【判例】使用単位によって労働者が離職させられた場合、使用単位は「13ヶ月目の賃金」を支払わなければならないか?(2022年6月29日)
●案例:
2018年5月14日、大匠公司は梁氏へ「従業員採用確認書」を発行した。確認書には、梁氏をAPS開発経理として採用すること、月賃金を3万元とすること、年間13ヶ月分の賃金を支払うこと、「13ヶ月目の賃金」は当暦年に対する実際の勤務月数の割合及び労働者の当年度の個人成績に基づいて算定することが記載されていた。2018年5月21日、会社側は梁氏と2018年5月21日から2020年5月21日までの労働契約を締結し、毎月3万元の賃金を支払った。賃金は每月15日前後に前月分の賃金が支払われていた。
2019年6月10日、梁氏は賃金が適時満額支払われなかったこと理由として離職し、2019年6月25日に労働争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ2018年5月から2019年6月までの期間を対象とした「13ヶ月目の賃金」3万元の支払い等を求めた。
これを受けて仲裁庭は、会社側に対し梁氏へ2018年度の「13ヶ月目の賃金」等18,410.96元を支払うよう命じたが、労使双方ともこの裁決を不服として法院へ提訴した。
一審は、「2018年5月21日から2019年6月10日までの期間の『13ヶ月目の賃金』について、労使双方は、労働者の当暦年に対する実際の勤務月数の割合及び労働者の当年度の個人成績に基づいて算定することで合意している。2018年度の「13ヶ月目の賃金」について、会社側は梁氏が支払条件を満たしていないことを証明する証拠を提出していない。このことから、会社側は梁氏に対し2018年度の「13ヶ月目の賃金」を支払わなければならない。2019年度の「13ヶ月目の賃金」についても、会社が労働報酬を遅滞なく支払わなかったことから梁氏が離職せざるを得なくなった事情を鑑み、会社側は約定に基づきは梁氏へ2019年度の「13ヶ月目の賃金」を支払わなければならない。
総じて、梁氏が会社側へ請求した2018年5月21日から2019年6月10日までの期間についての「13ヶ月目の賃金」3万元について、当該金額が法定基準額を下回ることから、梁氏の請求を認め、会社側へ「13ヶ月目の賃金」3万元を梁氏へ支払うよう命ずる」との判決を下した。
会社側はこれを不服として控訴したが、二審は控訴を棄却し、原審が確定した。
●分析:
一、「年底双薪(※年度末に賃金を二倍支払う人事慣習を言う。本文参照)」も労働報酬のうち
いわゆる「年末賞与」は、その名の通り1年間の労働に対する対価である。一方で、この他にも「十三薪」と呼ばれる、年末に2ヶ月分の賃金を支払う制度がある。この「十三薪」は、「年底双薪」とも呼ばれる(この他、「十四薪」「十五薪」を支払う使用単位も存在する)。この「年底双薪」制度は、改革開放以降、外資系企業の参入により徐々に社会に定着していった。ある調査によると、アメリカ大陸ではこの「十三薪方式」が非常に一般的で、アメリカの17の司法管轄区では、企業が労働者に「13ヶ月目の賃金」を支払うよう義務づけている程である。
我が国の労働法には、年末賞与や「13ヶ月目の賃金」に関する強制規定はないが、「上海市企業賃金支払弁法」には、「この弁法にいう賃金とは、国や市の規定に従って使用単位が労働者へ金銭で支払う報酬を言い、時間給、出来高給、賞与、手当、補助金、残業代などが含まれる」と定められている。
「13ヶ月目の賃金」であろうが、「年末賞与」であろうが、いずれも労働者に支払われる金銭的報酬であり、賃金総額に含めなければならない。したがって、使用単位は「年底双薪」や年末賞与の支払いに当たって、労働法規に違反してはならないのである。
労働契約または就業規則において、「13ヶ月目の賃金」または年末賞与の支給条件が定められている場合は、原則として労働契約または就業規則の規定が適用される。ただし、使用単位の規定や規則は、公正で合理的でなければならない。
本案件において労使双方は、「13ヶ月目の賃金」について、労働者の実際の勤務月数の当暦年に対する比率および労働者の当年度の個人業績に基づいて算定されることで合意している。2018年の「13ヶ月目の賃金」ついては、ほとんど争点がなかったが、問題となったのは2019年の「13ヶ月目の賃金」である。本案件の梁氏は2019年半ばに離職しており、2019年の年次業績評価の対象となっていない。このような場合、会社側は2019年も一定割合の「13ヶ月目の賃金」を支払わなければならないのだろうか?
