【判例】年末賞与支払日前に離職した労働者であっても、年末賞与を受け取ることはできるか? (2022年6月29日)
●案例:
2015年1月4日、唐氏はA社へ入社し、財務経理職に就いていた。その後が2018年10月9日、唐氏は離職しA社との労働関係を修了させたが、A社は唐氏に対し年末賞与を支払わなかった。そこで唐氏は労働争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、A社に対し2018年の年末ボーナス21813元を支払うよう求めた。
A社は年末賞与の支払いについて、2018年1月1日に施行された「組織体制・報酬管理規定」に基づき、年度中途採用者やリストラ対象者、離職者に対しても実際の就労日数応じたに賞与を支払っていた。
しかし会社側は2018年8月1日「年次総合評価管理規定」を新たに施行していた。同規定では、査定期間中に離職した離職者に対しては、賞与査定の対象とし賞与を支払うとしていたものの、査定評価前に離職した離職者は賞与査定の対象とはならず、賞与も支払わないと定められていた。
A社は、2018年の賞与を「年次総合評価管理規定」に基づいて支払ったため、離職者である唐氏は賞与支払いの対象とならないと主張した。しかし審議において、A社の「組織体制・報酬管理規定」は従業員全体より同意が得られていたものの、「年次総合評価管理規定」については施行されて間もなかった事もあり、労働者全体へ周知されていなかったことが判明した。
仲裁庭は唐氏の主張を認めたが、A社はこれを不服として法院へ提訴した。
●分析:
本案件の争点は、唐氏が離職した当年について、会社側は唐氏の在籍期間分の年末賞与を支払わなければならないか否かという点である。この点については、2つの異なる見解が存在する。
一つは、年末賞与は使用単位が労働者へ支払う追加報酬であり、法律上年末賞与の支払条件が明確に規定されていないことから、両者の合意または使用単位の規定に基づいて決定されるというものである。会社側は、離職する労働者に対する年末賞与の支給の有無および評価方法について修正・追加を行っているが、修正後の「年次総合評価管理規定」によれば、唐氏は離職者に該当し当年の総合評価の対象とはならない。また、会社側の行為は内部規則に即したものであり、使用単位による管理権の行使であるから、法律上の禁止事項に反していない。したがって、離職者である唐氏は、「年次総合評価管理規定」の規定により、当該年度の総合評価の対象とならず、年末賞与も支払われないこととなる。
もう一つの見解は、会社側は確かに2018年の業績賞与について2018年8月1日に策定された「年次総合評価管理規定」に基づいて支給したと主張しているものの、同管理規定が労働者に周知・伝達されたことを証明する証拠は提出されなかったことから、唐氏へ2018年1月1日に実施された「組織体制・報酬管理規定」に基づいた賞与を支払わなければならないとするものである。この見解によれば、会社側は2018年の年末賞与の一部を、労働に応じた対価として、同一労働同一賃金の原則に基づき、唐氏へ支給しなければならない。
法院は最終的に、「年末賞与は、労働者の業務能率や業績に応じて、報酬に関する規定や従業員の雇用契約との合意により、使用単位が労働者へ支払う報酬であるが、法律上、支給条件が明確に規定されていない。したがって、年末賞与の支払いは両者の合意または使用単位の規定に基づく必要がある。本案件において、会社側は規定を改定したものの、労働者には公表されておらず、実際に年末賞与が支給された年に適用された規定は、従前の「組織体制・報酬管理措置」のままであった。ゆえに、会社側は唐氏に対し、旧規則に基づいて年末賞与の一部を支給しなければならない。年末賞与の支給割合は、暦年の総日数に対する実際の勤務日数の割合に基づいて計算されるものとする」として、後者の説を採用した。
年末賞与の減額をめぐる紛争は実務上よく見られるが、現行法では、年末賞与の支給について明示的に規定されていない。しかし、地方規定や司法判断から、以下のようなケースでの紛争が想定される。
一、上記案例と同じく、従業員が年末賞与の査定期間の途中で離職しており、使用単位の社内規定で「査定期間中に離職した労働者については当該年度の年末賞与を支給しない」と規定している場合。
この場合、司法は通常使用単位の規定を認めることとなる。但し、人事考課や賃金制度等労働者の重大な利益に直結する規定の改定については、「労働契約法」第4条に基づき、労働者へ意見を求め、工会での対等な協議などの民主的な手続きを経て策定し、労働者へ告知または周知しなければならない。もしこの手続きを踏まなければ、使用単位は手続きの不履行を理由として労働者より年末賞与の支払いを請求されることとなりかねない。
