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【判例】労働者が出張中にホテルで突然死したケースは、労災と認定されるか?(2022年5月31日)

●摘要

死亡した従業員が突然発病したのは、通常休息・睡眠の時間である午前2時であった。 ホテルでの休息や睡眠は、一般人の正常な生理的欲求に基づくものであって、使用単位の業務遂行に基づくものではないから、これを労働時間中や勤務中のものと解するような拡大解釈はすべきでない。さもなければ、社会通念上の労働時間や勤務場所に対する社会的通念を超えた判断が下されることとなる。

●案例

A社にて品質管理業務に従事していた趙氏は、2019年7月4日に会社側の業務指示を受け、B社にて品質検査を行っていた。7月4日当日、趙氏は午前8時から業務を始め、16時には業務を終えて翌日の仕事を按排し、ホテルに宿泊した。しかし趙氏は7月5日午前2時に突然体調を崩し、ホテルの受付係であった陳氏が車で都心の病院に搬送し応急処置を行ったが、そこで死亡した。

7月18日、A社は区の人力資源社会保障局へ趙氏の労災認定を申請し、同日中に同局に受理され、調査が開始された。しかし人力資源社会保障局は9月10日、趙氏の傷病について、労働災害またはみなし労働災害を認定する「労災保険条例」第14条および第15条の状況に合致せず、「労働災害保険条例」第16条にある労災として認定できない状況であると判断し、労災認定を棄却した。趙氏の配偶者である関氏はこれを不服として、2020年1月3日に市人的資源社会保険局へ再審査を申請したが、再審査の結果またも労災に該当しないとの判断が下された。関氏はなおもこれを不服として、行政訴訟に踏み切った。

●判決

関氏は、趙氏が出張中に突然死したことから、発病した時間と場所は労働時間及び勤務場所だと合理的に判断されるべきであり、労災に該当すると主張した。これに対して行政側は、業務による外出時間とは、職務に関連する活動の時間を言、趙氏がホテルで休息を取っていた時間はこれに該当しないことから、趙氏の労災は認定されるべきではない」と主張した。

一審は、「趙氏は使用単位から出張を命じられており、労働者が仕事を離れている間に職務に関連する活動を行った時間と空間は労働時間および職場とみなされることから、趙氏のホテル滞在中の病死に関する時間と場所は労働時間および勤務場所とみなすべきである。趙氏の突然死に至る疾病は、個人的な活動に起因するものではなく、出張中に発生したものである。当該疾病は、一人きりの場合、自宅で配偶者らと共にいた場合に比べ生存率が低く、また労働者保護の観点から、趙氏の疾病について「労災保護条例」第15条第1項(一)に属するみなし労災に該当する。ゆえに一審は、事実と法律に基づき、原告の主張を認める」として、行政側に対し労災認定審査及び再審査の結果を取り消し、改めて再審査を行うよう命じた。

この判決に対して区人的資源社会保障局は、「労働災害保険規則第15条第1項第1号によれば、死亡時のみなし労災の基本条件として、労働時間、勤務場所、急性疾患による死亡または救助後48時間以内の死亡の3条件を同時に満たさなければならないが、この規定は厳格に適用されるべきであり、拡大解釈されるべきではない。今回の案件において死亡した趙氏は上記の条件を満たしていないことから(※労働時間と勤務場所が条件と相違している)、『みなし労災』とされるべきではない」として、一審判決を不服として控訴した。

二審は、「みなし労災について定めた『労災保険条例』第15条第1項第1号では、労災の適用要件として「労働時間中かつ勤務場所」であることを挙げている。労働時間とは一般的に通常の労働時間を言い、勤務場所とは一般的に職務の範囲内で業務に従事する場所を言う。国務院「労働者の労働時間に関する規則」第5条及び「勤務場所の労働衛生監督管理に関する規則」(国家労働安全局令第47号)第58条から、労働時間や勤務職場は決まった時間や場所ではない。また、労災保険条例第15条第1項第1号では、「業務上の地位(職位)」という用語を用いており、よりその職責や業務に重きを置いている。したがって、労働者が使用単位の利益のために使用単位の指定する勤務場所以外の場所で業務に従事し、また業務に関する準備作業や仕上作業を行っている時間も、「労働時間及び勤務場所」とみなされる。意すべきは、急性疾患は元来労災の対象ではなかったが、社会保険制度の整備と弱者に対する国側の配慮から、労災保険の対象になったことである。みなし労災は、労働者に対する傾斜保護であることから、突然の「疾病」が業務に起因する「疾病」であることを要しないとしているが、「疾病」と「傷害」の保護は、つまるところ労働者にとっては異なるものと認識されており、一般的に疾病の保護は、職業病を除けば、医療保険の範囲に含まれるものである。したがって、みなし労災は、立法趣旨から、厳格な法適用もって社会通念に則り判断されなければならず、「労働時間、勤務場所」を拡大解釈すべきではない。急性疾患による死亡が労災と認定されるためには、労働時間、勤務場所、急性疾患による死亡または救助後48時間以内の死亡という3つの条件を同時に満たす必要があり、その1つも欠いてはならない。