本案件において会社側は、梁氏に対し賃金全額を期限内に支払わなかった。会社側はその理由を資金繰りが苦しい為と主張したが、それを証明する証拠もなく、梁氏との連絡や交渉した事実も証明されていない。関連法規によれば、使用単位が労働報酬を全額かつ期限通りに支払わない場合、労働者は労働契約を解除することができ、使用単位は法律に従って経済補償金を支払わなければならないと定めている。つまり、梁氏が離職し、年次業績評価の対象外となった責任は、労働者本人にあるのではなく、そもそも会社側にあったのである。したがって、会社側は梁氏に対し、2019年の「13ヶ月目の賃金」を一定割合支払わなければならないと言える。
年末賞与や「13ヶ月目の賃金」について、労働契約や就業規則にはっきり定めていない場合であっても、公平・合理性の原則に従って処理しなければ、労働者の権利侵害とみなされ合法性を認められないのである。
一般的に、使用単位が慣習的に年末賞与及び「13ヶ月目の賃金」を支払っており、当年度において使用単位が他の労働者へ年末賞与及び「13ヶ月目の賃金」を支給したことを労働者側が十分に証明できる場合、労働紛争仲裁機関又は法院は、同一労働同一賃金及び公正・合理性の原則に基づき、労働者による労働収入の分配を受けるための請求を認めることとなる。
二、「年底双薪」の算定方法
1980年代は、外資系企業の方が国内企業よりも賃金分配の自主性が高かった。また、当時の政策では、外資系企業に対し、国有企業では支払われる食事手当や交通費などを支給しない代わりに、年末に1カ月分の給与を追加で支給することが認められていた。ゆえに「13ヶ月目の賃金」は、むしろ各種手当の支払いという意味合いが強いものであった。
その後政府による賃金分配改革に伴い、国内企業にも賃金分配の自主権が与えられる中、「13ヶ月目の賃金」支払制度を採用する企業も出てきた。このような経緯から、現在多くの企業において「13ヶ月目の賃金」は、年末のインセンティブという性格を持つようになったのである。
「13ヶ月目の賃金」や「年末賞与」の支払いについては、特に法的な規定はなく、経営自主権の範囲内とされているため、使用単位は自社の状況に応じて支給の有無や方法を決定することができる。ただし、労働契約や就業規則に「13ヶ月目の賃金」や「年末賞与」について定めている場合は、その規定に従って全額を支払わなければならない。なぜならこの場合、「13ヶ月目の賃金」や「年末賞与」は、すでに労働者にとって予想される利益であり、もはや会社の一方的な決定の範囲に入らないからである。
実際には、「13ヶ月目の賃金」や「年末賞与」の間には、多少の違いが存在しており、「13ヶ月目の賃金」が比較的公平なインセンティブであるのに対し、「年末賞与」は業績評価の結果をより反映したものとなっているが、使用単位はこの点について現状や特性に合わせて柔軟に制度を制定することができる。
また、「13ヶ月目の賃金」や「年末賞与」には算定基準に違いがあり、年末賞与の額は業績等ある程度の不確定要素に」左右される。しかし「13ヶ月目の賃金」算定においては、使用単位が明確な規定を設けていれば、その規定に従えばよく、本案件のよう3万元で合意していれば、その規定に従い支払うこととなる。
この時、もし使用単位が明確な規定を設けていない場合、司法実務では一般的に、労働者の1年間の平均賃金を基礎として算定する。
また、年度途中で労働契約が終了し、かつ「13ヶ月目の賃金」を支払うべき場合、司法実務においては、「13ヶ月目の賃金」の算定の基礎として、労働契約終了前の12ヶ月間の労働者の平均給与を用いて賃金を算定する傾向が見られる。