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【判例】年休の「失効」事項は合法か?(2022年11月30日)

●案例:

牛氏は2010年4月30日フューチャーパートナーズ社へ入社し、地域総監の職に就いていたが、2018年10月30日会社側は牛氏へ解雇通知書を送付し、解雇を通達した。,これを受けて牛氏は2018年11月7日に労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ賃金とインセンティブ及び違法な労働契約解除にかかる経済補償金の支払いを求め、併せて2017年1月1日から2018年10月30日の期間の未取得年休分の賃金29,772元の支払いを請求した。審議の結果仲裁委は、会社側へ牛氏の2017年1月1日から2018年10月30日までの未取得年休分の賃金20,321.84元及び違法な労働契約解除にかかる損害賠償金306,000元等の支払いを命じた。

労使双方はこれを不服として、法院へ提訴した。

一審での審議において、会社側の就業規則に「当年度の年次有給休暇は次年度の3月末に失効する」との記載があることが判明した。牛氏は2017年に3日、2018年に1日年休を取得していたが、会社側はこれ以外の未取得年休期間の賃金を支払っていなかった。

牛氏が請求する2017年1月1日から2018年10月30日までの期間における13日間の未取得年金に対する賃金の支払いについて一審は、「牛氏の勤怠記録及び社会保険料納付記録から、牛氏の累計勤続年数は2017年2月に10年に達する。このことから算定して、牛氏が2017年度に取得できる年休は9日、2018年度に取得できる年休は8日となる。

会社側は就業規則にて年休の時効無効を定めているが、これは法律法規の強制規定に反し無効である。牛氏は2017年に3日間、2018年に1日間の年休を取得していることから、会社側へ牛氏の2017年1月1日より2018年10月30日までの未取得年休にかかる賃金20,321.84元の支払いを命ずる」との判決を下した。

●分析:

一、 使用単位は、労働者の年休を手配しなければならない

「職工年次有給休暇条例」では、使用単位は生産と業務の具体的な状況に応じて、労働者自身の希望を鑑み労働者の年次有給休暇を手配しなければならないと定めている。また同条例では、「年次有給休暇は、一つの年度内に集中して手配することができ、分割して手配することもできるが、原則として年度をまたいではならない。但し、生産及び業務仕事の特性により、使用単位が年をまたいで労働者の年次有給休暇を手配する必要がある場合は、年度をまたいで年次有給休暇を手配することができる」と定めている。

このことから、年次有給休暇を労働者へ適切に手配することは、使用単位の法的義務であることがわかる。生産や業務の特性上、年度をまたいで労働者の年次有給休暇を手配する必要がある場合は、年度をまたいで手配することも可能だが、年次有給休暇を消化していない労働者の休暇を取得する権利は、年度をまたいだ後も完全に失われるわけではない。

「企業職工年次有給休暇実施弁法」では、「使用単位が労働者の年次有給休暇取得を手配したが、労働者が自己の都合で年次有給休暇を取得せず、書面で年次有給休暇を取得しないことを申し出た場合、使用単位は通常勤務期間の給与所得のみを支払うことができる 」と規定されている。すなわち、使用単位が年休取得を手配したにもかかわらず、従業員が自己都合で年休を取得せず、年休を取得しない旨を書面で提出した場合に限り、使用単位は通常の労働期間の給与所得を支払うのみで事足りるのである。

会社側は社内規定で、翌年3月末日(年度末)を跨ぐ年休は無効とすると定めているが、これは関連法律の強行規定に違反しており、無効である。使用単位が未取得の年休に対する賃金の支払い義務を免れるためには、使用単位が労働者の年休を手配していること、労働者が自身の都合で年休を取らない旨を書面で申請していることの2点を証明する必要がある。

この点について、使用単位は年初に各労働者の休暇日数を確認し、各労働者の所属部門内で業務バランスを鑑みつつ労働者本人と協議して年休計画を策定した上で、年休の取得状況を確認するよう実務を行うべきである。そうすれば、もし労働者が年休計画に従って休暇を取らない場合、その労働者は自己都合で休暇を取らなかったとみなされ、使用単位はその労働者へ通常の労働期間中の給与を支払うのみで済む。

二、年休に関する仲裁時効は一年

年休の「時効」は法律で禁止されているが、同時に労働者の権利も守らなければならない。この点においては、仲裁時効の問題が存在する。

「長江デルタ三省一市 困難な労働紛争事案審理に関する討論会紀要」第1条では、未取得の年休に対する報酬に関する労働者と使用単位との紛争について「未取得年休に対する報酬の支払いは、使用単位が履行すべき法定補償義務である。使用単位は未取得の年次有給休暇分の報酬を労働者へ支払う義務があり、労働者の未取得年休に対する賃金の支払い請求は『中華人民共和国労働争議調停仲裁法』第2条に該当することから、労働争議仲裁委員会が受理するものとする」と定めており、また請求時効の起算日については、「中華人民共和国労働争議調停仲裁法」第27条第1項に、「請求時効は、年休を取得すべき年の翌年1月1日に起算する。但し使用単位が労働者の同意を得て、生産または仕事の必要により年をまたいで労働者の年休を手配したときは、請求時効を翌年1月1日まで延長し、また労働関係が解除または終了したときは、労働関係が解除または終了された日を請求時効の起算日とする」とある。

未取得年休に対する賃金の支払いは、使用単位が労働者へ補償しなければならない法定義務である。未取得年休への補償か否かの判断は、その名称ではなく、法的な性質に基づく。労働の報酬とは、労働者による労働の対価である賃金のことであるが、年休は労働者の休息権の具現化であり、未取得年休への補償未取得の年休に対する給与の200%の通勤給与は労働者の休息権に対する金銭補償であって、労働者の固有の労働報酬の一部ではない。

言い換えれば、年休の報酬には「賃金」という言葉が使われているが、厳密には賃金ではない。未取得年休に対する「賃金」は労働報酬の範疇に入らないことから、その請求には通常の時効、すなわち労働者が自分の権利が侵害されたことを知った、または知るべきであった日から1年間が適用されるべきである。

但し、未取得年金請求の時効が1年であるからといって、仲裁時に労働者が1年分の未取得年金の補償しか受けられないわけではないことに留意する必要がある。労働者が未取得年休に対する補償金を請求する場合、前年度の未取得年休に対する補償金は前年度末日に使用単位から支払われているはずであるから、訴訟の時点では1年の仲裁時効は経過しておらず、当年度の年休については、法律上請求する権利があり、仲裁時効も経過していない。 したがって、仲裁を申し立てる際に労働者がいつでも請求できる年休給与は、前年の年休と当年の年休とすべきである、すなわち、労働者は2年分の年休給与を受け取る権利を有する可能性があるという事である。

本件では、2018年10月30日に会社側が牛氏との労働契約を解除し、2018年11月7日に牛氏が仲裁を申請したことから、2017年1月1日から2018年10月30日までの期間の未取得年休分の「賃金」を求めたのである。

また、生産上または業務上の必要から、使用単位が労働者の同意を得て、年をまたいで年休を手配したことが事実であれば、請求の時効は翌年1月1日まで延長される。 労働者が、使用単位が本人の同意のもとに年をまたいで年休を手配したことを証明できれば、未取得の年休について最大3年分の「賃金」を請求できるのである。