【判例】使用単位は、労働者の同意を経ず一方的に労働者の年次有給休暇を手配できるか?(2022年11月30日)
●案例:
張氏は2019年9月18日某不動産会社へ入社し、設計主管の職に就いていたが、会社側は2021年11月26日、張氏が職責に堪えないことを理由として一方的に張氏との労働契約を解除した。張氏は在職期間中に一度も年休を取得していなかったことから、労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ2020年の未取得年休10日分と2021年の未取得年休9日分の賃金の支払いを求めた。
審議において会社側は、「外地(地方)の従業員へは、毎年春節前に10日多く休暇を与えているが、これは年次有給休暇である」と主張した。これに対して張氏は、「年休取得日は会社側が決めたものであり、自身で決定して申請した休暇ではないので、年次有給休暇に当たらない」と反論した。
会社側は年休期間中、張氏へ賃金を支払っていたことを証明するために、張氏へ向けた年休取得通知書と給与明細を証拠として提出した。張氏は天津市の社会保険料の納付証明書を提出し、張氏は実際に合計9年2ヶ月間社会保険料を納付していた、すなわち年休を取得する資格を有することを証明した。
労働人事争議仲裁委員会は審議の結果、張氏が既に年休を取得していることを認め、張氏の訴えを退けた。
●分析:
「従業員年次有給休暇条例」第5条には、「使用単位は生産と業務の具体的な状況に応じて、労働者自身の希望を鑑み労働者の年次有給休暇を手配しなければならない」と定められている。この条文から、労働者には年休を取得する権利があるものの、労働者が使用単位へ年休を申請するだけでなく、使用単位が率先して年休を手配する方法も認められていることがわかる。労働者の意志はあくまで要因のひとつであり、必須要因ではないことから、この規定は、労使双方に労働関係が存在する限り、使用単位は自らの経営状況に応じて労働者の年休を手配する法的義務及び権利を有することを示している。なぜなら年休制度は、労働者の休息権を保障し、労働能力の維持・回復のために長期間の休息・休暇を享受できるようにすることが目的であるためである。ゆえに、年休をいつ手配するかはともかく、休暇の取得が保証されていれば、その目的は達成されると言える。使用単位が労働者の年休を手配するときは、労働者の自主性を尊重しつつ、使用単位の正常な労働秩序に鑑み、労働者が法律に従って休暇を取得できるよう双方話し合って手配する必要がある。このことは、企業の秩序ある生産と運営にも資するものである。
本案件において、会社側が春節前に年休を手配し、張氏へ年休を使用させている。会社側は確かに張氏の年休を一方的に手配しているが、労働者へ年休を取得させていることは事実であり、また年休中も賃金が支払われていることから、会社側は規定に基づき年休を運用したと言える。張氏は天津市への合計9年2ヶ月間の社会保険料を支払ったことを証明している。この点にについて「職工有給休暇条例」第三条では「労働者の勤続年数が累計満1年以上満10年未満であるときは、5日間の年休を取得できる」と定めており、また「企業職工有給休暇実施弁法」第十二条は「使用単位と職工の労働関係が終了した時、未取得の年次有給休暇があるときは、未取得の年次有給休暇の日数をその年の勤務日数に換算し、未取得の年次有給休暇に対する給与を支払うものとする。但し、一日に満たない部分は切り捨てとする」としている。当該規定から張氏の年休を「(当年の使用単位で勤務した暦日数÷365日)×労働者が年間を通じて権利を有するべき年休日数-当年に手配した年休日数」という式で計算すると、会社側が2021年11月26日に張氏との労働契約を解除した段階で2021年の張氏の年休は4日となり、また過去に取得可能であった年休日数は2020年、2021年ともに9日であったが、会社側は毎年春節前に10日間の年休を手配していたため、張氏は取得できる年休を超えた日数について年休を取得したこととなる。一審はこれらを総合して、張氏の訴えを退けたのである。
「中華人民共和国憲法」第43条は、「中華人民共和国の労働者は休息する権利を有する」と規定しおり、年休は、憲法が国民に与えた基本的権利である「休息権」に基づき誕生したものである。労働者の権利意識の高まりとともに、年休に対する注目も日増しに高まっている。使用単位側は、労働者の休暇取得の権利を十分に尊重・保護し、その権利の実現を支援しなければならず、また労働者側も、権利意識を高め合理的に権利を主張するとともに、積極的に使用単位と協力して年休の調整を行い、使用単位と労働者の「Win-Win」の関係を実現しなければならないのである。