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【判例】女性従業員の法定退職年齢は50歳か、あるいは55歳か?(2021年9月30日)

●案例:

李氏は1999年1月A証券会社へ入社し、上海営業部に勤務した。2004年9月、李氏とA公司は2004年2月1日に起算した期間の定めのない労働契約を締結した。

その後李氏は2001年1月から2005年7月までの間にA公司営業部総務部経理、行政部経理を歴任し、2005年8月よりA公司上海代表処で行政経理職に就いた後、2015年1月よりA公司総経理助理に就任したが、2017年4月より病気休暇を申請し、自身の業務を引き継いだ後にすぐ離職した。

2018年8月7日、A公司は李氏に対し労働契約終了通知書を交付した。通知書には、「李氏は2017年7月31日に法定退職年齢に達したが、李氏の退職を本日まで延長した上で、法律に基づき李氏との労働契約を終了する。もしこれに配慮しないときは、会社側は法に基づき使用単位としての権利義務を一方的に行使する。そこで生じる可能性がある損失については自己責任とする」旨の記載があった。

李氏は、自身が管理職にあり、法定退職年齢に達していないことから、A公司に対し補償金と社会保険が保留されていた期間の医療費を支払うよう求め、労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立てたが、仲裁庭は李氏が法定退職年齢に達している事を理由として訴えを受理しなかった。そこで李氏は黄浦区法院にて提訴し、A公司へ違法な労働契約終了に対する損害賠償金75.47万元と、2018年9月から2019年5月までの賃金13万元及び医療費0.3万元の支払を求めた。

一審が李氏の訴えを退けたため、李氏はこれを不服として控訴したが、2019年10月31日、二審は原審を維持する判決を下した。

●分析:

ポイント1:「管理職及び技術職に従事している」事を認定するのは誰か?

「労働契約法実施条例」二十一条には、労働者が法定退職年齢に達したとき、労働契約は終了する、と定められている。現行の国が定める従業員の法定退職年齢とは、法律に規定された一般的な退職年齢を言い、「労働社会保障部辨公庁 企業従業員の『法定退職年齢』の定義に関する復函」(労社庁函2001第125号)及び国発(78)104号文、国辨発(1999)10号文、労社部発(1999)8号文、社労庁函(2001)125号文等の文書内では、労働者の法定退職年齢を「男性60歳、一般的業務に従事する女性50歳、管理職にある女性55歳」と定めている。

しかし前世紀1990年代初頭、全国で企業に従事する全員に対する「労働契約制」が実施されたことから、幹部と従業員という身分の区別がなくなり、企業に従事する者は「従業員」というカテゴリに統合された。企業と従業員は、平等な立場であること、話し合いによる合意があること、自主的であることを前提として労働契約を締結し、労働関係を確立するようになったのである。労働契約制の実施後、企業内部では幹部と従業員という身分がなくなり、管理職と非管理職または技術者に分かれることとなった。以降企業は生産経営の必要に応じて職位を定めることができるようになったが、これは自主的経営権を体現するものであると言える。

「上海市社会保険管理局 本市企業従業員定年退職手続審査に関する若干問題についての規定」(沪社保業-1996第76号)には、「……女性従業員が満50歳(管理職または技術職にある場合は満55歳)を迎え、定年退職の条件を満たしたときは、関連規定に基づき定年退職の手続きを行う……」とある。

労働者の法定退職年齢を巡る実際の労働争議では、本案件のように労働者側が55歳退職を主張するのに対し、使用単位側が50歳退職を主張する(または、労働者側が50歳退職を主張するのに対し、使用単位側が55歳退職を主張する)ケースがよく見られる。例えば使用単位が労働者との労働契約を解除する際、当該労働者が労働契約法の「労働者が同じ使用単位で連続満15年以上勤務し、かつ法定退職年齢まで5年に満たないときは、使用単位は労働者との労働関係を解除してはならない」との規定に抵触する場合に、よくこういった意見の食い違いが発生する。

強調しておかなければならないのは、沪社保業-1996第76号文において上海市の社会保険機構が公布した規定は、あくまで上海市内における退職手続きを定めた地方条例であり、上海市内に勤める企業従業員の退職手続きを調整、制約するものであるという点である。しかしその中においても管理職及び技術職にある女性従業員の退職年齢について55歳と明確に定めているため、上海市内の企業に従事する従業員が退職する際には当然本規定が適用されることとなる。

実務上、女性従業員の退職年齢や職位の性質(管理系の業務や技術系の業務に従事しているか否か)は使用単位が確認し、また立証責任を負うものである。条件を満たす労働者は、社会保険機構への登録をもって退職年齢を延長することができる。退職延長期間は退職年齢に到達していないものとされ、特別な規定があればこれに基づき処理される。

本案件において、A証券会社は李氏が管理職ではなかったことを証明するために「A証券株式有限公司職位管理暫定辨法」を提出した。仮に李氏がこの文書の真実性を否定したとしても、李氏が従事した職位が管理職に該当しないことを証明するには事足りる。反対に、李氏は保健衛生技師二級証書、保安員一級証書及びA公司上海代表処が2016年4月に発した書類を証拠として提出している(但し保安員の資格は本案件の係争範囲である技術職の範疇から外れる)。

実際のところ、労働者が専門資格を取得したとしても、それは労働者が技術職にあることを証明するものではなく、また労働者が従事する業務が有する専門資格と関連していることを証明するものではない。労働者が技術職にあるか否かは労働者の業務内容によって決まるものであり、学歴や技術資格があるからと言って労働者が管理職や技術職にあると判断される訳ではないのである。李氏が歴任した経理及び総経理助理職はA公司の管理職の範疇に入っていないため、法院は李氏の損害賠償及び医療費の支払い請求を棄却したのである。

ポイント2:職位の変動はどのように認められるか?

2001年「国家経済貿易委員会、人事部、労働社会保障部国有企業内部における人事、労働、分配制度改革深化に関する意見」では、「企業は「幹部」と「従業員」の境界を打破し、身分管理を職位管理へと転換しなければならない。職位管理業務を行う者はすなわち管理者である。職位に変動があったときは、その収入及びその他の待遇を新しい職位に即して調整する」と定めている。

この規定の主旨に基づけば、法定退職年齢は労働者の職位によって決まるものであり、労働者の身分によって定まるものではない。また、労働者の職位は普遍ではなく変動するものであるから、新しい職位に準じなければならない。従って、例えば労働者が休職状態となり労働契約が履行されていない状況で、労働者が法定退職年齢である満50歳を迎えたときは、使用単位は「労働契約法実施条例」に基づき労働者との労働契約を解除できる。

ポイント3:違法な労働契約解除対しては損害賠償金の支払い義務が生じるか?

政府関連部門が管理職、技術職に従事する女性従業員の法定退職年齢を満55歳と定めているその目的は、管理職や技術職にあった女性従業員が、豊富なマネジメント経験や卓越した技術をもって引き続き組織で貢献できるようにする事である。

司法実務においては、もし労働者が間違いなく管理職や技術職に就いており、その上で使用単位が違法に労働契約を解除したときは、違法な労働契約解除による損害賠償の支払いではなく、労使双方の労働関係の回復をもって回復させる。なぜなら労働者は自身の法定退職年齢を55歳だと認識しており、55歳まで働くことを企図しているためである。労働関係の回復は、労働者が訴訟目的を果たすことができるだけでなく、上海市関連部門が管理職や技術職に従事する女性従業員の法定退職年齢を55歳とした立法主旨にも適うのである。