【判例】使用単位が女性労働者が妊娠した事実を知らずに労働契約を解除した場合、違法な労働契約の解除となるか?(2022年12月30日)
●案例:
蔡氏は2019年3月、某演劇会社へ入社した。蔡氏は社内でキャスターを務めており、労使双方は2年間の労働契約を書面で締結していた。2021年2月、会社側は蔡氏との労働契約を延長せず契約満了とすることを決定した。蔡氏はこれに異議を示さず、2021年3月、会社側と蔡氏との労働契約は終了した。
しかしほどなくして、蔡氏は労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、在職期間中に妊娠の診断を受けていたことを理由として、会社側へ雇用の継続を求めた。会社側はこれに反論し、労働契約を終了させた時点で蔡氏の妊娠の事実を知らなかったことから、労使双方の労働関係は終了しているとして、雇用の継続に同意しなかった。
労働人事争議仲裁委員会は、蔡氏の請求を認めた。
●分析:
「中華人民共和国労働法」「中華人民共和国労働契約法」「中華人民共和国及び児童の権益保護法」等の関連規定では、使用単位は女性労働者の妊娠、出産、授乳期間(以下三期間という)中の女性労働者に対し、当該女性労働者が雇用契約の解除を申し出た場合または使用単位の規則に著しく違反した場合を除いて、一方的に当該女性労働者との労働契約を解除してはならないとされている。また、女性労働者が労働契約満了時に三期の状況にある場合は、該当する状況がなくなるまで労働契約を延長しなければならず、使用単位が法律に反して三期にある女性労働者との労働契約を解除または終了した場合、使用単位は労働契約の履行を継続するか、賠償金を支払わなくてはならない。
使用単位との労働契約が終了した女性労働者が、労働関係の存続中に妊娠したと診断されていた場合が、使用単位が主観的かつ故意に労働契約を解除したか否かを十分に考慮しなければならない。労働者が労働契約の終了前に妊娠の事実を使用単位に告げないまま、使用単位が労働契約を終了させ、これに対して労働者が異議を唱えなかった場合、すなわち使用単位が主観的かつ故意に行動しなかった場合は、違法な労働契約解除に該当せず、これに対する賠償金を支払う必要はない。しかし関連法律では、三期に該当する女性労働者との労働契約は、該当する状況がなくなるまで延長しなければならないとされている。すなわち労働契約を継続するか否かは、使用単位が女性労働者の妊娠の事実を認識しているかどうかではなく、女性労働者の妊娠の事実そのものが前提となっているのである。以上のことから、使用単位は違法な労働契約の解除に対して賠償金を支払う必要はないものの、女性労働者が妊娠中であることを知らないままに労働契約を解除していた場合は、労働契約を継続する必要がある。
本案件において会社側は、事前に蔡氏へ労働契約の満了と労働契約の更新の意思がないことを伝えていたが、蔡氏はこの間妊娠の事実を会社側へ伝えておらず、また労働契約の終了に異議を唱えなかったので、会社側と蔡氏との労働契約の終了に過失はなかったと言える。
しかし、労働契約の解除を決定する前に蔡氏は妊娠しており、蔡氏は妊娠の事実を意図的に隠していなかったことから、労働争議仲裁委員会は蔡氏の労働契約の継続履行請求を支持したのである。