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【判例】競業忌避義務を履行している労働者の配偶者による競業他社への投資は、競業忌避義務違反となるか?(2021年11月29日)

●案例:

韓氏は2015年6月1日に保利公司へ入社し、技術職に就いていた。労使双方は2018年3月28日に競業忌避協議書を締結し、会社側は韓氏が離職後2年間会社側と競合関係にある事業単位へ就業することを禁じた。韓氏はその後、2019年9月30日に離職した。会社側は2019年10月から2020年6月までの間、韓氏に対し競業忌避への補償金として毎月2,420元、2020年7月に2,480元を支払った。

韓氏の配偶者である王氏も保利公司の従業員であったが、王氏は貿易業務や購買業務に従事していたため、会社側は王氏と競業忌避の約定をしていなかった。王氏もまた、2019年10月31日に離職した。

その後2020年1月16日、江蘇省で祁氏を法定代表者とするA公司が設立されたが、その業務内容は保利公司と競合するものであった。A公司の設立時における筆頭株主の一人は、韓氏の配偶者である王氏であった。王氏はA公司へ250万元を出資していた。

2020年4月8日、保利公司は労働仲裁を申し立て、韓氏に対し競業忌避義務の履行と、既に受け取った競業忌避に対する経済補償金の返還及び違約金の支払いを求めた。

2020年5月6日、王氏はA公司から手を引いたが、株式は0円でA公司の祁氏へ譲渡され、A公司の株は全て祁氏が所有することとなった。

2020年5月7日、韓氏と王氏は協議離婚した。離婚協議書には、「婚姻存続期間において妻王氏と祁氏が共同で投資した江蘇省のA有限公司には経営実態が無く、現在清算手続きを行っている。夫韓氏はこの投資について何ら事情を知らず、また同意も無かったことから、投資にかかるコスト及び清算において発生する可能性がある責任及び収益については妻側が負うものとし、夫側は何ら責任を負わないものとする」

●判決:

本案件の争点は、韓氏が保利公司との競業忌避義務に違反したか否かである。

一審は、「まず、『主張者立証の原則』に則り、韓氏が競業忌避義務に違反したことに対する証明義務は保利公司にある。保利公司が提出したA公司の登記情報から、A公司の事業内容は確かに保利公司と重複しており、ゆえに両社は競合関係にあると認められる。韓氏の配偶者である王氏は、A公司が設立された際の筆頭株主の一人であり、250万元を出資していることから、本案件における韓氏の配偶者の行為は競業忌避に違反するものであると言える。この投資行為は韓氏と王氏が婚姻関係にあった期間に行われていることから、韓氏がこのような家庭内における投資行為を知らないという事はあり得ず、また韓氏はこの期間において夫婦それぞれの財産が分離していたことを証明できていない。ゆえに王氏が夫婦の一方として夫婦共同の利益に基づいて行った対外的行為は、王氏の一方的な行為とは認めがたく、韓氏がこれを知らなかったとする証拠を挙げていないことから、当該投資行為は夫婦共同の行為であったと言える。

次に、保利公司と韓氏は2018年3月28日に競業忌避協議を締結しているが、王氏は韓氏の配偶者として、このことを知りうる立場にあった。韓氏と王氏はそれぞれ2019年9月末と10月末に相次いで保利公司を離職しており、A公司が設立されたのは2020年1月16日であった。韓氏はこの期間について「自宅で子どもの世話をしていた」としているが、他の業務に従事した形跡がないことから、保利公司が韓氏はA公司の設立のために離職したと信じうる理由が存在していると言える。 更に、韓氏は保利公司内における××技術

更に、韓氏は保利公司内における××技術の熟練工であるが、王氏はこの技術を熟知していなかった。王氏は250万元を出資したが実際に出資行為を行っておらず、また0円で株式譲渡が行われていることから、A公司は韓氏の技術をもとに出資された可能性が高い。保利公司が韓氏の秘密の競業避止義務について一連の証拠を提出したこと、保利公司は韓氏が会社の設立と生産に直接関与していたかどうかについて証拠を得ることが困難であったこと、韓氏が上記の疑わしい行動を証明するための合理的な説明と証拠を提供しなかったことを総合的に考慮し、韓氏は会社を離職した後も競業避止義務を負うと認める」と判断した。

