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【判例】既に離職を申し出た労働者を、後から紀律違反で解雇することはできるか?(2023年1月18日)

●摘要:

時代の進化に伴い、労働関係や雇用形態が変化を遂げる中、近年の労働争議は多様化・複雑化・集団化の様相を見せている。 このような変化や発展は、司法制度に新たな試練を与えるだけでなく、すべての使用単位と労働者の権利と利益に現実的な影響を及ぼすものである。

とはいえ、労働争議が新しい時代を迎える中にあっても、その争いの中心にいるのが労働契約の解除や終了をめぐる労働争議であることに疑いの余地はないだろう。上海市のある地区法院(地裁)が昨年発表した「労働争議裁定白書」によると、労働争議全体の66.3%が労働契約の解除や終了に関するものであった(仲裁庭が40.6%、地区法院が25.7%)。また 別の地区の仲裁委員会が発表した「2020年の労働紛争に関するビッグデータ」でも、労働契約の解除に関わるケースが全体の44%を占めており、同じ状況が示されている。使用単位は、潜在的な雇用コストや労働紛争を回避するためにも、この分野にもっと注意を払うべきであることは容易に理解できる。

●案例:

ある電子商取引会社の従業員であった斉氏は、会社側と同年9月1日から3年後の8月31日までの3年間の労働契約を結んでいた。斉氏は入社した年の双十一(独身の日)キャンペーンにおいて、商品の価格を誤って表示するという業務上の大きなミスを犯し、会社側に76,575.92元の経済的損失を与えてしまった。

労働契約書には、「乙(斉氏)が以下の行為を行ったときは、甲(会社側)はこれを重大な紀律違反とみなし、経済補償金を支払うことなく乙との労働契約を解除する:(15)過失、作業ミス、商品の保管不良、社内規定違反により、会社側へ1万元以上の損失を与えたとき」とあった。斉氏はこの条項に違反したことを知りながら、同年12月30日、翌年2月1日を離職日とする退職願を会社側へ提出した。 会社側は同日斉氏と面談し、「離職面談記録票」に署名した。

しかし会社側からの書面による明確な回答がないまま30日が過ぎ、斉氏は会社が退職願を承認しないのではと考えたが、一旦その考えを捨てて通常の日常業務を続けていた。しかし翌年2月9日、斉氏は意外にも会社側から「労働契約解除通知書」を受け取った。これを契機として、労使双方間に争いが生じた。

斉氏は、「『労働契約書』によれば、『労使のいずれかが本契約を終了または解除しようとするときは、その30日前に相手方に書面で通知し、最終出勤日について約定するものとする』となっており、自身はそれに従って義務を果たしたと思っていた。申請した離職日は2月1日であったが、会社側はこれについて何ら意思表示をしなかったにも関わらず、2月9日になって突然『労働契約解除通知書』を送付してきた事実は、違法な労働契約解除に該当する」とし、労働仲裁を申し立て、会社側の労働契約解除が違法であることの確認と経済的補償金の支払いを求めた。

結局、この労働紛争は仲裁庭、一審、二審において争われ、仲裁委員会及び法院は、会社側へ斉氏に対し労働関係の違法な解除に対する賠償金を支払うよう命じる判決を下した。

会社側は審議において、「斉氏は、労使双方間の労働契約において『乙は最終出勤日までに業務の引継ぎと離職手続きを完了させなければならない』と約定されていたにも関わらず2月1日以降も勤務しており、引継ぎの手続きを行っていなかったことから、2月9日に通知を発して労使双方間の労働関係が終了したことを斉氏へ督促したものである。したがってこの通知は、斉氏が主張するような一方的な労働関係の終了ではなく、斉氏の退職を確認、念押しし、早急に離職手続きを行うよう指示したものであった」とした上で、「12月30日に作成した『離職面談記録票』で斉氏の離職に同意していた」と主張したものの、それを証明する相応の証拠を提出しなかったため、一審、二審ともその反論を採用せず、最終的に斉氏の訴えを認める判決を言い渡した。

本案件の事実関係は複雑なものではなく、5,500元という損害賠償金は使用単位にとって耐え難いものではない。しかし、この紛争から生じる問題は、使用単位の注意を促すだけの価値があるものである。会社側は、12月30日の面談で斉氏の退職に同意していたことを証明できなかったというだけで敗訴に至った。しかし、本案件から学べるより重要な教訓は、労働者が退職願を提出したときに、使用単位がどのように対応すべきかという点にある。

●分析:

焦点一:労働者が法に基づき30日前に離職を申し出た場合、使用単位はこれを拒むことができるか?

