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【判例】定年退職した労働者の競業避止期間は、いつを起点とするのか?(2021年9月30日)

●案例:

1958年4月生まれの江氏は、2013年4月にA公司へ入社し、技術開発職の責任者を任されていた。2015年3月、労使双方は競業避止協議書を締結し、労働契約が終了した日に起算して1年間の競業避止を約定した。江氏は2018年4月に法定退職年齢に到達したため退職手続きを行ったが、A公司は江氏を引き続き技術顧問として採用した。

2019年4月、江氏は体調不良を理由としてA公司を離職した。江氏の離職後、A公司は江氏に対し、2019年4月から起算して1年間の競業避止義務を遵守するよう求める通知書を出した。しかし江氏は、自身が2018年4月に定年退職を迎えていることから、競業避止義務の履行は2018年4月の離職日から起算して1年間となるはずだと考えている。

この場合において、江氏は定年退職者として競業避止義務を遵守しなければならないだろうか?また、競業避止義務はいつを起算日とするだろうか?

●分析:

上述の問題について、我々は以下のように分析する。

一、定年退職者も競業避止制度の適用対象となりうるため、定年退職後も競業避止義務を履行しなければならない。

定年退職者は基本養老保険(年金)を受給できることから、労働者としての身分となることはなく、「労働契約法」の適用対象とはならないから、競業避止の主体とはなり得ない、とする説も確かに存在する。

しかし、確かに「労働契約法」第四十四条は「労働者が法に基づく養老基本保険を受給できるようになったとき」に労働契約が終了すると定めているが、同法は定年退職後の労働者が労働を提供して報酬を得たり、自身で創業したりすることを禁じていない。しかも、労働者が定年退職した後も使用単位の商業的機密を知っているという事実は消えないのである。労働者が定年退職後創業または元の使用単位と競合関係にある事業単位に労働を提供するに当たっては、元の使用単位における商業的機密が漏れる可能性が極めて高い。ゆえに、元の使用単位と労働者が競業避止約款を締結している場合、元の使用単位が定年退職者に競業避止義務の履行を求め、自身の競争優位を保つことは許されるのである。当然のことながら権利と義務は対等でなくてはならないから、定年退職者は競業避止義務を履行した場合、競業避止に対する経済補償金を受け取る権利を有することとなる。

我が国の「労働契約法」では定年退職者に対する競業避止の問題について触れていないが、江蘇省の立法府ではこれに肯定的な態度を示している。「江蘇省労働契約条例」第三十五条第二項には、「労働契約が労働者の定年により終了した場合、約定された機密保持、競業避止は依然拘束力を有する」と定められている。

二、再雇用された定年退職者の競業避止は、法定退職日ではなく実際に退職した日から起算される。

労働者の競業避止期間の起算日が労働紛争の争点になることは、通常あり得ない。競業避止義務の期間については「労働契約法」第二十三条及び同第二十四条において、競業避止期間は労働契約の解除日もしくは終了日に起算して最長2年を超えてはならないと定められている。

では、定年退職のため使用単位との労働契約が終了した労働者が、当該使用単位に再雇用された場合は、定年退職した日、すなわち労働契約が終了した日に起算して競業避止期間を算定するのだろうか?

我々は、再雇用者の競業避止期間は定年退職日ではなく、実際に職を辞した日に起算すべきであると考える。その理由は以下の通りである。

「労働契約法」第二十三条及び第二十四条には、競業避止期間は労働契約の解除日もしくは終了日に起算すると定めているが、これは実質的に労働者が元の使用単位を離れ、元の使用単位で継続して業務に従事しない時に起算すると考えるべきである。労働者はこの時点で使用者の管理と支配を受けなくなり、創業及び再就職の段階に入るため、この時から競業避止義務の約定(すなわち離職後の競業規制)が発効されると考えるのが妥当である。

また定年退職後の再雇用の場合、労働者と使用単位との労働契約は終了しているものの、定年退職後も労働者は使用単位の招聘を受け継続して労働を提供しているのである。形式的に労働契約が終了した形であっても、労働者が実質的に使用単位の管理と支配下にある以上、競業避止義務の履行を開始させる必要は無いのである。

本案件における競業避止期間の約定は労働契約の解除及び終了の日に起算するが、その本質は労働者が使用単位を離れた日に起算するというものである。ゆえに、労働者の定年退職をもって労働契約が終了したと杓子定規に考えるのではなく、定年退職後の再雇用者については実際に使用単位を離れた日を競業避止期間の起算日とし、その後の創業や就業の権利について制限をかける必要があるときは、すぐに競業避止義務の履行を求めるべきであろう。