二、年末賞与の査定期間中は在職しているが、実際の年末賞与の支給日または査定日の前に離職した場合。
この場合、使用単位が給与関係規定または労働契約書において労働者と「年末賞与の支給前に離職したときは、会社側は年末賞与を支給しない」ことについて合意していたとしても、使用単位は年末賞与の支給義務を完全に免れることはできない。司法実務において、このような条項が無効とされたケースが存在するのである。
例えば案件(2020)景02民終11594において、使用単位は、年末賞与を年末査定終了後の、概ね春節前または翌年2月15日までに支給し、支給日に会社との雇用契約を終了または解除した労働者については年末賞与の査定・分配を行わないと定めていた。この案件において、2019年2月28日をもって離職した優氏について、法院は以下のような判断を下したのである。「労使双方は、年末賞与に対する合意内容から、業績賞与について使用単位の運営状況、部門の業績、部門の完成度と個人業績を総合的に判断して決定するとしている。この年末賞与の法的性質は、労働者の労働の対価に属しており、労働の対価を使用単位の産業の特性に基づいて年末または翌年初に一律に支給するよう手配されているに過ぎないから、使用単位は契約上の合意または労働者の業績に応じて年末賞与を支給しなければならない。ゆえに、既に離職した労働者であっても、完成した業務の成果に対して報酬を得る権利があることから、会社側は優氏に対し2018年の業績賞与を支払わなければならない」
このリスクを回避するために、現在多くの使用単位が年末賞与の代わりに「在職インセンティブ制度」を採用している点は注目に値する。この「在職インセンティブ制度」は離職防止を目的としており、当該年度の第4四半期に離職していない労働者に対してインセンティブを支払うと定めている。使用単位の社内制度で制定された「在職インセンティブ制度」による報奨金は、労働の対価ではなくあくまでインセンティブとして扱われるため、判例でも離職した労働者への支払義務はないと認められている。
三、労働者が査定期間中に離職したが、このケースにおいて年末賞与を支払う否かを労使双方で約定していない場合。
このようなケースにおいては、司法において統一された見解はなく、各地方政府の政策及び司法判断によって異なる。
例えば深圳市では、このようなケースの場合、年末賞与を在職期間に応じて支払うとしている。「深圳市賃金支払条例」第14条2項では、「労働者との労働関係が解除または終了した場合で、賃金、四半期賞与、期末賞与の査定期間中の部分については、労働者の実際の労働時間に応じてこれらを支払わなければならない」と規定されている。深圳市は、離職した労働者の年末賞与の支払いについて、現地規定の形で明記している。
その一方で、使用単位の支払い義務を認めないとする見方もある。この説では、年末賞与は使用単位が労働者へ与える付加的な報酬であるから、使用単位の経営権の行使の範囲内にあるとする。年末賞与を使用単位が支払うか否か、どのように支払うかについての規定がない場合、離職した労働者は、年末賞与が支払われるべき証拠を立証することはできない。ゆえに、使用単位は労働者へ年末賞与を支払う義務はないのである。
現行法では年末賞与について規定されておらず、実務も各地域によって異なる。したがって、この問題を議論する際には、次のような点を考慮する必要がある。
1.地方条例に年末賞与の支給について明確な規定があるか否か。現地規定に明確な規定がある場合は、その規定に従って手続きを進める必要がある。例えば先の深圳市では、労働関係が解除または終了した労働者であっても、月給、四半期賞与、期末賞与の査定期間中に在籍していた場合、離職までの労働時間においてこれらを支払わなければならないのである。
2.使用単位の年末賞与の性質はどうなっているか。多くの使用単位が年末賞与を設定しているが、年末賞与とは実のところ労働に対する報酬である。ゆえに、たとえ使用単位が離職者に年末賞与を支払わないと明確に規定していたとしても、使用単位はより大きな法的リスクに直面する可能性がある。逆に、年末賞与を現職労働者への福利厚生としての「在職インセンティブ」であると規定しておけば、労働紛争が発生した際にも司法の理解を得やすくなる。
3.年末賞与について使用単位の規定制度に明確に定めているか否か。使用単位の規定制度に年末賞与に関する規定がある場合は、年末賞与の支払時期、支払基準、算定方法、支給条件などを明確にしておく必要がある。また、使用単位がこのような制度を策定・改定する場合には、法令に基づき、労働者の意見を聴き、労働組合との対等な協議等の民主的手続きを踏んだ上で、従業員に告知または周知する必要があることに留意する必要があるだろう。