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【判例】労働者は、労災による休業期間に賃金と損害賠償金を同時に受け取ることができるか?(2022年5月31日)

●摘要

労働者が第三者による侵害のために人身事故に巻き込まれ、かつ労災を構成する場合、使用単位は労働者が労災による休業期間中にあっても、本来の賃金および手当を従来通り月単位で支払わなければならない。使用単位は、労働者が不法行為を起こした第三者が労働者へ損害賠償金を補償したことを理由として、使用者が労災による休業期間中の賃金を支払う必要がないという主張を展開しても、人民法院はこれを支持しないのである。

●案例

周氏は某紡績会社の労働者である。2018年7月9日、周氏は会社からの帰宅途中、第三者である張氏と交通事故を起こした。交通警察旅団は、事故の第一責任は張氏、第二責任は周氏にあるとする事故証明書を作成した。交通警察署の調停により、双方は合意に達し、張氏は周氏に損害賠償金などの損害賠償金を補償した。2018年10月30日、人的資源社会保障局は、周氏が受けた負傷は労災に属すると判断し、労災認定を下した。併せて労働能力鑑定委員会は、周氏の障害等級を10級と認定し、労働能力鑑定を終了したことを通達した。

その後2019年4月19日、周氏は労働人事争議仲裁委員会に仲裁を申し立て、会社側へ無給休職期間の賃金と障害者雇用一時金を支払うよう求めた。会社側は仲裁委員会の裁定を不服として法院へ提訴したが、法院は「労働者が業務中に事故により負傷し、その治療を受けるために業務を中断する必要があるときは、使用単位は労災による休業期間中であっても、本来の賃金と手当を従前と変わらず毎月支払わなければならない。労災による休業期間と損害賠償金は異なる法律関係に基づくものであり、負傷者はその両方を得ることができる。周氏の負傷後、医療機関は合計35日の休暇証明書を発行していることから、使用単位は周氏の賃金水準に基づく労災による休業期間中の賃金を支払わなければならない」との判決を下した。会社側はなおも不服として控訴したが、二審において控訴は棄却され、原審が確定した。

●分析

労働災害保険給付制度は、業務中の事故でけがをしたり、職業病にかかったりした労働者の治療、生活保護、金銭補償、リハビリなどの権利を保護する制度である。使用単位は、「中華人民共和国社会保険法」および「労災保険条例」の関連法規に則って労災を申請し、また労働者の保険料を支払わなければならない。

第三者による権利侵害が原因で被保険者が障害者となったり死亡した場合、使用単位は労災保険による補償を、権利侵害者側は医療費などの関連費用のほか、権利の侵害にかかる補償を行う必要がある。労働者が労災保険と人身傷害補償の両方を受けることができるか否かについて、現行法ではこれを禁止していない。また、労災保険と民事不法行為補償は、前者が社会保障の法律関係に基づく公法分野であるのに対し、後者は民事法律関係に基づく私法分野であり、性質が異なるため、どちらか一方をもってもう一方を代替してはならない。本判決は、労働者が労災による休業期間中の給与と損害賠償金の両方を得ることができるとするとともに、両者の関係を明確にし、負傷した労働者の正当な権益を十分に保護した。この判決は、企業に対し職業上のリスクを分散するために法律に従って労働者に保険をかけることを強く促すだけでなく、第三者の侵害による法的責任を逃れることを防止するとともに、第三者の侵害による労災保険診療の取り扱いについての重要な指針となるものである。