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【判例】総合労働時間制において、時間外労働中のノルマを達成できなかった労働者は、時間外労働手当を受け取ることができるか?(2022年2月28日)

●案例:

A機械製造会社のB工場で働く50人の労働者の労働時間制度は、労働行政部門が承認した総合労働時間制度となっており、賃金は出来高制で支払われている。総合労働時間制度は月単位で設定されており、毎月の出来高制のノルマは56個となっていた。

2020年7月、生産ノルマの達成が厳しくなったため、使用単位はB工場の労働者50人に対し時間外労働を命じた。その月の終わりに労働時間を集計したところ、B工場で働く各労働者の実際の労働時間の合計が、会社が時間外労働を命じたために、法定労働時間の合計を各人20時間超過していることが判明した。使用単位は、時間外労働を命じられた50人のうち、ノルマを達成した労働者42人に対しては時間外手当を支払ったが、張氏を含む8人のノルマ未達の労働者に対しては、時間外手当を支払わなかった。

張氏ら8人の労働者は、実際の労働時間が法定労働時間の合計をそれぞれ20時間も上回っていることから、時間外手当を支払うべきだと主張した。 これに対して会社側は、張氏ら8人の総労働時間は確かに法定労働時間を超えているが、出来高払いとなっている業務が達成されていないことから、賃金支払に関する暫定規定に基づき、張氏ら8人に対し時間外手当を支払う必要はないと主張した。そこで張氏ら8人は、当該地区の労働争議仲裁委員会に対し労働争議の仲裁を申し立てたが、仲裁委員会は、張氏ら8人の申し立てを棄却するという判断を下した。

●争点:

労働時間の合計が標準労働時間を超えているが、出来高払いの業務が終了していない労働者にも残業代を支払わなければならないか?

●分析:

この事件の処理については、2つの正反対の説がある。

第一説は、時間外労働は使用単位が手配したものであり、張氏ら8人の労働時間が法定標準労働時間を平均20時間超えていることから、「賃金支払に関する暫定規定」第13条第3項の「労働行政部門による労働時間総合計算制の適用認定」により、時間外手当が支払われるべきであるというものである。

第二説は、生産業務が逼迫していたため、張氏ら8名は使用単位によって時間外労働を手配された結果、張氏ら8名の総実労働時間は総法定労働時間を超えたものの、本来達成義務がある業務ノルマは達成されなかった。使用単位が実現を目指した合理的価値目標が達成されていないことから、「賃金の支払いに関する暫定規定」第13条第2項の本旨及び民法の公正原則に則り、時間外手当は支払われるべきでないというものである。

「我々は、第二説の見方を取る。

出来高払いの労働者に対する時間外手当の支払いについては、法律によって規定されている。「賃金の支払いに関する暫定規定」第13条第1項によると、使用単位が労働者に対し、割り当てられた業務または所定の作業を完了した後、実際の必要性に応じて法定標準労働時間を超えて労働するよう手配した場合、使用単位は対応する基準(※業務の達成度)に応じて時間外手当を支払わなければならない。また、同第2項では、使用単位が出来高払いの労働者に対し、出来高払いの割当作業完了後に長時間働くよう手配した場合、使用単位は第1項の規定に基づき、当該労働者へ法定労働時間の出来高払の賃金を下回らない範囲で時間外手当を支払われなければならないとしている。これらの条文から、出来高払いの労働者に対する時間外手当の支給は、ノルマの達成が前提にあるということがわかる。確かに「賃金の支払いに関する暫定規定」第13条3項では、包括的労働時間のうち法定標準労働時間を超える部分を延長労働時間とみなし、対応する基準に従って時間外手当を支払うことを定めている。しかし、実務上時間外手当を支払うべきか否かについては、労働法の立法趣旨から、労働法の原則に基づいて、事実関係に基づいて総合的に判断されるべきである。

総合労働時間制は、市場経済における企業の生産特性に配慮したものであり、生産課題の完遂の重要性を強調している。同制度は、企業による生産課題の完遂や、価値目標の達成、ひいては経済社会の発展を促すために規定された労働と休息にかかる特別な制度である。「労働法」第39条は、使用単位が生産の特性上、本法第36条及び第38条の規定を実施できない場合、労働行政部門の許可を得て、他の労働・休憩方法を実施できると定めている。この条文の主旨から、統合労働時間制は、労働法第36条に規定された標準労働時間制や第38条に定める「使用単位は、労働者に対し少なくとも週1日の休息を確保しなければならない」という規定を大きく超えて、企業の生産と労働者の休息の関係を法的強制力レベルで総合的に規制し、使用単位が生産課題の完了と価値目標の達成に資源を集中できるようにすることを目的としていると言える。

旧労働部が1995年4月22日に発した「国務院職工の労働時間に関する規定に対する問題への回答」中の第6項では、総合労働時間制についてさらに詳しい説明がなされている。その内容は、「総合労働時間制とは、業務内容の特殊性から連続的な生産活動を必要とし、または季節や自然条件によって労働が制限される一部職工のための労働時間制度であり、週、月、四半期および年のサイクルで労働時間の総合計算を行う」というものである。また同法によれば、市場競争における外的要因により生産業務に偏りが生じる使用単位においては、一部の職工へ統合労働時間制を適用することもできる。

これらの法律の規定は、使用単位の生産活動に焦点を当てており、使用単位が生産活動を完遂させることの重要性を強調したものである。ゆえに、標準労働時間を超えて労働したにもかかわらず、生産業務を完了させていない労働者に対し残業代を支払うことは、特別な事情がない限り労働法の立法趣旨に反し、また、出来高払いの業務を完了した他の労働者に対しても不公平であると結論づけることができる。同時に、民法における公正の原則によれば、立法が民法社会における個人的・財産的利益を配分する場合、それは社会通念上の公正の概念に基づき、市民主体間の基本的利益の均衡を維持するものでなければならないとされている。司法が裁定権を行使する際、社会正義の必要性を反映しなければならない点を鑑みると、当該判決は、上記のとおり、明らかに民法上の公平性の原則に沿うものであると言える。

「労働法」第37条では、出来高払制で働く労働者について、使用単位は同法に規定する標準労働時間制に基づき、労働割当量と出来高払制の報酬基準を合理的に決定しなければならないとされている。使用単位の基準が合理的であるならば、出来高払いのノルマを達成出来なかった責任は、つまるところ張氏をはじめとする8名の側にある。

審議において、使用単位は民主的な手続きを踏んで決定された出来高払いのノルマと報酬基準の内訳を提示し、張氏ら8名はこれに異論を唱えなかった。さらに、同じ時間外労働の環境下にあって、B工場では50名の労働者のうち42名が作業ノルマを達成している。作業ノルマを達成できなかったのが張氏を含む8名だけであったことから、B工場の出来高作業の合理性が強く証明されることとなった。原告弁護側と張氏ら8名の労働者は、労働時間の特殊性を強調したものの、出来高払いの仕事をこなせない理由を証明する合理的かつ正当な理由と証拠を提示することができなかった。ゆえに、出来高払いの作業ノルマを達成できなかった責任は、張氏をはじめとする8名が負うべきものであると判断されたのである。