このような場合においては、使用単位に拒否権はないと考えられる。

「労働契約法」第37条には、「労働契約は、労働者が使用単位へ30日前に書面で通知することにより終了させることができる。試用期間中の労働者が、3日前までに使用単位に対し離職を通知したときは、労働契約を終了させることができる」とある。この条文から、労働者の退職権は一方的な形成権であり、使用者のイエス、ノーという返答に依存しないことが明らかである。労働者の通知が使用単位へ届けば、それだけで労働契約の終了の効力が発生する。

但し、当該条文の立法趣旨は労働者の権益保護のみを意図したものではない。確かに使用単位は労働者の離職通知に対して「ノー」とは言えないが、同法が30日前の予告義務を課していることは、実際のところ使用単位へ権利を付与する結果となっているのである。この「30日」という期間に、使用単位は当該労働者の離職手続きを進めなければならないが、一方で使用単位はこの「30日」の間に適切な代替要員を見つけ、業務の継続を確保することができ、労働力の不足による不必要な損失を避けることができるのである。

それでは、離職の意思表示をした労働者が、労働関係の継続を望み30日以内に離職の意思表示を撤回することはできるのか?

退職は往々にして、使用単位に通知された時点で効力を発揮する。退職の意思と同時に、あるいは退職の意思よりも前に、使用単位に退職の意思が伝わらなければ、労働者が意図した効果を発揮することはない。これは、世界中のほとんどの司法実務で採用されている見解である。労働者は、退職の申請が詐欺や強迫に影響されたという具体的な証拠を示さない限り、撤回権を一方的に行使することはできないのである。

更に、もし労働者が約定に反した場合、使用単位はどのように対応すべきであろうか?

これは、労働者の行動が使用単位へ客観的な損害を与えたかどうか、またその損害に対する補償のルールについて、労使双方が事前に合意しているか否かによる。 これに関連する法的根拠としては、「労働契約法」第90条、「賃金支払暫定規定」第16条、「『労働法』の規定に反する労働契約及び規定に対する補償措置」第4条が挙げられる。但し、使用単位が労働者の違反行為を主張する場合、使用単位が相応の立証責任を十分に果たさなければならない点には十分な注意が必要である。

焦点二:労働者が法に基づき30日前に退職を申し出た場合、労働関係の解除日はどのように確定されるか?

この問題を解く鍵となるのは、使用単位が労働者の退職願に同意したか否かという点だが、本案件において最も大きな争点となったのはまさにこの点である。本案件において斉氏は、離職を申し出た日から30日後の2月1日に労働関係が終了するという認識を持っていたが、会社側が2月2日になっても明確な退職への同意の意思表示をせず、また引継ぎの手続きも行わなかったことから、自身の退職願は失効し、労使双方の労働関係は引き続き継続されると考え、引き続き会社へ出勤していた。

もし退職について合意があった場合は、退職日について労使双方が合意している可能性が高い。但し、使用単位は本案件のように「離職面談記録票」だけで労使双方が退職日をこの日だと思い込むような事態は避け、適時明確な意思表示をもって対応すべきである。さらに使用単位が「退職日」以降も当該労働者との労働関係を継続させれば、最終的に労働紛争へと発展する可能性が発生するのである。

それでは、もし使用単位が、労働者の退職願に同意しない場合、退職日はどのように決定されるのだろうか。その答えは、使用単位には労働者の退職を拒否する権利はない、である。つまり、労使双方が退職日について合意に至らず、使用単位が労働者の退職をどうしても拒否するとした場合は、労働者が書面で退職を通知した日から起算して満30日目を労使双方の労働関係が終了した日とされる。

上海市高級人民法院の「労働争議事件における幾らかの問題に関する討論紀要」ではこの点を明確に規定しており、同「紀要」第12条では、「労働者が使用単位に対して、『労働法』第31条の規定に基づき労働関係を終了させる旨を30日前に書面で通知し、労使双方が労働関係の終了について合意した場合、その合意日を労働関係の終了日とする。合意に至らない場合は、労働者が書面により通知した日に起算して満30日後を労働関係の終了日とする」としている。

焦点三:労働者が法律に基づき30日前に退職を申し出た場合において、使用単位は(30日間労働者を留め置ける)法的権利を放棄し、労働者の即時退職に同意することができるか?それとも、使用単位は法的権利を厳守し、労働者へ必ず30日経過後の退職を求めなければならないか?

過去の様々な判例から、この2つの質問に対する答えは「イエス」であると言える。

上記焦点一及び焦点二の延長として、30日前という予告期間の立法趣旨には、使用単位の合理的な雇用管理の権利を保護する一面がある。それでは、この使用単位が有する権利の行使の限界をどのように定義すべきであろうか?

