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【判例】実際の履行から一ヶ月が経過した、「口頭により」変更された労働契約は有効と認められるか?(2021年10月26日)

●摘要:

法律上の規定では、労働契約の変更は書面によるとされているが、実際には、様々な理由から、長年に渡って履行されている労働契約を口頭で変更するケースが多数存在する。口頭での変更という形でのみその法的効果が否定されるのは、労働関係の安定性の維持に資するものではなく、また、誠実・信用の原則にも反すると言える。「労働争議案件の審理における法適用に関する若干問題に関する最高人民法院の解釈(四)」(以下「司法解釈四」)の第十一条では、「労働契約の変更が書面によらないものの、口頭で変更された労働契約が1ヶ月以上に渡って実際に履行されており、変更された労働契約の内容が法律、行政法規、国の法律及び公序良俗に違反していない場合において、当事者が労働契約の変更が書面で行われていないことを理由としてその無効を主張したときは、人民法院はこれを認めない」と規定している。 使用単位の多くは、口頭で変更された雇用契約が実際に1ヶ月を超えて履行されたとき、自然に有効となる、と考えている。上記の規定を額面通り受け取るとこのような結論が容易に導き出されるが、以下2つの案例が示すように、口頭で変更された雇用契約の有効性の判断については司法実務上その他の要素も考慮されている。

●案例一

佟氏は、某保険会社と2013年6月13日から2018年6月12日までの労働契約を締結した。佟氏は保険料の給付業務に従事し、賃金は当初2800元/月であったが、2016年には3600元/月となったものの、2017年2月より2018年6月までは1660元/月となっていた。これらの賃金調整は全て書面によらず行われていた。2018年6月会社側は労働契約期間満了を理由として佟氏との労働契約を満了したが、その後佟氏は仲裁庭へ仲裁を申し立て、会社側へ2017年2月から2018年6月までの賃金の差額と労働契約解除による経済補償金の支払を求めた。

法院(二審)は、最高人民法院「労働争議案件審議における法適用に関する若干問題の解釈(四)」第十一条の規定を引用して、「口頭による契約の変更は確かに効力を有するが、この解釈は双方が口頭での契約変更に同意していることを前提とする。会社側は労使双方が口頭での契約変更に同意したことを証明できておらず、原審の沈黙による労働契約変更への追認があったとの判断は誤りであり、二審において佟氏が法院へ提出した労働監査部門発行の証拠材料により、佟氏が労働契約の変更に同意していないことが証明されたことから、会社側の労働契約変更行為は無効である」との結論を下した。

案例二

薛氏は2012年に某不動産購買会社と期間の定めのない労働契約を締結した。2017年5月8日、会社側は会議において人事異動を決議し、薛氏へ人事異動の件を口頭で告知した。薛氏は2017年5月8日より新たな職位に就くこととなり、2017年6月10日には会社側から2017年5月分の賃金計2615.5元が、2017年7月10日支には2017年6月分の賃金2359.66元が薛氏の銀行口座に振り込まれた(この間、2017年6月14日、肺癌にかかり危篤状態であった薛氏の父親がこの世を去り、薛氏は葬儀やその後の手続きに追われた)。薛氏は2017年7月28日、会社側が労働に対する十分な報酬を支払わず、理由もなく一方的に降格・減給したとして会社側へ労働契約解除通知書を送付した。会社側は当日これを受け取り、労働紛争に発展した。

法院は、「薛氏の異動後における一か月目の賃金支払日は6月10日であったが、時を同じくして薛氏の父親が亡くなり、薛氏は後事の処理を終えた後に、会社側へ降格や減給に対する異議を申し出ている。薛氏の会話の録音から、薛氏が6月10日に賃金を受け取った後適時会社側へ異議を唱えなかったのは、父親の死去が賃金の問題よりも緊急性があったからであると言え、薛氏の主張は信用に足るものである。ゆえに、会社側の口頭による労働契約の変更は無効であり、薛氏に対する降格減給は、賃金の一部未払いとなる」との判断を下した。

分析:

以上2つの案例は「司法解釈四」第十一条「口頭で変更された労働契約が1ヶ月以上に渡って実際に履行されており~」中の「口頭で変更された」と「1ヶ月以上」に対する解釈と適用の問題である。

1.「口頭による労働契約の変更」をどのように解釈すべきか?

