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【判例】妊娠中の女性従業員による労働争議中の「労働契約を継続しがたい状況」はどのように判断されるか?(2021年8月27日)

●案例:

孟氏(女性)は2018年6月上旬、某一級都市所在の某食材会社と3年間の労働契約を結んだ。孟氏はマーケティング職に従事した後、2019年3月からは運営部門の運営経理職に就いていた(孟氏は、ある事務所の責任者を任されていた)。

2019年5月、会社側は、4つの事務所のスタッフを成都市へ呼び寄せ研修を行った後、(孟氏を含む)各責任者へ事務所を閉鎖するに当たり各自資産の処理と人材の再配置を行うよう求めた。その後孟氏は事務所の資産を処理し、事務所の賃貸契約を解除した。

2019年9月25日、会社側は孟氏へ労働契約解除通知書を発した。そこには、孟氏が会社側と労働契約を締結した時点から客観的に見て重大な変化があったため、労働契約を履行できなくなったと明記されていた。これに対して孟氏が会社側の和解案を拒否したため、会社側は2019年9月25日即日で孟氏との労働契約を解除した。

2019年10月、孟氏は現地の労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、労働関係の回復と併せて8月分、9月分の賃金及び時間外手当等を支払うよう求めた。仲裁庭は、会社側に対し労働契約の継続履行と2ヶ月分の賃金18970元の支払いを命じた(孟氏の他の請求は棄却した)。

会社側はこれを不服として、成都市錦江区人民法院へ提訴した。

一審は、「我が国の労働契約法には、妊娠期、出産期、哺乳期にある女性従業員に対して、使用単位が『労働契約締結時に鑑みて客観的状況に重大な変化が生じ、労働契約の履行が不可能となり、使用単位と労働者の話し合いによっても労働契約の内容を変更について合意に至らなかった』ことを理由として労働契約を解除することはできないとしている。本案件において、孟氏は2019年12月に一児を出産しており、これは原告(会社側)が当年9月に労働契約の解除を決定した際に、被告(孟氏)は妊娠期にあったことを示しているから、本案件は違法な労働契約の解除であると言える。しかも、会社側の事務所は既に閉鎖されたものの、会社そのものはまだ閉鎖されていない。このことから、孟氏と労働契約の履行について話し合う余地はあり、労使双方の労働契約は完全に履行が不可能という訳ではないと言える。更に勤怠管理責任者のWechat上の機能から、孟氏は当年8月と9月皆勤していることがわかる」として、仲裁庭の判決を支持した。

続く成都中院による控訴審においても、原審が維持された。

●分析:

「労働契約法」第四十八条の規定によると、使用単位が本法に反して労働契約を解除または終了させた場合で、労働者が労働契約の継続履行を求めたときは、使用単位は労働契約を継続履行しなければならない。また、労働者が労働契約の継続履行を求めないまたは労働契約の継続履行が不可能となったときは、使用単位は本法第八十七条に規定する損害賠償金を支払わなければならない。

実務上、使用単位が違法に労働契約を解除した場合、妊娠した女性従業員は自身の利益を保護すべく、通常使用単位へ労働契約の継続履行を求めるものであり、司法機関もこの訴えを認めている。しかし、「労働契約法」第四十八条には、労働契約の継続履行が不可能なときは、使用単位は労働契約を継続履行しなくてもよいとある。それでは、女性従業員の妊娠に関する案件において、どのような場合に「労働契約の継続履行が不可能」と認定されるのだろうか?また、一般的な従業員の場合と違う特別な要素が存在するのであろうか?

一、女性従業員の妊娠案件にかかる労働紛争においてよく見られる抗弁

使用単位がよく用いる抗弁には、以下のようなものがある。(1)労働契約締結時から見て客観的状況に重大な変化が生じたため、労働契約の履行が不可能となった。(2)従前の職位が代替職位に変更された、もしくは従前の職位が消滅したために、妊娠した女性従業員へ職位を提供することができない。(3)労働契約期間が満了した。(4)労使双方の対立が激しく、当該従業員と会社側との信頼関係は失われている。(5)会社が休業、営業停止または解散することとなった。

これらの抗弁について、以下に分析する。

二、それぞれの抗弁に対する司法機関の認定ルール

(一)労働契約締結時から見て客観的状況に重大な変化が生じたため、労働契約の履行が不可能となった。

使用単位は、「労働契約法」第四十条第三項「労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が起こり、労働契約の履行が不可能となり、使用者と労働者が協議を経ても労働契約の内容変更について合意できなかったとき(労働契約を解除できる)」に該当した場合、一般的な労働者との労働契約を解除できる。しかし、使用単位が三期(妊娠期、出産期、哺乳期)にある女性従業員に対し上記の規定を適用して労働契約を解除すれば、これは違法と認められる。使用単位がこの理由をもって妊娠した女性従業員との労働契約履行が不可能であると抗弁した場合、司法機関は労働契約の継続履行が可能か否かを総合的に判断することとなる(地域によって「客観的な状況に重大な変化が生じた」の解釈の度合いが異なるため、本文では使用単位の抗弁が「客観的な状況に重大な変化が生じた」と認められたと仮定して検討を進める)。

