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【判例】使用単位は在職中の労働者へ競業避止義務を負わせることができるか?(2021年11月29日)

●案例:

胡氏と虹漫公司は2015年12月1日より労働関係を確立し、同時に期間の定めのない労働契約を締結した。労働契約には胡氏が商品プロジェクト総監業務に従事する事、賃金の支払月数を13ヶ月とすること、月給を18850元、月業績給を5655元、交通手当を500元とすること等が定められていた。胡氏の離職前12ヶ月の賃金総額は494073.55元(税別)に上った。

労使双方は労働契約の他に「機密保持及び知的財産権保護協議」及び「競業避止協議」を締結していた。同協議では、胡氏は在職期間及び労働契約終了日より12ヶ月間競業避止義務を負うこと、万が一胡氏が「競業避止協議」のいずれかの規定に違反した場合、会社側は胡氏へ100万元の違約金を請求すること等が約定されていた。

その後虹漫公司は、胡氏が在職期間中に競業相手である致富公司へ業務を提供し、致富公司の名義で対外入札業務に携わるなど、長期に渡る競業避止義務違反行為が見られたことを知り、胡氏へ違約金100万元の支払を求めるとともに、胡氏の違約行為について以下の3点を指摘した。

一、虹漫公司と致富公司の登記された事業内容には重複している部分が存在する。

二、致富公司監査の呉氏は楊氏の母親だが、楊氏は依然胡氏とともに虹漫公司で勤務しており、二人は男女の間柄であった。二人は従業員登録情報において互いを緊急連絡先に指定しており、楊氏は胡氏との関係を「未婚の夫」としていた。

三、致富公司は顔認証技術の分野において、通州市及び無錫市のプロジェクトにおける競合相手であり、これらは胡氏が虹漫公司で担当しているセキュリティプロジェクトの一つである。

●判決:

二審は、「この案件については二つの争点が存在し、その一つは、胡氏が競業避止義務に違反したか否かである。会社側と胡氏は『競業避止義務契約』を締結しており、胡氏は労働契約履行中及び労働契約の終了後12ヶ月間、競業避止義務を負うこととなっている。一審は、『中華人民共和国労働契約法』が労働者の労働契約期間中の競業避止義務について禁止規定を設けていないことから、当事者自治の原則と信義誠実の原則に基づき、胡氏は競業避止義務を負うべきであるとの判決を下した。この、一審庭が認めた胡氏の在職中における競業避止義務については、妥当であると言える。

二つ目の争点は、違約金の金額である。胡氏は使用単位と労働関係があった期間中に、競合他社で主導的立場から業務を遂行していたが、これは協業避止協議に著しく違反した行為である。胡氏の競業避止義務違反行為は、労働契約期間中継続して行われており、元の使用単位へ損害をもたらすものであった。元の使用単位が被った損害や契約の履行状況、胡氏の過失の程度やその他の要素を総合的に考慮した結果、二審は公平の原則及び信義誠実の原則基づき、胡氏の違約金の減額請求を支持しない」として、胡氏に対し虹漫公司へ競業避止義務違反による違約金100万元を支払うよう命じた。

●分析:

「労働契約法」の第23条および第24条には、「使用単位は秘密保持を義務付けられている労働者に対し、労働契約または守秘義務契約を締結し、労働契約の解除及び終了後労働者に対し月毎に経済補償金を支払うよう約定することができる。労働者が競業避止にかかる約定に違反したときは、使用単位へ違約金を支払わなければならない。競業避止義務を負う者は上級管理者、上級技術者及びその他機密保持義務を負う者に限られる。これらの者が労働契約の解除または終了後に、競合関係にある他の使用単位で競合する業務に従事する、または自ら使用単位と競合関係にある商品の生産経営を行うことを約定する競業避止期間は、2年を超えてはならない」旨が規定されている。

また「会社法」第148条には、「董事及び上級管理者は法定の競業避止義務を有する。株主会または株主総会の同意を得ずに、その地位の優位性を利用して、自己または会社に属する第三者のために商業的機会を求めたり、自己または第三者とともに同種の事業を行ったりしてはならない」と規定されている。

上述の法律の規定には、使用単位は競業避止義務者と退社後の競業避止義務と清算損害金について協定を結ぶことができるとしているものの、上級管理者以外の一般労働者へ在職中に競業避止義務を負わせることができるかについては明確な規定がなく、実務上大きな論争となっている。

これについては2つの説があり、第一説は、労働契約期間中の競業避止義務が労働契約に付随する義務に属するというものである。この説によると、労働者は例え合意が無くとも、職業倫理や使用単位への誠実義務に基づき使用単位の許可なく使用単位と競合する類似製品や事業を生産・運営することはできない。なおこの説では、労働契約期間中に競業避止義務に違反した場合でも、契約違反の責任は適用されないとされている。

一方、第二説では、上級管理者の在職中の競業避止義務を除く一般労働者の在職中の競業避止義務は、法理論から推測されるものであり、法律上の規定に裏付けられたものではないが、労働契約法は、雇用期間中に使用単位と労働者が競業避止義務について契約を締結することを禁止していないことから、当事者の自主性を尊重すべきである、すなわち双方間の約定に基づくべきであるとしている。この説によれば、当事者が労働契約期間中の競業避止義務と損害賠償額について事前に約定を交わしているときで、労働者が契約に違反した場合は、労働者は損害賠償額を支払わなければならない。

我々は第二説が有力と見る。まず、労働契約法第17条および労働法第22条によれば、使用単位は労働契約において商業秘密を保持する条件について労働者と約定することができる。使用単位が企業秘密保持の一般的な方法として、労働契約期間中の労働者と協業避止に関する約定を交わしても、法律違反とならないのである。 一方、労働契約法第24条の規定によれば、競業避止義務の対象は、上級管理職、上級技術職、その他使用単位の守秘義務を負う者に限定されている。このような競業避止義務者の立場の特性上、これらの者が在職中に保有している営業秘密は、一般的に退社後に保有する営業秘密よりも包括的であり、より現在的な価値を有していると言える。企業秘密を保護するための競業避止は労働者の離職後でも約定でき、また労働契約期間中の企業の機密保護はより適時で包括的なものとなるはずであることから、労働関係が存在する間の、労使双方の競業避止義務の履行を制限すべきではない。

労働者の雇用期間中に労働者との競業避止義務と損害賠償協議を締結できるかという問題については、各地方の司法当局のほとんどが前向きな姿勢を示している。但し一部地域の司法機関は、労働契約法第24条の競業避止義務とは、守秘義務を負っている労働者が、労働契約の終了または解除後の一定期間内に、同業他社に勤務したり自ら事業を開始したりする等して、元の使用単位と競合する同様の製品の生産・運営に携わってはならないとするものであり、使用者と労働者が約定した労働者の離職後に順守すべき義務であると解している。この場合、労働者との労働契約が履行されている間の競業避止義務違反は、競業避止義務の法定範囲に含まれず、損害賠償について約定されていても無効とされるので、注意が必要である。

労働者との労働契約期間中における競業避止義務と損害賠償の有効性については、司法実務上まだ議論が残る点である。使用単位は、商業的秘密と競争上の優位性を最大限に保護するためにも、使用単位は競業避止義務及び競業避止義務者を対象とした労働契約期間における損害賠償条項を、競業避止協議に盛り込んでおく等の対策が必要であろう。