【判例】時間外労働と当直の違いとは何か? (2022年2月28日)
●案例:
医療従事者である李氏は、2017年3月27日から2020年9月26日までの期間について、瑞普公司と労働契約を締結し、管理職に就いていた。その後、会社側は事業再編を行い、従業員を関連会社の整形外科医院へ当直させた。当直手当は夜勤、日勤ともに1回につき50元であったが、当直が時間外労働に該当するか否かで意見が対立した。
李氏は、自身の当直時間のうち平日17:30~20:00、週末8:00~17:30が時間外労働に該当すると主張し、自身の主張を裏付けるために、WeChatのグループチャットのスクリーンショットを法院へ提出した。グループチャットには、平日夜勤の勤務表と週末日勤の勤務表が示されており、平日夜勤の勤務表には以下の注意書きが記載されていた。 1.当直スタッフは、17:30に1階のフロントへ集合すること。2. フロントスタッフや医療スタッフが、診察シフトや手術のためフロントにいない場合は、他のマネージャーと調整し、フロントが空かないように適時シフトを変更すること。3.当直者は、外の駐車スペースを適時確認し、空きスペースがあれば適時施錠すること。4.当直者は20時に打刻した後、各自で病院内の全てのドアや窓を点検し、水道や電気に問題がないことを確認してから退勤すること。5、毎日、退勤時間までに管理者へ業務報告を行うこと。
また、週末日勤の注意書きには、以下の記載があった。1.当直者は、病院内の予期せぬ出来事や緊急事態をタイムリーに解決することに加え、自分の仕事を率先して行うこと。2.土曜日には、院内の日常的な応対業務を担当すること。3.重大な事案が発生したときは、速やかに担当者へ電話で連絡すること。4.当直者は、勤務中2~3時間ごとに各階の水道」、電気、ドアなどの安全をチェックし、異常がないことを確認してから病院を出ること。5.業務の都合で当直中フロントにいられない場合は、事前に他の中間管理職とシフトを調整し、フロントが空く時間を作らないようにすること。当直表には李氏の当直シフトも記載されており、このことから李氏は、平日の夜間と週末は時間外労働として勤務しており、会社は時間外賃金を支払うべきであると主張した。
これに対して会社側は、「整形外科医院は関連会社であり、李氏は関連会社へ派遣され当直を行った。また、当直中の業務はフロント対応で、一般的に患者に対応することはないから、当該当直は時間外労働とは言えない」と反論した。
●判決:
法院は、「李氏の『夜間と週末の当直勤務が時間外労働である』との主張について、李氏は、夜間の当直勤務中、1階のフロント業務と駐車場の状況確認業務に従事していたことから、形成外科病院という勤務場所の特殊性に鑑み、会社側の『夜間の患者対応は基本的に起こらない』との主張を認める。李氏は、フロント業務中に従事した具体的な業務について十分かつ有効な証拠を提出しなかったことから、李氏の夜間の当直勤務が時間外労働であるという主張については、これを認めない」とした上で、「週末の当直勤務の内容から、週末の当直者は自身の本来の業務以外の業務も行っているから、週末の当直勤務については時間外労働であると認められる」とし、会社側へ李氏に対し週末の当直勤務にかかる時間外手当を支払うよう命じた。
●分析:
「労働法」第41条は、「使用単位は、生産と経営の必要があるときは、労働組合及び労働者と協議の上、労働時間を延長することができる。但し、労働時間の延長通常一日一時間を超えてはならない。特別な理由により労働時間を延長する必要がある場合は、労働者の健康を守ることを条件として一日三時間を超えない範囲で労働時間することができる。但し、労働時間の延長は一ヶ月に36時間を超えてはならない」と定めており、また「労働法」第44条及び「労働契約法」第31条には、「使用単位が時間外労働を手配した場合は、関連する国家規定により、労働者に対し時間外手当を支払わなければならない」と定められている。
