【判例】「メールボックスを凍結する」行為は、労働契約解除の意思表示とみなされるか?(2022年4月29日)
●案例:
王氏は某文化公司にて高級管理職に就いていた。2018年9月27日、会社側の人事担当者の張氏、趙氏は王氏と労働契約解除について話し合ったが、合意には至らなかった。
2018年9月29日、会社側は王氏のメールボックスを凍結し、10月18日には王氏をWechatのグループチャットから抹消した。10月8日、王氏は労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ違法な労働契約解除にかかる損害賠償金の支払いを求めた。
11月12日、会社側は王氏へ「解雇通知書」を送付した。通知の内容は次の通りであった。「……貴殿は休暇手続きを取らないまま2018年10月15日より当社へ出勤しておらず、連続21日に渡って無断欠勤を行っている。当社の規定では、一年間に理由のない無断欠勤が連続3日間、または累計5日間に及んだときは、審査を経て即時労働契約を解除するとあることから、当社は貴殿との即時労働契約解除を決定した……」
11月23日、労働人事争議仲裁委員会は、王氏の求める違法な労働契約解除にかかる損害賠償請求を棄却する判断を下した。
王氏はこれを不服として法院へ提訴し、会社側は2018年9月30日に口頭で解雇を言い渡したにも関わらず、労働争議仲裁申請後に「無断欠勤」の事実をでっち上げ、意図的に解雇を合法とし法的責任を逃れようとした、と主張した。
一審において、会社側は2018年9月29日に王氏のメールボックスを凍結し、10月18日に王氏をWechatのグループチャットから削除したことを認めた上で、「一連の行為は業務上の調整行為であり、王氏は他の業務に従事していた。また、10月1日からの国慶節休暇前に王氏との話し合いの場を設け、王氏へ通常通り出勤するように求めた」と主張した。
王氏は、国慶節休暇後すぐに労働仲裁を申し立てており、会社側が労働条件を提示しなかったため会社へ出勤せず、提訴に踏み切った、と反論した。
一審は、「王氏は会社側が2018年9月30日口頭で労働契約を解除したと主張しているが、これを証明する証拠は提出されておらず、この主張は認められない。また、王氏は2018年9月30日から11月12日の間業務の引継ぎや業務整理を行い、2018年11月12日まで労働したと主張しているが、業務の引継ぎや業務整理を行った証明がなされておらず、また仲裁庭において最後の出勤日が2018年9月30日であったと陳述している。ゆえに、王氏の最後の出勤日が2018年9月30日であるとする会社側の主張を認める。更に、会社側は2018年10月8日から10月12日の期間についてのみメールにて王氏の年次有給休暇取得を認めているが、王氏は2018年10月15日より出勤していない。王氏は2018年11月12日に至るまで連続して3日間以上無断欠勤したと言えることから、会社側が就業規則に基づき王氏との労働契約を解除したことは何ら不当ではない。従って、王氏の会社側に対する違法な労働契約解除にかかる損害賠償金の支払い請求はその根拠を欠き、認められない」とした。
王氏はこれを不服として二審へ控訴したが、二審は王氏の控訴を棄却し、一審判決が確定した。
●分析:
本案件の要点は、王氏が2018年9月30日に使用単位から「口頭で労働関係を解除されたか」どうかという点である。
労働紛争の仲裁においては一般的に、「主張した者が証明」しなければならない。「労働争議調停仲裁法」第6条では、「労働争議が発生したときは、当事者はその主張の証拠を提出する責任を有する。紛争事項に関する証拠が使用単位の所有・管理下にあるときは、使用単位はこれを提供しなければならない。もし使用単位がこれを提供しないときは、不利益な結果を負うものとする」と定められている。
立証責任の分担について、労働者が「口頭で労働契約を解除された」と主張する場合、労働者側は使用単位が一方的に労働契約を解除した事実を証明する必要がある。また、もし労働者側が、使用単位が「口頭で」労働契約を終了させた事実を合理的に陳述し、それを証明する証拠を提出した場合、使用単位は一方的に労働契約を終了させたとみなすことができる。