二審は、韓氏が保利公司との協業避止に関する約定に違反したかどうかについて、「韓氏が保利公司を離職した後、妻の王氏は保利公司と競争関係にあるA公司を第三者と設立し、王氏はA公司の筆頭株主を務めた。王氏は保利公司と韓氏の競業避止義務の当事者ではないが、婚姻関係が存続している間における夫婦共通の利益に基づく配偶者の対外的行動は、個人的な行動として認められない。王氏は韓氏の配偶者として、保利公司と競争関係にあるA公司の株主を務めたが、それ以外の証拠はなく、このことから韓氏が保利公司との競業避止契約に違反したと判断する」と結論付けた。

●分析:

「労働契約法」第24条は、「競業避止は、使用単位の上級管理者、上級技術者及びその他機密保持義務を負う者人員に限る。競業避止の範囲、地域、期限は使用単位と労働者が約定し、 競業避止の約定は法律、法規の規定に違反してはならない。労働契約の解除又は終了後に、前項で規定されている人員が本使用単位と同種の製品及び業務を生産又は取り扱っている競合関係にあるその他の使用単位に就職するか、又は自身で開業して同種製品又は業務を生産或いは取り扱ってはならないことを制限する期限は2年を超えてはならない」と定めている。

契約の相対性によれば、競業避止義務契約は通常、労働者本人のみを拘束し、労働者の配偶者を拘束するものではない。しかし司法実務において、労働者の競業避止義務違反行為は、配偶者が競合行為を行うなど巧妙なものとなっており、使用単位がこれを立証することは困難である。

労働者の配偶者が同種の競合事業を営んでいる場合に、労働者の配偶者が競業避止義務に違反したと認定されるかどうかについては、二つの説がある。一つは契約上の相対性という基本原則に従うべきであり、労働者を配偶者の行為によって契約に違反したと認定されることはできないとするものである。これは、競合保護の範囲が過大となって市場における正常な競争を妨げる可能性を懸念したものである。もう一つの説は、労働者が競業避止義務に違反したかどうかを検討する際に、労働者自身の関与の可能性、配偶者との関係の基本的な特徴、悪意のある迂回行為の有無などを考慮して、ある程度の柔軟性を持たせて総合的に判断するというものである。

我々は、後者の説を採る。

関連法規によれば、婚姻関係の存続期間に配偶者が得た生産および事業収入は、夫婦が共同で所有するものとなる。一般的に、夫婦は一体であるのが普通であり、このことは社会通念上の妥当性を有している。

配偶者の一方による事業の収益は、一般的に家族の共同生活のために使用され、他方の配偶者は通常そこから利益を得ている。 婚姻関係の存続期間に、配偶者の一方が投資や利益を得た場合、他方の配偶者も多かれ少なかれそれに関わることとなるのである。仮に配偶者の一方が具体的なビジネス活動に直接関与していなくても、ビジネス情報やチャネルなどを共有する可能性や機会はそこに存在する。

ゆえに、配偶者の一方が競合忌避義務を負っている場合で、他方の配偶者が競合するビジネスを立ち上げた場合、必然的に配偶者の使用単位や元の使用単位に影響を与えることになる。

特に、配偶者の一方が使用単位で特定の技術やビジネスに関する知識や経験を持ち、他方の配偶者にその技術やビジネスの経験がない場合で、一方の配偶者が使用単位から離職した後、他方の配偶者が突然競合するビジネスを始めたときは、一方の配偶者がその競合ビジネスの運営に間接的に関与していると強く疑われることとなる。

また、競業避止義務違反を証明することの難しさを考えると、今回のケースでは、労働者側が競合企業を設立するために配偶者へ合理的な説明を与えたとする、自身の介入の可能性を排除するに足る十分な証拠を提出しない限り、労働者の競合避止義務違反は構成されると考えられる。