労働者の労働時間とは、その職責を全うする為に使用単位の指示を受けて業務を遂行する時間であり、特殊な性質を有していると言える。本案件において、趙氏の急病は、労働時間ではなくかつ社会通念上休憩時間に当たる午前2時に発生したものであるから、労働時間を拡大解釈すべきではない。したがって、趙氏の案件は「労働時間中かつ勤務場所」という法定要件を満たしていないと言える。 労災保険条例第14条第5項では、業務による外出中の労災認定について定めているが、 認定された事実からは、趙氏が業務上の理由で負傷し、突然倒れたことを証明する証拠がないため、業務上の負傷の認定条件も満たされない。

総じて、区人的資源社会保障局は、明確な事実に対して適切に法律を適用し、正当な手続きをもって労災を認定しない判断を下したと言える。原判決は、事実は明らかであるが、法率の適用に誤りがあるため、これを破棄する」として。 一審の評決を取り消し、原告関氏の請求を棄却した。

●分析

本案件の事実関係は明白であり、業務による外出において宿泊施設で就寝中に急性疾患で死亡したものである。本案件の主な争点は「労働時間中かつ勤務場所」という条件を満たしているか否かだが、具体的な案件での適用については、いまだに司法当局の判断も分かれている。

一、「労災保険条例」の厳格な解釈

法律にとって、解釈は必要不可欠である。ある法律を具体的な事例に適用するためには、規定の事実構成と事例の事実構成とを詳細に比較する必要があり、両者が適合して初めて、規定の結果、すなわち法規範を適用することができるのである。規定の事実構成は極めて一般的であるが、各事案の事実は多種多様であり、両者が同質であるかどうかは、法律の解釈次第である。「幅広く」解釈するか「厳格に」解釈するかは、裁判の主観的な傾向として、最終的な判決結果に大きな影響を与える。労災認定において、多くの司法書士が傷病を労災保険制度に含めて規定の規定を「甘く」解釈する傾向があり、労災保険制度の持続可能性が著しく損なわれることになる。

本案件における二審は、職業病の場合を除き、一般的に疾病の保護は医療保険の調整範囲に属することを理由として、みなし労災は法律の規定に従って厳格に執行されるべきであるとした。この解釈は、「労災保険条例」の立法趣旨を正確に捉えている。なぜなら本判決は、法律の解釈を厳格に守り、社会通念から逸脱して定義を「創作」しておらず、また「労災保険条例」第14条にある「労災」及び第15条「みなし労災」においては、制度的な解釈を踏まえて労災を具体的にとらえなければならないとしているからである。

二、「労働時間と勤務場所」の確定

「労災保険条例」第14条第5項では、「労働者が業務による外出中に、事故により負傷したとき、また行方不明となったときは、これを労災と認定する」旨を定めているが、この条文を見ると、「業務上の外出」中に「業務に起因する負傷」を負った場合が労災として認められることを強調していることがわかる。

本案件においては、労働者が業務による外出中にホテルで就寝していた時間が労働時間に該当するか否か、またホテルの室内が勤務場所に該当するか否かが鍵となる。全国人民代表大会常務委員会が批准したILO労働安全衛生・労働環境条約1981年第3条は、「勤務場所とは、労働者がその仕事に関連して存在すること、または行くことを要求されるすべての場所であって、使用者の直接的または間接的支配下にあるものを含む」と規定している。そのため、「労働時間と勤務場所」の判断は、「勤務中か否か」の判断に置き換えられると言え、ゆえに労働者が就寝中急性疾患に罹患した場合、その時間は労働時間ではなく、ホテルの部屋は仕事ではない、という判断が下されたのである。

三、「合理的な拡大解釈」における厳格適用の必要性

労災の認定において、司法においては、「労働時間」「勤務場所」「業務上の地位」を「合理的な範囲」という言葉を用いて拡大解釈するケースがよく見られる。例えば、通勤、昼食時の社内食堂、会社寮などは、「労働時間」「勤務場所」「業務上の地位」の「合理的延長」であると解され、本来、「労働時間」「勤務場所」「業務上の地位」に属さない傷病も労災の保護範囲内に含まれると考えられる。このような拡大解釈についても、社会通念認識から逸脱しており、法的概念の正確性や法的要素としての妥当性に反していると見れないことはないが、水を飲む、トイレに行くなど、業務途中での合理的な休憩は、業務を遂行する上で避けては通れないものである。またこれらの要素は、使用単位が労働者へ労働の対価を支払うために必要不可欠であることから、労働時間の「拡大解釈」とは言えない。

司法実務において、このような「拡大解釈」を行わなければならない場合は、慎重かつ厳密に限定して行わなければならず、司法官は社会通念に即した認識をもって当たらなければならないのである。