一方、労働者側が、使用単位が「口頭で」労働契約を終了させたという事実を合理的に陳述できず、使用単位が一方的に労働契約を終了させたことを証明する証拠を提出しなかった場合は、法律に基づき事実を証明しなかったことによる不利益な結果を負わなければならない事になる。
労働争議の実務において、使用単位が「口頭で解雇した」事実を証明するために労働者が入手できる主な証拠は、音声やビデオの録音、労働安全行政への申し立て記録、目撃者の証言、仕事の引継ぎ表などである。
一般的に、使用単位による労働者の電子メールアドレスをブロックしたり、WeChatのワークグループから労働者を削除したり、労働者に仕事の引継ぎを実施するよう求めたりといった行為は、使用単位の労働者に対する自治管理権の行使とみなされるため、これらの証拠だけでは、使用単位が労働者との労働関係を「口頭で終了させた」ことを証明できない。
「労働契約法」第50条第1項によると、使用単位は労働契約の終了または解除時に労働契約終了証明書を発行し、15日以内に労働者の記録および社会保険関係の移転手続きを完了させなければならないとされている。
この規定は、労働契約の終了証明書を発行することが使用単位の法的義務であることを示している。また、「労働契約法施行規則」第24条は、使用単位が発行する労働契約の終了又は解除の証明書には、労働契約の期間、労働契約の終了又は解除の日、職位及び部門での勤続年数を記載しなければならないと定めている。
実務においては、使用単位が労働者に対して 「どうやったら君を出社させずに済むだろうか?」等と発言し、後になってこれは労働者に対する労働契約終了の通知ではなく、労働契約終了の交渉の申し入れに過ぎず、労働者とは話し合っているはまだ相談中であると弁明するケースがよく見られる。
しかし、このケースにおいて、もし労働者が使用単位より一方的に労働契約を解除されたと勘違いし、「自分の意思」離職した場合は、労働者が後に労働契約の違法な解除を理由として使用単位を訴える可能性があり、かえって法的リスクが大きくなる事もあり得る。
もちろん、労働者が「口頭による労働契約解除」の事実が存在すると主張し、使用単位がそのような事実は存在しないと主張したときは、労使双方が関連する証拠を提出し、法廷で争うこととなる。この場合は、仕事をさせなくなったか、就業規則を返却させたか、賃金を生産したか、仕事の引継ぎを命じたか等が確認され、口頭による労働契約解除があったか否か等を見て総合的に判断されることとなる。
本件では、2018年10月以降の王氏の出勤状況など他の証拠も合わせて総合的に判断し、最終的に2018年9月30日の段階で、労働関係は終了していないと結論づけられた。
しかし、当事者から提供された関連証拠が互いに裏付けられ、証拠の連鎖を形成できる場合、司法はこれを採用することができる。例えば、別の労働紛争事件の当事者である範氏は、会社側が2018年11月29日に両者の労働契約を解除したと主張し、念書、停電通知書、会社の門がロックされている写真、WeChatのチャット記録、メールボックステストのスクリーンショット、電話の様子を収めた動画のディスクを証拠として提出した上でWeChatに記録されたやり取りを法廷で実演した。この案件では、WeChatのチャット記録によると、2018年11月29日、WeChat名「大師」がWeChatグループ内で「早晩君たちを上海チームから解放する」と発言し、これに対して多くの社員が上海の同僚をWeChatのワークグループから外した理由を尋ねたところ、「大師」は「OK、(労働契約解除の)手続きを頼む」と回答していた。
この案件について裁判所は、「範氏が提供したWeChatの記録によると、会社は範氏をWeChatのワークグループから排除し、労働契約解除に関する手続きを行うよう指示している。また、職場のドアをロックして範氏が出勤できないようにし、範氏の仕事のメールアカウントを削除したことから鑑みて、被告(会社側)が範氏との労働契約を解除したと認められることから、会社側は違法な労働契約解除に対する損害賠償を支払わなければならない」と結論付けている。