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【判例】労働者は、自身の販売価格の誤表記について損害賠償責任を負わなければならないか?(2022年9月30日)

●案例:

2018年3月12日富浩公司へ入社した楽氏は、貿易販売業務に従事していた。彼の労働条件は試用期間の基本給4000元、試用期間後は4500元+インセンティブとなっていた。

2018年7月20日、楽氏は日本のアマゾン上で会社が販売している電池セットの販売プロモーションを行った際、本来8134円と表記すべきところを誤って115円と表記してしまった。結果として、609件の取引が誤った価格で成立してしまい、うち258件が既に配送されてしまった。配送されていない351件についても、取引を取り消すことができたのは31件のみで、残り578件は取り消すことができなかった。

この件において会社側は楽氏に対し、誤った価格で販売した578セットの製品について、通常の販売価格である305,331元と紛争解決のための公証人費用および翻訳費用の補償を求めて法院へ提訴した。

これに対し楽氏は、「仮に578台がキャンセルされずそのまま販売されたとしても、損失額の算定基準は本来見込まれた売上額ではなく1台あたり4,000円の原価を基準として算定すべきである。従業員の損害賠償責任は損害額の10%とすべきである」と反論した。

法院は、会社側が製品の仕入れ値、保管・運搬費及び(販売員の)人件費等の原価計算をしていないことから、楽氏が主張する原価を認め原価を55%とし、日本円の損失額258万5798.6円[(8249円-115円)×578セット×0.55]を2018年7月25日の為替レートにて人民元へ換算した金額158,343.98元に公証人費用4,000元と翻訳手数料 1,800元を足した金額を会社側の損失として認めた。

また法院は、会社側の責任により楽氏がウェブサイト上で価格などの販売情報を設定してからプラットフォームが注文と配送を確認するまで取引プロセス全体を確認できる設定になっておらず、プラットフォーム内の誤った価格が適時に発見されないまま5日近く取引が継続されたことも、今回の損失の要因であると認めた。結果、権利とリスクの平等性の観点から、労使双方の過失の程度を鑑み、楽氏の損害賠償責任の範囲を損失の10%である16,414元と認定した。

●分析:

一、価格誤表記の損失額をどのように認定すべきか

職務を遂行する過程で使用単位に損害を与えた労働者は、相応の責任を負わなければならない。なぜなら、労働者の故意または重過失が使用単位に多大な経済的損失を与えても、公平・合理性の原則に反して労働者が責任を負う必要がないならば、労働者が職務を怠り、また使用単位の規則に背く事態を招きかねず、労働者の注意義務の促進にもつながらないからである。

但し、使用単位が労働者へ損害賠償負担を求めるのは、労働者の過失が使用単位へ直接的な経済的損失を生じせしめことが前提である。その損失は実際に発生した経済的損失であり、具体的な金額を算出できるものでなければならない。

司法実務上、使用単位が経済的損失に対する損害賠償を請求する場合、司法は使用単位の損失の算定方法、算定内容、算定の根拠、直接的損失か間接的損失か、損失が実際に発生したかどうか、損失の具体的金額などを審査することとなる。

本案件における損失額の決定について、楽氏の「今回膨大な量の商品が販売されたのは異常に低い価格を誤って設定したためであり、通常これだけの販売量は見込めないから、販売価格を基準として損害賠償額を算定すべきではない」とする主張には合理性があり、それゆえ法院は会社側により販売価格を基準とした損害賠償額の算定を支持せず、会社側が被った損害を原価コストに基づいて算定した。

また、会社側は損害賠償請求の際に製品の仕入れ値、保管・運搬費及び(販売員の)人件費等の原価計算をしていなかったことから、法院は楽氏が主張する原価価格をもとに、売上原価は販売価格の55%であると認定した。また、同社が証拠を提出した公証人費用4,000元、翻訳料1,800元についても、問題対応への必要経費として損失の一部に認められた。

二、使用単位は労働者の過失を慎重に見極めなければならない

使用単位が労働者に対して損害賠償を請求する場合は、労働者に過失があったことを前提として、その過失が故意や重過失によるものか否かを明確にする必要がある。自分の行為が契約の侵害・違反に当たり、使用単位の正当な権利・利益に損害をもたらすことを知り、または知るべきでありながら、自主的に侵害・違反の結果を追求し、または発生させた労働者は、自己の過失の範囲内で使用単位に生じた経済損失を賠償する責任を負わなければならない。

一般的に、労働者が故意に使用単位へ損失を与えた場合は損失の全額の賠償を請求でき、また労働者の重過失により使用単位が損失を被った場合は、損害賠償額の上限を請求できるが、労働者に過失がない場合、または通常の過失の場合は、経営上の通常のリスクと見なされ、労働者は損失に対する損害賠償を請求されないとされている。

司法実務上、使用単位が労働者に対し経済的損失の補償を求める場合、司法機関は、労働者による契約の侵害または違反の有無、使用単位の損失と労働者の侵害または契約違反の関連性、労働者の主観的過失の有無について審議する。

もし使用単位に規則違反があった場合や危険な作業を命じた場合、使用単位が独自に担当職務や業務内容を策定したが労働者へ周知していない場合など、損失の責任が使用単位にある場合は、労働者の責任は免除される。また、使用単位が受け入れた派遣労働者に対し、職務範囲を超えた業務を命じた場合も労働者の責任は免除される。しかし発生した損失が労働者及びその他の複合的要因によるものである場合は、労働者の負担すべき責任割合を主観的、客観的に鑑みて合理的な責任割合を決定しなければならない。

本案件において、楽氏が価格表示を誤ったのは過失と不注意であり、その結果会社側へ損失を生じせしめたことから、会社側が楽氏へその過失による経済的損失を賠償するよう請求することは法的根拠がある。しかし、オンラインプラットフォームを通じて販売する以上、効率的で低コストのオンライン販売チャネルの利便性を得る一方で、インターネット上の広い範囲と情報伝播の速さに伴う取引リスクに注意する必要がある。

会社側は、情報の正確性や不正取引の特定に関する検証プロセスを設けずに、オンラインプラットフォーム上での販売情報の公開を楽氏へ任せきりにしており、事実上、事業リスクを慎重に管理する責任を果たさなかったことから、会社側にも価格誤表示期間中の連続取引による損失について過失があったと言える」。

三、使用単位は労働者へ経営リスクを転嫁できない

労働者と使用単位の法的地位は異なっており、使用単位は企業財産の所有者・管理者であると同時に企業内の管理監督者であるから、使用単位の経営リスクを労働者へ転嫁することはできない。

本案件において、楽氏は労働者として固定給のみしか受け取っておらず、会社側が得た利益が楽氏の利益に反映されていない以上、会社の営業的損失に対して楽氏へ全面的な責任を負わせるべきではない。これらの事情を鑑み、法院は本案件について、楽氏の過失責任を会社側の実損失の10%と認定したのである。