1、労働契約の変更について労使双方で話し合いを行ったか

客観的に見て重大な変化が発生した状況においては、労働契約の変更について労使双方で話し合いを行ったか否かが司法機関の主な判断要素となる。もし労使双方が話し合いを行っていない、または労働者が職位の変更や減俸などの条件を呑んだ上で労働契約の履行を求めている場合は、司法機関は話し合いによる労働契約の変更が可能と判断し、労働契約の継続履行を命ずることとなる。

2、使用単位の労働契約解除理由が「客観的に見て重大な変化が生じた」ことによるものか

もし使用単位の労働契約解除理由が「客観的に見て重大な変化が生じた」ことと全く関係のない、例えば重大な規律違反を理由とする労働契約の解除であった場合は、司法機関は労働契約解除時に「客観的に見て重大な変化が生じた」状況に無かったと判断し、上記と同じく労働契約の継続履行を認めることとなる。

(二)従前の職位が代替職位に変更された、もしくは従前の職位が消滅した

一般的な従業員のケースでも、通常「代替職位への変更」を理由として労働契約の継続履行が不可能となった、という主張は認められないが、妊娠中の女性従業員についてもこれは同じである。なぜなら司法機関は従業員の職位の独自性や非代替性、話し合いによる職位の変更ができるか否かを考慮するからである。

注意しなければならないのは、司法機関は妊娠中の女性従業員の案件についてはより厳しい尺度で判断するという点である。独自性や非代替性が認められる職位は、総経理や財務責任者など司法文書に挙がっている職位のみである。使用単位がこれら以外の職位での代替職位への変更を主張しても、その抗弁が司法機関に認められることは難しいであろう。

(三)労働契約が満了した

一般的な従業員のケースでは、訴訟中に労働契約が満了しかつ期間の定めのない労働契約が締結されていない場合、司法機関が釈明権を行使し、労働者が労働契約の継続履行を求めても、これは通常棄却される。

但し妊娠中の女性従業員に関する案件では、労働契約が満了したとしても、「労働契約法」第四十五条の規定により、労働契約が哺乳期満了時まで延長される。ゆえに、使用単位が労働契約の満了をもって抗弁したとしても、これが認められるのは難しい。また、仮にこれが認められたとしても、司法機関は使用単位へ労働契約満了日までの賃金の支払いを命じる可能性がある。

(四)労使双方の対立が激しく、当該従業員と会社側との信頼関係は失われている。

労働契約は人的な部分によるところが大きいため、労使双方の信用が労働契約の継続履行の前提となっている。しかし、妊娠中の女性従業員の案件においては、労使双方の信頼関係喪失の尺度がより厳格に適用される。例えば、一般的な労働紛争では、紛争に対する警告記録や労働紛争が何度も発生している事実、従業員の会社に対する不適当な発言などが信頼関係喪失の証拠としてよく挙げられるが、妊娠中の女性従業員に対する案件における証拠の採用については、司法機関はより慎重な審査を行う。

(五)会社が廃業、営業停止または解散することとなった。

使用単位が営業停止処分や閉鎖命令、廃業、解散などの客観的な理由により経営を継続できなくなったときは、客観的に見て労働契約の継続履行が不可能であるから、妊娠中の女性従業員であっても一般的な従業員であっても、労働契約の解除が認められる。但し、会社が営業停止の状態にあったとしても、司法機関は妊娠中の女性に関する案件審理の中で、会社側に営業実態があるか否か、他の会社が当該会社の権利義務の主体を担っていないか等の要素を鑑みて、労働契約の継続履行が可能か否かを判断することになる。

三、終わりに

妊娠中の女性従業員は一旦労働契約を解除されると、妊娠期、出産期、哺乳期の三期に渡って重大な影響を受ける。しかも、違法な労働契約解除による損害賠償金は「三期」の待遇に遥かに及ばないものである。ゆえに、司法機関は公平公正の原則に基づき「確実に労働契約を継続履行しがたい」状況であるか否かを厳格に審査し、慎重に判断を下すことで、「三期」にある女性従業員の合法的権益の毀損を避けるのである。今後も「三人っ子政策」を背景として、この司法機関の傾向は当面変わらないであろう。使用単位は「三期」にある女性に対する法律法規を厳格に遵守し、積極的に妊娠中の女性従業員への違法な解雇によるリスクを避けるべきである。