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【判例】労働者は完全な時間外労働の記録を証拠として提出できない場合であっても、時間外手当の存在を証明することができるか? (2022年7月29日)

●案例:

張氏は物流会社A公司と書面による労働契約を締結し、2018年9月1日より勤務を開始した。しかし2022年3月21日、張氏は「勤務時間が長すぎる」としてA公司を離職した上で、労働争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ2018年9月1日から2022年3月21日までの時間外手当を支払うよう求めた。

仲裁の申し立てに当たり、張氏はこの期間の出勤確認台帳のコピーや、数か月分の打刻システムのスクリーンショットをプリントアウトした用紙等の証拠を提出した。張氏はこれらの証拠から、在籍期間中すべての月で時間外労働に従事しており、会社側は打刻システムにより従業員の勤怠を管理し、また勤怠記録を保管していたと主張した。

これに対して会社側は、張氏が提出した証拠は、2018年9月1日から2022年3月21日までの全期間をカバーしていないため、時間外労働の事実を証明する十分な証拠とは言えず、張氏の請求は棄却されるべきであると反論した。

●裁決:

仲裁庭が会社側に対し出勤記録の立証責任を命じたことから、会社側は完全な出勤記録を証拠として提出した。仲裁庭はこの出勤記録から、張氏の時間外労働の事実を認め、会社側へ時間外労働に該当する賃金を支払うよう命じた。

●争点:

時間外手当の支払いに関する立証責任を負うのは労働者側か、それとも使用単位側か?追わなければならないか?加班工资的举证责任如何划分

裁決の根拠:労働争議においては、「主張する者が証拠を提出する」という原則が貫かれているが、証拠によっては使用者の管理下にあり、労働者が提出できないものも存在する。そこで、「労働争議調停仲裁法」第6条では、労働争議が発生した場合、当事者はその主張に対して証拠を提供する責任を有するとした上で、争議事項に関する証拠が使用単位の管理下にある場合は使用者が提供し、使用単位が証拠を提供しない場合は不利益を負担するものと定めている。

また、同法第39条は、「労働者が使用単位の所有・管理下にある仲裁申立に関する証拠を提出できない場合、仲裁廷は使用単位に対し指定期間内の提出を求めることができ、使用単位が指定期間内に提出しない場合、不利益を負担しなければならない」と定めている。

また、最高人民法院「労働争議事件案件審理における法律適用に関する解釈」

(一)第42条は、「労働者が時間外労働手当を請求する場合、立証責任は時間外労働の事実の存在にあるが、使用単位に時間外労働の事実の存在を証明する証拠を有し、使用単位がそれを提供しない場合は、使用単位は不利益を負担しなければならない」と規定している。

本案件において張氏が提出した証拠は不十分で不完全ものであり、在籍中の全ての期間で時間外労働があったことを証明するには至らなかったものの、これらの証拠が予備的証拠として、会社側が自身の時間外労働を記録した勤怠記録を有していることを証明した。

そこで仲裁庭は、会社側の抗弁を退け、出勤記録の立証責任を会社側へ課し、指定期間内に証拠を提出するよう命じた。その上で、提出された完全な出勤記録に基づき張氏の時間外労働を証明し、時間外手当の金額を算定した上で会社側へ時間外手当の支払いを命じた。今回の仲裁庭の判断は、「立証責任の逆転」の原則を採用し、労働者の正当な権益を保護する正しい方法であったと言える。