は交通事故発生時に退勤中ではなかったとする溧陽人社局の決定は何ら不当ではなく、張氏の交通事故には『労災保険条例』第十四条第六項の規定が適用されない」として、張氏の訴えを棄却した。
張氏はこれを不服として控訴した。二審は、「本案件の争点は『労災保険条例』第十四条第六項に定める『出勤または退勤の途中』の定義である。一審庭の判決にもあるように、例えば子供の送迎や食料品の購入のように、出勤または退勤の途中に日常生活に必要な活動を行い、かつこれが出勤または退勤を目的とする合理的な時間を超えない範囲であるならば、これを『出勤または退勤の途中』と認めるべきであり、反対に友人との会食のような場合は『出勤または退勤の途中』と認めるべきではない。『最高人民法院労災保険における行政による案件審理に関する若干問題についての規定』第六条の規定はこのケースに該当する。ゆえに本案件は、張氏が交通事故に遭った当日に参加した会食が『日常生活に必要な活動』であったかどうかを審査する必要がある。
張氏と会食した同僚の陳述によれば、事故当日は会社の一部同僚が集まり割り勘方式の会食を行っていた。会社側は審議において、この会食は会社側が催したものではないと主張しており、張氏もまた「会社側によるものではなく同僚同士で個人的に催した会食」であると述べている。ゆえに、この会食は友人同士の集会であり日常生活に必要な活動ではないと言える。また、証人の証言及び当事者の陳述から、張氏は会食後19時前後に帰路に就き、19時30分前後に事故が発生しているが、張氏は当日18時前後に会社を退勤しているから、本案件の会食が『合理的な退勤途中の時間』に行われたとは言えない。ゆえに張氏の帰宅途中の事故は『出勤または退勤の途中』とはみなされない」として、控訴理由が成立していないことから控訴を棄却し、原審を支持した。
●分析:
現行の「労災保険条例」第十四条第六項には、「出勤または退勤の途中に、本人の責任によらない理由で交通事故及び軌道交通、客船、列車の事故により傷害を負ったときは」これを労災と認める、とある。
この「出勤または退勤の途中」との文言は、表現こそ簡単だが、労働紛争においては極めて多彩な内容を含み、労使双方が自身を正しいと主張しがちである。
これについて我々は、「出勤または退勤の途中」という文言から、従業員が出勤または退勤を目的として、合理的な時間内に勤務地と居住地を結ぶ間の合理的な経路内にいること場合において「出勤または退勤の途中」に該当すると見るべきであると考える。「出勤及び退勤の途中」の認定には、少なくとも場所と時間、目的という3つの要素を検討しなければならないだろう。
要素一、「場所」
「出勤または退勤の途中」における場所とは、勤務地と居住地及びその間の合理的な経路を言う。当然、合理的な経路とは最短の経路を意味するものではなく、従業員が出勤または退勤する際に、正当な理由により合理的な寄り道をする場合も、合理的な経路とみなされるべきである。
この「居住地」と「勤務地」も幅広く解釈しなくてはならない。「居住地」には事業単位が提供した住居、配偶者や子女及び父母の居住地、仮住まい先が含まれ、また「勤務地」には固定または不定の勤務場所や、業務上の理由で外出する場所及び事業単位が参加を命じた集団活動が行われる場所が含まれるのである。
要素二、「時間」
ここで言う時間とは、「居住地から勤務地までの合理的な時間」を言う。合理的な時間には、移動距離の他に、交通状況や移動手段、気候の変化等も考慮されなければならない。
要素三、「目的」
「出勤または退勤の途中」の目的が「出勤または退勤」であることは自明の理であるから、「出勤または退勤」の目的を外れた場合、原則として「出勤または退勤の途中」とは認められない。では、従業員が通常の通勤路から外れて交通事故に遭った場合、これは労災と認められるのだろうか?我々はこの場合、「目的」をもとにこれを判断すべきだと考える。
「出勤または退勤の途中」とは、従業員が勤務地と居住地を合理的時間内に移動する途中を言うから、もしその途中に他の場所へ行き、業務や生活と全く関係が無い他の用事を行ったときは、その経路は「出勤または退勤の途中」に該当しない。例えば退勤後に友達との会食やショッピング等を行ったときは、「出勤または退勤」という目的から外れるため、友達との会食やシ ョッピング等へ向かう途中や、その後の帰宅経路は「出勤または退勤の途中」とはならない。但し、出勤中に子供を送ったり、退勤中に食料品を購入したりといった生活に必要な用事を行っており、かつ社会通念上妥当であるときは、当然に「出勤または退勤の途中」とみなされる。
この問題は表向き「出勤または退勤の途中」の経路と時間の合理性の問題に見えるが、その本質は「出勤または退勤」の目的の問題である。本案件において、張氏は同僚との私的な会食に臨んだことで「退勤」という目的から外れたため、会食の場所から自宅までの経路を「退勤の途中」と見なされなかった。そのため、帰宅途中に交通事故に遭ったにも関わらず、労災と認定されなかったのである。