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【判例】女性従業員は生育手当と産休期間の賃金を同時に受け取ることができるか?(2021年8月27日)

●摘要:

生育手当とは、国の法律放棄が定める、女性従業員が出産のため職場を離れる期間、社会保険基金より女性従業員へ給付される生活費を言う。社会保険基金は、使用単位と従業員の生育保険費の納付に依拠して生育手当を給付する。国が定めた生育保険制度の立法主旨は、出産する女性従業員への生育手当の給付及び医療サービスの提供を通じて、出産により一時的に労働能力を失った女性従業員の基本的生活収入と医療保健を保障することにある。生育手当は一般的にまず使用単位より給付され、社会保険部門は使用単位が提出した資料をもとに生育手当を審査し、使用単位へその額を分割して支払うという形を取る。

●案例:

李氏は2014年2月某幼稚園へ入社し、副園長職に就いた。労使双方は書面による労働契約を締結し、幼稚園側は李氏を社会保険に加入させた。2015年8月12日、李氏は子どもを出産し、113日間の産休を取った。この間、幼稚園側は賃金21750元を支払っていた。社会保険部門によると、李氏の産休日数は113日、生育手当は12609元で、社会保険基金はこの手当を幼稚園側の講座へ振り込んでいた。李氏は2016年8月に離職した後労働仲裁を申立て、幼稚園側は生育手当12609元を支払うべきだと主張したが、仲裁庭はこれを棄却した。

李氏はこれを不服として法院へ提訴した。李氏は、産休期間幼稚園側が産休基準の賃金を支払うのは使用単位が当然に負うべき法的責任だが、生育手当は社会保険部門が審査の上幼稚園側に給付するものであり、この手当は出産により得られるものであるから、幼稚園側は生育手当を自身へ引き渡すべきだと主張した。これに対し幼稚園側は、李氏の産休期間、幼稚園側は元の賃金に基づいた産休基準の賃金を李氏へ支払っており、生育手当は既に支払われた産休期間の賃金を補完するためのものであるから、李氏が二重取りすることは認められない、と反論した。法院は最終的に李氏の訴えを棄却し、幼稚園側は生育手当を支払わなくてもよいとする判決を言い渡した。

●分析:

本案件の争点は、女性従業員は産休期間の賃金と生育手当の両方を受け取ることができるかという点である。司法実務においては2つの説に分かれており、一つは賃金と手当の双方を受け取ることができるという説である。これは、産休期間の賃金は使用単位が法律の規定に基づいて女性従業員へ支払われる労働の対価であり、生育手当は政府が女性従業員へ給付する生活費であるから、両者は互いに排除せず、双方を受け取れるとするものである。もう一つは、賃金と手当のどちらか一つのみを受け取れるとする説である。これは、生育手当は社会保険基金が社会保険に加入した使用単位に対し給付した後、使用単位が出産する女性従業員へこれを給付するものであり、産休期間の賃金は社会保険に加入していない使用単位に課せられた出産する女性従業員の待遇を保障するための支払い義務であるとする。その上で、この二者は保険加入と非保険加入の両ケースにおいて出産する女性従業員の一時的な職場離脱時における経済的収入を保障するものであるから、二者を同時に受け取ることはできない、と結論づける。司法実務においてはこちらが有力説となっている。

1.生育手当と産休期間の賃金の双方を同時に受け取ることはできない。

前述の通り、生育手当は出産期間の女性従業員に支払われる生活費であり、産休期間の賃金とは異なるが、両者とも産休期間の賃金としての性質を有している。使用単位は社会保険基金より給付された生育手当を、従業員の出産、産休期間の賃金および福利待遇のために使用しなければならない。そのため、出産する女性従業員は生育手当と産休期間の賃金の双方を同時に受け取ることはできず、二者択一となる。もし使用単位が生育保険費を納めておらず、社会保険基金からの給付を受けられないときは、使用単位は当該従業員へ産休期間の賃金を支払わなければならない。