焦点三の前段の問題について、上海市の司法実務では、ほとんどが肯定的な見解を持っている。すなわち法院は、民事上の権利を享受している当事者は、制限を受けることなくその権利を放棄する権利を有すると判断しているのである。(労働者から離職の意思を示している場合)使用単位が残りの予告期間について労働者を使用する権利を放棄したときは、当事者間の労働契約は終了する。

四川省高級人民法院民事判決第一庭「労働争議事件の審理に関する若干の難題に対する回答」によれば、「25.労働者が『労働契約法』37条に基づいて労働契約の終了を書面にて使用単位へ通知した場合において、使用単位と労働者が業務の引継ぎ手続きを完了したときは、労働者の30日前の退職予告義務を免除する。なお、労働者が労働契約終了通知の撤回を申し立てた場合は、使用単位が同意する場合を除き、通常は支持されない」としている。この「回答」は、労働者の30日前の予告義務において保護される使用単位の権利の放棄を確認するだけでなく、労働者が退職の意思を何度も翻すことにより雇用秩序が不安定になることを避けるためにも、退職を申し込んだ労働者との引継ぎ手続き適時に処理するよう各使用単位へ注意を促す側面も持っている。

この条項の立法趣旨は、労働者の退職の権利を保障するものである。したがって使用単位は、労働者による退職の申し出から30日間、労働者と通常の労働関係を維持する権利を有すると言える。それでは、労働者がこの予告期間を守らず、即時退職を希望した場合、使用単位はどう対応すべきだろうか?

法律法規及び司法解釈内に、使用単位が退職の申し出をした労働者と30日間通常の労働関係を維持する権利の保護に関する十分な法的根拠を見出すことはできない。「安徽省労働契約条例」第47条には、「労働者が本規定に基づき、使用単位へ30日前の労働契約終了予告をしない場合、使用単位は労働契約の終了前に賃金1ヶ月分の予告手当を支払わなければならない」と定められている。この「条例」はこの問題について参照できる数少ない規定だが、当然安徽省以外では適用されない。

その他の地区では、使用単位が「違約金」という形で様々な種類の懲罰的損害賠償について従業員と合意するケースをよく見かけるが、これらは往々にして、法的要件を満たしていないとして法院より無効とされがちである。ゆえに、このようなケースにおいて使用単位にできることは、即時退職によって自身に生じる損害を法院にて証明することである。この点について「労働契約法」第90条は、労働者が法律の規定に違反して労働契約を終了させた場合、または労働契約で合意した守秘義務や競業避止義務に違反して使用単位へ損害を与えたときは、労働者はその損害賠償責任を負う」と定められている。

焦点四:労働者が法律に基づいて30日前の予告後に退職した後に使用単位が労働関係を解除した場合、どのような取り扱いになるのか?

この問題には一般的な答えはなく、ケースバイケースで議論されるべきであろう。

まず本案件に目を戻すと、使用単位が退職予告の30日を経過した後に斉氏との労働契約を解除した行為について、法院は有効だが違法であると判断し、結果損害賠償金が支払われているが、30日の予告期間経過後の雇用契約解除を認めない案件も多数存在する。その分岐点は、やはり労働関係の終了時期について合意があったか否かという点にある。

案件において斉氏は自ら退職を申し出、会社側との「離職面談記録票」に署名したが、会社側は斉氏の退職日が過ぎた後も数日間、依然として通常の労働関係を維持したまま、労使双方で退職手続きを行わなかった。すなわち労使双方間で退職時期について明確な合意が成立していなかったことは明らかであり、ゆえに2月9日に会社が行った通知は、一方的な労働契約の終了行為とみなされる。本案件で会社側は、30日前の予告期間内に斉氏の退職に同意したことを証明できなかっただけでなく、一方的な労働契約解除の事実及び法的根拠、すなわち斉氏が会社の管理体制に照らしていかに重大な違反をしたかを労働契約解除通知書に十分記載できなかったため、法院は会社側の行為を違法な労働契約の解除であると認定したのである。

総じて、すべての使用単位は労働者の離職を積極的に管理すべきであり、労働者が「労働契約法」第37条に則って退職を申請した場合、面談を行った上で、労使双方で約定した義務を履行し、離職に関する手続きを進めなければならないと言える。使用単位の消極的な対応は、正常な業務秩序に影響を与えるだけでなく、避けられるはずの災厄を招き、また雇用コスト増につながる可能性が生じることとなる。