国の法律法規は「当直」の定義と取扱いを規定していないが、北京市、上海市、山東省の現地裁決意見では、労働者が使用単位に対し時間外賃金の支払いを求める場合、1)使用単位の安全、消防、休日当番に関する必要性のため、臨時にまたは制度上定められた労働者の業務と関連しない当直。2)使用単位が按排し労働者の業務と関連するが、労働者が休みを取得できる当直、のいずれかに該当する場合は、通常労働者の訴えを支持しないと規定している。但し上記の場合、労働者は、労働契約、規則、集団契約等に基づき、使用単位へ対応処置を求めることができる。
国の法律法規には「当直」の明確な定義がないが、現地の司法解釈と合わせて、以下の部分に時間外労働と当直の大きな違いがあると考えられる。
1.業務内容の違い
時間外労働とは、法定労働時間に加えて、使用単位が生産・運営の必要性に基づいて労働者の労働時間を延長、増加させることを言う。実務的には、多くの地区で、使用単位が安全、消防、休日当番等の事情により労働者に普段の業務と関係のない仕事を按排した、あるいは労働者に普段の業務と関係のある仕事をさせたが、勤務時間中は休めるように手配した場合は、「当直」と見なすことができるとしている。しかし天津市では、「天津法院労働争議事件審理指南」第35条において、当直は労働者自身の業務と直接関係してはならないことが強調されており、当直について厳しく規定していることには注意が必要である。
2.業務強度の違い
時間外労働は業務の継続であり、仕事の強度は通常業務と同等である。一方、当直勤務は、安全、消防、休日当番など特別かつ臨時に按排されていることが多く、労働者は一般的に状況に応じて休息が取れるため、労働者に求められる労働強度は高くない。このことから、時間外労働には法律の制限規定が適用されるのに対し、当直勤務には特に制限が設けられていないのである。
3.労働待遇の違い
労働法第44条では、通常の時間外労働は賃金の150%以上、休日の時間外労働は賃金の200%以上、法定休日の時間外労働は賃金の300%以上の賃金を支払わなければならないとしている。実務において、労働者が使用単位に対して当直の事実に対する時間外手当の支払いを請求した場合、司法機関は一般にその請求を支持しないが、労働者は労働契約、規則、労働協約等に基づいて、使用単位に対し相応の当直手当の支払いを請求することができる。
4.法適用の違い
時間外労働については、「労働法」および「賃金の支払いに関する暫定規定」が適用され、司法判断の根拠が比較的明確であり、司法判断の基準も各地区でほぼ統一されている。一方当直は、明確な法的規制がなく、司法機関は主に現地の裁決意見や判例を参考に判断を下しているため、労働紛争に発展しやすい状況にあると言える。
実務においても、「当直」と「時間外労働」の定義の違いから、使用単位と労働者の間で紛争が生じるケースは多い。ゆえに我々は、この点について以下を提起したい。
1.使用単位は、「当直」名目で労働者へ「時間外労働」をさせようとしてはならない。名目上「当直」でありながら実際は「残業」である場合、法律に従って残業代を支払わなければならない。そのため、使用単位が時間外労働を按排しておきながら時間外手当を支払わない場合は、労働者の正当な権利・利益を著しく侵害することとなる。使用単位はこの点について、労働組合が使用単位に対し是正を求める権利を有しており、また労働保護行政部門は使用単位に警告し、是正を命じ、使用単位に罰金を科す権利を有していることを留意する必要があるだろう。
2、企業の人事コストを削減し、また「当直」が「時間外労働」とみなされるリスクを回避するためにも、使用単位は事前に労働契約及び関連規則において明確な当直制度を制定し、当直と時間外労働の違いを明記した上で、当直の状況、業務内容、業務要件、使用単位による休憩の手配の可否、当直時の扱いなどを規定すべきである。
3.使用単位は、警備員、通信室の清掃員、倉庫の管理人など、24時間勤務する特殊な職業にある労働者について、労働行政部門に特殊労働時間制を申請すべきである。これにより使用単位は、人事コストを合理的にコントロールでき、使用単位の実情と生産・運営の必要性に応じて労働者を使用することができる。これと同時に、休憩施設を提供し、複数のシフトやローテーションを按排することで、労働者の合法的な権利と利益を保護することができるのである。