司法解釈四の第十一条にある「口頭による労働契約の変更」とは、「合意による口頭による労働契約の変更」と「使用単位による一方的な口頭による労働契約の変更」のどちらを意味するのか、という点においては、法理論的にも司法実務的にも論争がある。労働契約法第三十五条によれば、使用単位と労働者は合意によって労働契約を変更することができる。つまり、労働契約の変更は合意の原則に基づいて行われるべきであり、一方的な変更は例外であるという考え方である。これは案例一で採用されている見方だが、これに対しては、「合意による労働契約の変更」自体がすでに労使双方の同意を反映しており有効であるはずであるから、「実際の履行」の判断を付す必要はないとする説も存在する。この説によれば、労働者の意思の確認において「実際の履行」という基準を付す必要はないため、司法解釈四の第十一条にある「口頭による労働契約の変更」とは、「使用単位による一方的な口頭での雇用契約の変更」を指すとされる。

我々は、司法解釈四第十一条の規定について、「合意による口頭での労働契約の変更」のみならず「使用単位による口頭での一方的な労働契約の変更」を包括したものであると考える。

まず、労働法の体系的解釈によれば、労働法は、使用単位が合意によって労働契約を変更できると規定しているだけでなく、使用単位に一方的に労働契約を変更する権利を賦与している。ゆえに「司法解釈四」は「労働契約法」第三十五条を読み替えただけのものではなく、労働法規全体に基づく労働契約の変更制度に対する解釈であると言える。

次に、そもそも司法解釈四の第十一条は、使用単位にとって生産や管理における必要性を満たすために合理的である労働契約の口頭での変更の有効性を確認するため、すなわち、労働契約の書面による変更が「労働契約の有効性の必須要件」であるか否かという問題を解決するために導入されたものである。また、労働法規の立法趣旨から言えば、一方的な変更であっても交渉による変更であっても、労働契約は書面により変更しなければならないが、一方で当事者が書面でないことを理由に労働契約の変更が無効であると主張しても、裁判所はそれを支持しない。ゆえに、「司法解釈四」の口頭による労働契約の変更は、合意による変更と一方的な変更の双方を念頭に置いたものであると考えるべきである。

但し、どのような見解をとったとしても、労働契約の口頭による変更への同意があったか否かという問題を避けることはできないことに留意しなければならない。なぜなら労働者は、労働契約の変更が書面でないことを理由に無効であると主張するのではなく、変更が自分の同意を得て行われたものではないと主張することが多いからである。司法実務においては、一部の法令上の例外を除き、司法解釈四の第十一条を適用する際、案例一の二審のように、雇用主と労働者が雇用契約の変更について口頭で交渉したか、合意に達したかどうかを審査する。したがって使用単位は、案例一のように口頭での労働契約変更の事実を証明できないという事態を避けるために、労働契約が口頭で合意に達していることを証明する証拠を保持する必要があると言える。

2、「一ヶ月」という期限をどのように解釈すべきか

「司法解釈四」第十一条にある「一ヶ月」とは、相対的なものなのか、あるいは絶対的なものなのか?この点について司法機関は、前者の「相対的な期間」であるという見解を採っている。司法機関は、事案の状況に応じて、使用単位が口頭で労働契約を変更したことが労働者に実質的な影響を与えた時期や労働者が異議を唱えた状況、口頭で変更された労働契約の履行期間の長さと継続性、労働者が異議を唱えたことが遅れた理由が正当かつ合理的なものであるかどうかを踏まえて、総合的な判断を下すのである。

つまり、口頭による労働契約の変更であっても、実際に履行された期間が一ヶ月であれば、事実上有効とは言えない。口頭による労働契約の変更が有効となる為には、法律の規定に基づき、(1)使用単位と労働者が労働契約の変更について合意しているか、または法律に基づいた合理的な理由で一方的に労働契約が変更されていること(2)変更された労働契約が法令や公序良俗に違反していないこと(3)変更された労働契約の実際の履行期間が一ヶ月を超えること、(4)労働者が正当な理由なく一ヶ月以内に異議を申し立てなかったこと、の4つの要件を満たす必要があるのである。