「社会保険法」第56条第1款第1項には「職工が下記のいずれかに該当するときは、国が定める生育手当を受け取ることができる(一)女性職工が産休を取得したとき」と定められており、「女性職工労働保護特別規定」第8条第1款には、「女性職工の産休期間の生育手当について、既に生育保険に加入している者については、使用単位の上年度職工月平均賃金を基準として生育保険基金より給付する。生育保険に加入していない者については、女性職工の産休前の賃金を基準として使用単位が(賃金を)支払う」とある。

2.生育手当が女性従業員の賃金基準より低い場合は、使用単位がこれを補完しなければならない。

女性従業員の出産による一時離脱時の経済的収入を最大限に補完し、出産する女性従業員の合法的権益を保障するために、二者択一の関係にある生育手当と産休期間の賃金にも「高い方へ合わせる」原則が適用される。すなわち、社会保険基金による生育手当を女性従業員に給付している使用単位において、もし女性従業員の賃金基準のほうが生育手当より高い場合は、生育手当の他にその差額の賃金を補完して支払わなければならない。

一部地域では明確に「補完規定」を設けている。例えば広東省「広東省職工生育保険規定」第17条第2款には、「職工が既に生育手当を受給したときは、使用単位が生育手当に相当する額の賃金を支払ったとみなす。生育手当の金額が職工の賃金を上回るときは、使用単位は職工に対し生育手当を支払う。生育手当の金額が職工の賃金を下回るときは、使用単位はその差額を補完しなければならない」と規定されている。

3.違法出産に対しては生育手当及び産休期間の賃金が支払われない。

2015年12月、全国人大常委会において「人口及び計画出産法」が改定され、二人目の子どもの出産が全面的に開放された。これは、夫婦で二人の子どもを育てるよう我が国の計画出産政策を調整し、トップダウンで我が国における人口構造の不均衡問題の解決を試みるものである。また2017年9月26日、全国人大常委会法工委は広東省、雲南省など五省の人大常委会へ「人工及び計画出産における地方法規の適時修正建議に関する書簡」を発した。これは、人口及び計画出産法の地方ルールに定められた「過剰出産に対する即時対応(処罰)」等といった厳格な出産管理と処罰規定について修正するよう提起し、新しい時代の社会の発展に適応しようとするものである。我が国は違法出産に対する法の手を「緩めて」おり、今後違法出産者が厳罰に処される事は無くなると言える。また、計画出産政策に反する違法出産を理由とした労働契約の解除は、これまでも現在に至るまで全国各地で違法とされている。

しかしながら、厳罰に処さないことは処罰を免れることを意味しない。計画出産は我が国の基本政策であるから、使用単位は違法出産者を解雇することこそできないものの、合法的に出産した者と同じ扱いを受けさせることはできない。このようなケースについて、現在は一般的に「休暇は与えるが賃金は給付しない」方針が取られている。すなわちこの場合、社会保険部門は生育手当を給付せず、使用単位も産休期間の賃金を支払う必要はないのである。

この「休暇は与えるが賃金は給付しない」方針は、我が国の一部地区で明確に規定されている。例えば「上海市人口及び計画出産条例」第41条第1項には、「本条の規定に反して子女を出産した公民は、社会扶養費(※出産計画に違反した場合に徴収される罰金)の徴収を除き、以下のように処置する。(一)分娩にかかる入院費及び医薬品費は自己負担とし、生育保険の待遇及び産休期間の賃金待遇を受けることができない…」とある。この他、安徽省人口及び計画出産条例」第48条第3項には「本条例に反して出産した者は……社会扶養費の徴収を除き、以下のように処置する。…(三)産休期間の賞与、福利厚生は停止され、妊娠期間の検査、分娩、産褥期の医薬品の費用は自己負担とする…」、「青海省人口及び計画出産条例」第43条第1項には、「本条の規定に反し、規定を超えて出産した者は、法に基づく 社会扶養費の徴収を除き、以下のように処置する。(一)国家工作人員(公務員)、企業及び事業組織で従事する人員に対し、行政処分を行う。夫妻双方は三年間昇進、昇格、奨励金の受け取りができなくなるものとする。女性側の妊娠分娩期間における医療費は自己負担とし、産休期間の賃金は支払われないものとする」と定められている。